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ブラジルにおけるエリクソンv. アップルの紛争について
2022 年12 月9 日,エリクソンとアップルは,世界中で行われていた5G に関するクロスライセンス紛争が和解によって解決することとなった。今回の和解は,米国及びドイツでの係争が進展したことにより,合意に至ったものであると考えられる。しかし,今回の紛争においてあまり認識されていないのは,最近の南米における紛争の動きが,和解に至るきっかけの一つであったということである。
エリクソンとアップルの特許紛争は,エリクソンの5G 関連特許のポートフォリオに対する適切なライセンス料の支払いについて両社が合意に達することができずに,ライセンス契約が更新されなかったにもかかわらずアップルが技術を使い続けたことで2021 年10 月以降に開始されたものである。この紛争は,いくつかの法域で展開された。エリクソンは,米国の連邦地方裁判所及び米国国際貿易委員会(ITC)において,アップル社に対する訴えを提起した。さらに,エリクソンはドイツ,英国,オランダ,ブラジル及びコロンビアにおいても訴訟を提起した。これに対し,アップルはドイツ及び米国で訴訟を提起し,また,米国特許商標庁(USPTO)の審判部において数十件の無効審判及び異議申立を行った。
和解に至った南米での動きは,まずコロンビアにおける当該紛争の進展である。2022 年7 月,ボゴタの裁判所(Juzgado 043 Civil del Circuito de Bogotá)は,アップルがエリクソンの5G の標準必須特許(SEP)を侵害していると判断し,アップルがコロンビアで5G を利用するiPhone 及びiPad の輸入・販売することを禁止する判決を出した。また,同裁判所は,アップル社に対して,世界の他の場所で訴訟差止命令(anti-suit injunction)を求める行為を禁止する差止命令(anti-anti-suitinjunction)を出した。
ブラジルでは,エリクソンが,アップルが5G に関する3 件の特許権を許可なく使用したことに基づき,差し止めと損害賠償を請求する訴訟を起こした。エリクソンはリオデジャネイロ州裁判所に仮処分を請求したが却下された。エリクソンは当該判決を不服として即時抗告を行い,リオデジャネイロ高等裁判所は仮処分を却下したリオデジャネイロ州裁判所の決定を覆し,差止の仮処分請求を認めた上に特許の使用料金に関して暫定的に年額2 億米ドルの損害賠償額を設定した。アップル社はリオデジャネイロ高等裁判所の判決を不服として上訴し,ブラジル司法最高裁判所(STJ)で審議されることになった。
和解の3 日前の12 月6 日,ブラジル司法最高裁判所(STJ)が標準必須特許(SEP)(及び5G)について初めて審理した。ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,標準必須特許(SEP)の権利者が差止の仮処分を請求することを可能と認めた。ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,リオデジャネイロ高等裁判所がアップルに対して下した仮処分命令が適法であることを確認した。それによって,ブラジル最高裁判所(STJ)は,アップルに対し,ブラジル国内における5G 携帯端末の販売の差し止め,もしくはエリクソンに端末1 台につき3 ドルを直ちに支払うよう命じた。なお,ブラジル司法最高裁判所(STJ)が設定した端末1 台につき3 ドルという金額は,従前の契約に基づいて可能となる金額から定められているが,エリクソンが契約更新時に求めた5 ドルよりは低い金額となっている。この結果,エリクソンが勝訴したリオデジャネイロ高等裁判所の判決が出た2022 年4 月以降,アップルがブラジルで販売したiPhone 及びiPad 1 台につき3 ドルの金額を遡って支払わなければならないとなるはずであった。ブラジルにおいては,アップルが2020 年に発売したiPhone12から5G 技術が導入され,iPad の場合は,2021 年に発売されたiPad Pro から5G が利用できるようになっている。
ブラジル司法最高裁判所(STJ)の論理的根拠は,標準必須特許(SEP)に対して差止請求の仮処分を認めない理由はなく,FRAND 宣言を差止命令による救済に影響を与えない契約法の問題としてとらえるべきであるとした。ただし,エリクソンは,ブラジルの裁判所によるロイヤリティの設定を望んでおらず,新たなライセンス契約が締結されるまでの間,侵害を差し止める決定を求めていただけであった。しかし,ブラジル司法最高裁判所(STJ)の判決によれば,アップルは,ブラジルにおけるエリクソンの特許の使用について補償しなければならないとした。結果的に,ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,差止命令がホールドアウトを防ぐためのツールになるということを示したことになる。侵害訴訟において最終的に支払われる損害賠償だけでは,標準必須特許(SEP)に関する適切な救済手段とは考えなかったのである。
現在,ブラジルは世界第6 位のスマートフォン市場である。従って,この決定がエリクソン社に和解を成立させるための更なる動機を与えたと言っても過言ではない。また,ブラジルでは標準必須特許(SEP)の差止請求(及び差止請求の仮処分)が認められる可能性があることにより,標準必須特許(SEP)に関わる紛争に関して重要な場所に
なりえる。事実,エリクソンとアップルの紛争だけでなく,最近ではノキアがオッポと,Vringo がZTE と,DivX がサムスンとTCL との紛争においてブラジルが重要な場所となっている。2012 年から2019 年にかけて,ブラジルにおける標準必須特許(SEP)の侵害に関する訴訟はたった6 件しかなかった。一方,2020 年から2022 年にかけて,8 件の標準必須特許(SEP)侵害訴訟が提起されおり,ブラジルがグローバルなFRAND 訴訟に関して影響を与える地域になりつつある。
ブラジル議会がサイバー犯罪条約への加盟を批准
ブラジル議会の2021年12月21日の公報では、「サイバー犯罪に関する条約」の条文を含めている立法令37/2021が制定されたことが明らかになり、それによってブラジル立法側により批准が完了されました。「サイバー犯罪に関する条約」は、2004年から施行されており、個人情報保護とオンラインでの児童ポルノや著作権侵害を含むサイバー犯罪に関する対応を取り決める国際条約です。「サイバー犯罪に関する条約」では、加盟国の協力を促進するメカニズムをもたらすことで、インターネット上で行われる犯罪の対策を目的としています。
サイバー犯罪に関する条約は欧州評議会が2001年に発案したものですが、日本を始め、チリ、アルゼンチン、米国、コスタリカ、ドミニカ共和国など、EU圏外の国も加盟しています。条約の運用に際しては人権及び基本的自由の保護に関する条約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、その他の適応可能な国際人権文書の義務に即して十分な人権を保護する措置を比例原則に従って行うよう締約国に求めています。
ブラジル外務省によると、ブラジルがこの条約に加盟することで、ブラジル当局が外国の管轄下にある電子証拠にアクセスすることが効率化されるとのことになります。
商標の先使用権に関する意見書
2021年11月3日、ブラジル特許庁(INPI)の法務局長は、意見書No.43/21を発行し、商標における先使用権の適用に関しますガイドラインを公表しました。
当該意見書は、10年以上にわたって行われてきたブラジル特許庁(INPI)の解釈を明確にすることを目的とされています。本意見書は、特に行政無効訴訟において先使用権に基づく申立が認められます可能性を示唆しています。
ブラジル産業財産法第129条で規定されているように商標出願において「先願主義」が採用されています。つまり、先に出願した者に商標登録を認めますという考え方です。しかし、例外も設けられており、それは先使用権です。
ブラジル産業財産第129条第1項では、他の者が先に商標出願を提出したとしても、先願出願の出願日の少なくとも6ヶ月前に善意で商標を使用していたことが確認されれば、善意で商標を使用した者が後で商標出願をしたとしても先願出願よりも優先的に審査されます。先使用権は、同一または類似の商標を使用し、同一または類似の製品やサービスに関します商標が使用されました場合にのみ行使することができます。
ブラジル特許庁(INPI)の解釈では、先使用権は異議申立のときのみ、つまり先願出願が公開されてから60日以内に請求しますことが可能とされていました。ブラジル特許庁(INPI)のこの解釈は、何回か裁判所で争われていました。裁判所は、登録査定までであれば先使用権の請求が可能と認めます判決もあれば、他方、先使用権の請求は行政手続上の無効審判まで可能と認めます判決もあります。
本意見書No.43/21によると、ブラジル特許庁(INPI)の解釈を変更し、行政手続上の無効審判まで先使用権の請求の可能性を認めました。本意見書では、無効審判における先使用権の請求を禁止します規定が存在しありませんのと同様に、行政上の控訴(審判)において請求します制限も法律に存在していありませんことに基づいています。
本意見書No.43/21は既に執行されており、ブラジルにおける商標実務に大きな影響を与えますと考えられます。原文のものはこちらをクリックすることによって確認が可能です。
ブラジル特許庁が位置商標の制度の導入
2021年9月21日に公開された公報第2646号にブラジル特許庁(INPI)省令(Portaria)PR 37号(2021年9月13日付)を公表し、ブラジル産業財産法第122条に基いて位置商標の制度を導入することを発表しました。省令PR 37号は第5条によると2021年10月1日から施行されます。されに、2021年9月21日、ブラジル特許庁は位置商標の出願に関する追加説明のためにテクニカルノートINPI/CPAPD No.02/2021(Nota Técnica INPI/CPAPD nº 02/2021)を発行しました。
省令PR 37号の第1条によると、位置商標の登録は、出願の対象の商標が所定の物の単一かつ特定の位置に設置されており、当該位置での商標の設置が技術的または機能的効果を持たない場合に可能となります。よって、位置が特定できない場合、もしくは、位置に機能性がある場合、出願が拒絶されます。また、テクニカルノートの「3.2」では、位置の特定性は、位置そのものだけでなく、対象物における標識の割合を考慮して審査されると決められています。テクニカルノートの「4」では、対象物に設置される商標は、法律で認められる標識であれば、視覚的に認識可能な要素(例えば、単語、文字、数字、表意文字、記号、図面、画像、図形、色、パターン、形状、又はこれらの結合)によって構成することができると定めています。
第2条によると、省令PR 37号が施行する前にブラジル特許庁に提出された審査中の商標出願の種類については、位置商標の要件を満たしている場合に、出願の種類を「位置商標」に変更することができることにしています。変更申請は、省令の施行日から90日以内に行う必要があります。テクニカルノートの「10.1」については、商標出願の商標見本の変更があった場合、出願は再公開され、第三者による付与前異議申立の期間が改めて開かれることになります。
第3条によれば、位置商標の審査は、ブラジル特許庁内のシステム等に必要な調整ができるまでに始まらないと決めました。また、第4条では、位置商標の電子出願は、特定の法令によって規則されたから開始されるとしています。テクニカルノートの「24」によると、電子出願の規則ができるまでに、位置商標の電子出願は立体商標として提出すべきと定められています。
商標出願の記載等の詳細については、テクニカルノートの「6」によると、位置商標の出願に添付する商標見本には、商標の正確な位置と比率を表す見本を提供しなければならないと定義されています。追加の商標見本を提出することも可能です。また、「7」に基づき、商標見本に設置されている物は点線または破線で表現する必要があります。また、「8」では、位置商標の説明文書を提供しなければならないとしています。「9」によれば、位置商標の範囲が十分に明確でない場合には、オフィスアクションが発行されます。

審査は、主に(a)標識の識別性と(b)位置の識別性の2つの要素が考慮されて行われます。例えば、鍋の蓋の縁に色を塗ることは、識別力の位置ではないとしています。別の例では、コーヒーメーカーのハンドルに一文字(例えば「A」)を使用することは、その標識に識別力がないため拒絶される。商標が装飾的としか判断されない場合は、その商標には識別力がないと判断されます。
機能性の判断については、ブラジル特許庁は、以下の点を考慮されます。
- 対象物の使用を容易にし、その性能を助けるものであるか。
- より良い装飾的結果を得るために、装飾的の形状を隠す。
- 安全に使用できることを示すために、装飾的の重要な部分を強調する。
- 商品または役務を識別し、同一、類似または類似の他の製品と区別するという役割とは相容れない、その他の装飾的または技術的な結果を得ること。
位置の特定性については、装飾的の異なる位置に1つ以上の商標が設置された構成された場合は、位置商標として登録できません。また、割合が広すぎて適切な位置を特定することができない場合も位置商標として登録できません。
ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・判決とその効果について
2021年4月末から5月にわたって、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所(STF)は、ブラジル特許制度の特徴の一つである特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて審理を行っていました。本件の違憲訴訟の背景についてはこちらの投稿にて説明し、そして、本件の仮処分の判決についてこちらの投稿に説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。また、審理についてはこちらの投稿に説明しましたので、ご確認ください。違憲に関する決定および遡及効に関する最終決定は、5月14日に公報に以下のように公開[i]しました。9月2日に判決の全文が公開しましたが、439頁もありますので、全文についての詳細な解説は別の機会で分析したいと思いますが、本稿では判決の効果について説明します。
ブラジル最高裁判所は、多数決でブラジル産業財産法(LPI)第9279/1996号の第40条補項を違憲としました。 遡及効に関する決定について、ブラジル最高裁判所は、多数決により、ブラジル産業財産法(LPI)の第40条補項を違憲とする判決の効力を制限する決定を下し、同規定に基づいて付与された期間延長を維持するために、本審理議事録の公表よって遡及効がない(ex nunc)としました。したがって、第40条補項によって既に付与され、現在も有効である特許の有効性は維持されるが、次のものについては除外されます。(i)違憲の主張が含まれている2021年4月7日(本訴訟の仮処分の一部が認められた日)までに提訴された訴訟に関わる特許、及び(ii)医薬品及びプロセス、メディカルデバイス及びヘルスケアで使用するための材料に関連する特許であって期間延長が認められていたものについては、いずれの場合も遡及効(ex tunc)が働き、ブラジル産業財産法(LPI)の第40条補項に基づいて認められた期間延長が失われ、法律第9,279/1996号(ブラジル産業財産法(LPI))の第40条の部分で設定された特許の有効期間に従い、該当特許の期間延長の結果として既に生じていた具体的な保護の効果は失われます。
よって、ブラジル産業財産権法第40条補項が憲法違反になりました。ブラジルでは、意見訴訟の仕組みのことで、判決後の改正が必要ではありませんので、最終決定は公表してから特許権の存続期間を最低10年保証(実用新案権は7年)の特例がなくなりました。つまり、5月13日以降に登録となる特許は出願日から20年の存続期間になります。また、例外として、違憲判断が遡及適用される範囲は(i) 技術分野を問わず、仮処分の日である2021年4月7日までに提起された無効訴訟で、産業財産権法第40条補項の違憲性が争われている特許、または(ii)「医薬品、製法、ならびに健康目的で使用される装置および/または材料」に関する特許、に該当する登録特許になります。
ブラジル特許庁(INPI)の2021年5月18日では、遡及適用される範囲となる医薬品および医薬的な方法、および健康目的で使用される機器および/または素材に関する特許権(以下、「医薬品および医療機器等に関する特許権」と略記)への対応についても明記されました。医薬品および医療機器等に関する特許権は、以下の基準に基づき特定されます。対象の特許権は、官報への掲載および存続期間が変更された特許証の再発行により通知されます。
- 1. 事前承認を得るためにブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)に送られた特許権
- 2. 国際特許分類(IPC)が A61B, A61C, A61D, A61F, A61G, A61H, A61J, A61L, A61M, A61Nまたは H05Gである(世界知的所有権機関 (WIPO)により医薬品に関連する技術とされている)特許権
- 3. IPC分類が A61K/6, C12Q/1, G01N/33またはG16Hである特許権
- 4. 判決が code 19.1 で公表された特許権
- 5. 追加証明書
上記の基準に該当した場合に、特許存続の修正に関する通知(通知コード16.3)が出されますが、その通知が公表されてから60日以内にブラジル特許庁(INPI)に対して上記の基準の該当性を争うために不服申立を提供することができます。不服申立が認められた場合、存続期間は元の期間、すなわち特許付与日から10年に再変更されます。不服申立が認められなかった場合、存続期間の短縮は維持され、不服申立の却下は官報で通知されます。不服申立の却下に対しては、審判が可能です。
ブラジル特許庁(INPI)が既に5回に遡及適用の対象となる医薬品および医療機器等に関する特許権のリストを公表しました。つまり、以下の5回にブラジル特許庁(INPI)は違憲訴訟の影響を受け、存続期間が短縮された登録特許のリストが公表されました。
- 2021年5月18日の公報第2628号に、ブラジル産業財産法第229-C条による事前承認を受けた3,341件の医薬品関連特許。
- •2021年6月1日の公報第2630号に、世界知的所有権機関(WIPO)の基準によると、医薬品に関する技術に該当する2,114件の登録特許。
- 2021年6月22日の公報第2633号に、国際特許分類(IPC)のA61K/6、C12Q/1、G01N/33、及びG16Hのいずれかに分類された97件の特許。
- 2021年7月6日の公報第2635号に、複数の根拠に該当する496件の特許。
- 2021年8月10日の公報第2640号に、追加証明書(ブラジル独特の制度であり、進歩性を欠く場合であっても、発明の内容に加えた改良又は進展を保護するための出願形式のこと)の5件。
ブラジル特許庁(INPI)がまたさらに件数を出す可能性がありますので、モニタリングが必要になります。
また、複数の権利者がブラジル特許庁(INPI)に対して訴訟を提訴しています。そのような主張では、ブラジル特許庁(INPI)による審査が遅かったことで、存続期間の修正を請求しています。特に、ANVISA(衛生監督局)による事前承認の対象となった案件の場合は、ブラジル特許庁(INPI)とANVISAの間で、手続きの不安定があったために、事前承認の対象とならない特許の審査期間に比べて、存続期間の修正を求める訴訟が増えています。このような動きについてもモニタリングが必要になります。
以上、そもそも、世界中に特許法の規定が違憲であるか否か訴訟が珍しい上に、判決はブラジル特許制度に大きく影響を与えてきました。その響きはまだ続くと考えられますが、妥当な存続期間に関する議論については有益な論点を持ち上げた案件といえます。
ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・審理について
2021年4月末から5月にわたって、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所(STF)は、ブラジル特許制度の特徴の一つである特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて審理を行っていました。本件の違憲訴訟の背景についてはこちらの投稿にて説明し、そして、本件の仮処分の判決についてこちらの投稿に説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。
まず、審理の開始にあたり、報告担当裁判官を務めているDias Toffoli判事が、争点の対象となっている規定および違憲訴訟について、すなわち、本件の違憲訴訟(ADI)が、ブラジル連邦検察庁(MPF)によってブラジル産業財産法第40条補項について提起され、憲法第5条(XXXII)及び(LXXVIII)、第37条及び第37条6項、第170条(IV)及び(V)を根拠としていることが説明されました。続いて、Dias Toffoli判事は、連邦上院、共和国大統領内閣府、およびブラジル司法長官(AGU)の意見についてまとめて説明し、全ての意見書が特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項が合憲であり、それに伴い違憲訴訟違憲訴訟(ADI)が却下されるべきということでありました。最後に、Dias Toffoli判事が仮差止命令について説明し、裁判所が認めた15個のアミカス・キュリエの意見書が提出されていることを報告しました。
・アミカス・キュリエおよび訴訟関係人による意見
本件では、活発な議論が行われるために本件審理に対する様々なアミカス・キュリエの提出および訴訟関係人の参加が認められており、このような本件への幅広い参加者による関与が連邦最高裁判所(STF)に影響を与えたといえます。
Dias Toffoli判事による説明に引き続いて行われた審理において、ブラジル連邦検察庁(MPF)のAugusto Aras長官は、ブラジル産業財産法第40条補項により、無期限に特許期間が設定されてしまっているとし、その結果、特許存続期間からなる行政上の非効率性が社会に影響を与えているとし、さらに、特許期間のこの延長により、新型コロナウイルスのパンデミックを考慮するとさらに有害悪影響をもたらす可能性があると主張しました。その後、連邦検事長が口頭弁論を終了し、ブラジル産業財産法第40条補項の違憲宣言を求めました。
次に、ブラジル司法長官(AGU)が、「違憲訴訟(ADI)第5529号」の却下を求める口頭弁論を行いました。ブラジル司法長官(AGU)は、その理由として、違憲の判断を遡及して行うことで法的な不安定が生じることに加え、示された憲法上の規定に違反することはありません。比較法では、米国及び日本などのように、存続期間の延長が許される可能性があります。最近、ブラジル特許庁は出願の審査期間の短縮を目標にバックログ削減プログラムを開始しました。このようなプログラムが成功すれば、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項の適用は例外的なものになるでしょう。また、違憲性が認められた場合、製薬分野以外の技術分野も被害を受けることになります。ブラジルの企業、大学・研究機関、ブラジルの大規模な特許出願人も、違憲性を認める判決によって影響を受けることになります。連邦会計検査院(TCU)が第40条補項の見直しを勧めている一方、現在、第40条補項の改正を扱う法案が審議中ということも考慮すべきである」と主張しました。また、パンデミックに関して、ブラジル特許庁は、ウイルスに有効性を持つ物質を扱う出願の審査を早期化するための制度を設定していると主張し、ブラジル司法長官(AGU)は、下記を求めました。
-ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性についての宣言を要求
-代替案として、最終的な違憲性による既に付与された特許を維持し、パンデミック期間中は新型コロナウイルスに対して有効性のある製品や方法が補項条の対象から除外されることを要求
引き続いて、アミカス・キュリエに関する説明が開始されました。まず初めに、ブラジルAIDS学際協会(ABIA;代表:Alan Rossi Silva弁護士)は、健康問題の影響に基づいて、ブラジル産業財産法第40条補項を違憲とすることを求めました。次にアグロバイオ(代表:Liliane Roriz弁護士)は、ブラジルにおけるビジネス環境が悪化しており、2021年にいくつかの大企業が法的不確実性を含むいくつかの理由でブラジルにおけるビジネスを売却したり、ブラジルから撤退したと主張しました。更に、第40条補項は立法の権限内で対応可能なものであり、当該規定を改正することが立法によって行わなければなりません。また、審査バックログ対策のプログラムが実施されており、改正する必要性すらないため、ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性についての宣言を求める旨を主張しました。
ブラジル知的財産協会(ABPI;代表:会長Luiz Henrique do Amaral Silva弁護士)は、立法を通じて特許権存続期間の特例措置を無効にすることは法律上相応しくないとして、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。同様に、研究開発型製薬工業協会(INTERFARMA;代表:Gustavo Freitas de Morais)は、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。農薬安定性協会(ANDEF;代表:Rodrigo de Bittencourt Mudrovitsch弁護士)は、研究のインセンティブと適切な保護期間の関係性について主張し、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。
一方、ファインケミカル・バイオテクノロジー産業協会(Abifina;代表:Pedro Marcos Nunes Barbosa弁護士)は、ブラジル産業財産法第40条補項の規定は基本的に外国企業しか利用できないので、違憲とすることを求めました。
ブラジル産業財産権代理人協会(ABAPI)(代表者:Marcelo Goyanes弁護士)は、ブラジルの産業財産に関するバランスを考慮すると、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項は重要であるため、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。
ブラジルローテック協会(AB2L;代表:Otto Licks弁護士)は、ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性の宣言を求めました。また、AB2Lは、本件の問題の原因は、ブラジル特許庁の審査遅延であり、すなわち、第40条補項の制度は存続期間の延長を定める制度ではありません。存続期間の計算は確定されているが、法律上、利用可能な計算方法が2つあるだけということ。ブラジルの特許制度では、そのような規定が187年前から施行されている旨を主張しました。
ブラジル知的財産研究所(IBPI;代表:Felipe Santa Cruz弁護士)もPró-Genéricos(代表:Marcos Vinícius Furtado Coelho弁護士)も、パンデミックの状況およびブラジルの健康保険制度への負担に照らして、ブラジル産業財産法第40条補項を違憲とすることを求めました。
全国革新的企業研究開発協会(ANPEI;代表:Luiz Augusto Lopes Paulino)は、ブラジル産業財産法第40条補項が無効にされた場合、ブラジルにおける研究活動に影響が生じるとの理由で、合憲とするよう要求しました。
ブラジルの電気・電子産業協会(ABINEE;代表:Regis Arslanian)は、第40条補項が違憲であるとするこの度の紛争は医薬特許の問題から開始されたものの、違憲が認められた場合、電気通信や電力分野などの他の技術分野においても、何千件もの特許を失うことになり、ブラジルにおける5Gの実施に悪影響を与えることは間違いがないと主張しました。さらに、ブラジ特許庁の審査バックログ対策によって第40条補項の適用が減ることになるので、ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性についての宣言を求めました。
連邦公共弁護局(DPU;代表:Gustavo Zortéa da Silva公共弁護官)は、健康保険制度と特許制度では、健康へのアクセスに関する権限のほうが重要であると主張し、ブラジル産業財産法第40条補項を違憲とすることを求めました。反対に、米州知的財産協会(ASIPI;代表:Gabriel Leonardos弁護士)は、ブラジルの特許制度は最終的に健康保険制度に実質的な影響を与えず、比較法上も存続期間の特例措置という制度が他の国にも存在すると説明し、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。
クロップライフ・ブラジル(代表:Eduardo Hallak弁護士)は、第40条補項の制度は存続期間の延長に関する制度ではないと主張し、例外措置に過ぎないと主張しました。しかし、延長制度であったとしても、比較法では、米国や中国など、期間延長を行っている国の例があると説明し まし た。また、本件の問題意識は医薬に関するものであるが、農薬・バイオの分野にも全体的に悪影響を与える可能性があると主張し、ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性について宣言することを求めました。
アミカス・キュリエによる口頭弁論の終了後、連邦高等裁判所の11人の裁判官が意見を述べる機会が与えられ、11人の裁判官が意見を述べました。
・報告担当のDias Toffoli判事による意見
報告担当のDias Toffoli判事は、次のように自己の意見を述べました。まず、特許制度の有様を検討すると、特許権は時間的に制限されていることが特許制度の根本的な原則であり、それによって特許制度が技術の発展に貢献することを強調しました。次に、ブラジル特許庁による審査のやり方について説明しながら、特許の保護は出願を許可する決定から始まるのではなく、いったん特許が付与されれば、実質的な保護は出願日から遡って行われると述べました。そして、Dias Toffoli判事は、ブラジル産業財産法第40条補項は、産業財産法の立法過程において十分な議論がなされていなかったと説明しました。また、第40条補項が正そうとする問題は、ブラジル特許庁における審査バックログおよび審査遅延を補うことを目的としており、何年も解決策がないまま存在している問題であると主張しました。さらに、比較法では、ブラジル産業財産法第40条補項に相当する規定は世界に存在せず、第40条補項はTRIPSプラスの規定であることを説明しました。また、問題となっている条項の違憲性を認めても、TRIPS協定に違反することにはならないと述べました。
Dias Toffoli判事は、そもそもブラジル特許庁のバックログが「合理的な時間内に決定を行う」という原則(ブラジル連邦共和国憲法第5条、LXXVIII)と「行政の効率性の原則」(ブラジル連邦共和国憲法第37条)に違反していると主張しました。また、ブラジル特許庁における審査に関する問題とともに、長い存続期間を取得するために、審査を遅らせるような出願人による行為もあると述べました。この点について、ブラジル特許庁は、様々な技術分野によって平均の審査期間が異なる状況を考慮して、技術分野によって異なる対応が行われていると反論しました。さらに、Dias Toffoli判事は、連邦会計検査院(TCU)の報告書を引用して、ブラジル特許庁の審査遅延に対する対応が不十分であり、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項の存在がブラジル特許庁における当該問題に悪影響を与えていると指摘しました。Dias Toffoli判事は、このような理由から第40条補項を改正するためのコンセンサスがあると主張しました。Dias Toffoli判事は、比較法の観点から、ブラジルは世界で最も長い存続期間を付与している国であると説明しました。このことが、先進国ではないブラジルにとって、国内企業に過度な負担を強いることになり、国際的な競争においてもブラジル企業が悪影響を受けることになります。一方、外国の出願人は自国の特許制度よりも寛大に扱われることになると主張しました。
特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項と健康へのアクセスについて、Dias Toffoli判事は、医薬品分野以外の技術分野における特許制度の重要性に関するAB2Lのアミカス・キュリエの主張を認めながら、現行の産業財産法の規定は医薬品分野に特に影響を与えると主張しました。連邦会計検査院(TCU)の報告書に基づいて、特許期間の延長が統一医療システム(SUS)に大きな影響を与えることを示し、医薬品価格の上昇、公共支出や国民の医薬品へのアクセスに影響があると説明しました。また、このような状況は、新型コロナウイルスのパンデミックに対処する上で、この問題がさらに大きくなったと主張しました。特許存続期間の延長は、国の公衆衛生政策に直接的な影響を与え、国民の医薬品、公共政策、医療サービスへのアクセスに影響を与えるとしました。
Dias Toffoli判事は、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項は、特許の存続期間を不明実にしているので、法的確実性と憲法第5条(XXIX)に違反していると主張しました。また、出願人の戦略によっては存続期間を長くする事が可能であるとし、それにより社会の負担が変わることがあるため、憲法第5条(XXIX)に違反しているとしました。不当な競争上の優位性が生じないように、特許保護は明確な規則に従って与えられるべきとしました。また、Dias Toffoli判事は、付与されていない特許出願を保護するためには、ブラジル産業財産法第44条があり、それと第40条補項との共同適用により、特許保護の延長が生じているとしました。
Dias Toffoli判事によると、第40条補項は、知的財産の社会的機能(ブラジル憲法第5条第XXIX項、第170条第III項)、自由競争、消費者保護にも違反しているとしました。特許の存続期間は一定の期間に制限されているからこそ、その存続期間が満了した後、社会が特許に基づいて保護されていたものを自由に利用することができます。その関係性が極めて重要であり、第40条補項による制度により、付与されるまで特許の存続期間がいつ満了するのか分からないため、ビジネス活動に相応しくない不安定さをもたらすことになります。したがって、自由競争と消費者保護に違反することになります。
また、Dias Toffoli判事は、ブラジルにおける特許制度に関して「違憲状態」が存在するとして、次の4つの具体的な理由を挙げました。(i)BRPTOによる特許出願の審査遅延、(ii)ブラジル産業財産法第40条補項によって認められた「追加」の存続期間、(iii)他の国と比較してブラジルの特許存続期間が長いこと(iv)ブラジル特許庁の内部問題の解決ができていないこと。Dias Toffoli判事は、これらの理由はすべて、ブラジル特許庁が特許出願の審査に関する行政上の役割を果たしていないことが原因として生じているため、ブラジルの特許制度が機能していないと主張しました。このような状況にかかわらず、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項が存在することにより、ブラジルの特許庁における当該問題に悪影響を与えかねないと主張しました。
最後に、Dias Toffoli判事は、第40条第補項を違憲とし、違憲の判断をする場合は、原則として「ex nunc(遡及効がない)」の効果を与えることを提案しました。ただし、その例外として、当該判決は、期間延長が認められた医薬品および健康に使用するための方法、装置、材料に関する特許については、「ex tunc(遡及効がある)」を適用することを提案しました。
・報告担当以外の判事による意見
報告担当判事の意見陳述が終わると、他の判事が先任順位(着任が新しい判事から)によって意見を述べました。
Nunes Marques判事は、ブラジルの産業財産権にとってこのような審理が重要であることを強調しながら、次のように述べました。ブラジルでは、イノベーションの促進を確保するために、一時的な経済的独占利用による財産権が保証されています。しかし、発明者に与えるインセンティブとなる特許権と、社会が発明にアクセスする権利(パブリックドメイン)とのバランスを取りながら産業財産制度を考えるべきであるとしました。さらに、比較法上、存続期間の延長に関する制度(存続期間の調整(PTA)及び存続期間延長(PTE))は例外的に適用され得ることがある一方、ブラジル産業財産法第44条は出願から特許付与までの間についてある程度の保護を与えるため、ブラジルについては存続期間の延長に関する制度が不要となります。そのため自由競争を目指そうとするブラジルでは第40条補項による制度は相応しくありません。したがって、当該第40条補項は、法の適正手続き(第5条、LIV)と一時的な特権(第5条、XXIX)、自由競争(第170条、IV)、消費者保護(第170条、V)に違反しているため、違憲であると理解していると述べました。その上で、新型コロナウイルスのパンデミック対策に役立つ可能性のある医薬品、たとえばレムデシビル(Remdesivir)等、が第40条補項に基づいて存続期間が制定されていたので、現在、第40条補項による制度は相応しくないとしました。また、第40条はTRIPS協定第33条に基づいているが、第40条補項は過剰な保護を生み出していると指摘しました。そして、ブラジル特許庁の特許出願審査の遅延を解決するために政府が行動しなければならないと論じながら、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項は違憲であるとしました。
Alexandre de Moraes判事によると、特許権存続期間の特例措置に関する最も重要な問題は特許が登録になるまでに存続期間を確定することができないことです。それは、特許権の社会的な機能に大きな損害をもたらすとしますた。したがって、問題となっている条文は、効率性、合理的な時間内での意思決定、公平性の原則に違反しています。ブラジルが国として条約から受けた義務は、第40条の本文のみで満たしており、第40条補項の制度は不当な環境を作りだしており、ブラジルの法制度に相応しくない規定であるとし、違憲性を認める意見を述べました。しかしながら、報告担当判事が説明したブラジル特許庁における「違憲状況」については、現状では差ほど深刻ではないと延べ、問題は第40条補項による存続期間の不確実さがあるという点が違憲である旨を明らかにしました。
引き続き、Edson Fachin判事は、知的財産の保護は、社会に不可欠な製品の供給を上回ることはできないと主張しました。同判事は、特許保護は法の下では平等であり、一方では発明者を保護し、他方では新たな発明を奨励し、その発展を可能にし、発明の所有者が革新を続けること、あるいはその発明を完成させることを奨励するものであると述べました。その一方で、時間的な制限がある制度であることを繰り返し述べました。また、一般的には市場の自由が原則であり、産業財産権に対応する法制度は例外であり、社会的利益を含めた多面的な観点から検討すべきであると述べました。さらに、保護期間の不確実性は、基本的な権利、特に社会的権利や経済秩序に抵触すると述べました。有効期間に関する期間と確実性は維持されなければならないと述べました。特許権者の特権は、発明の集団的利用の権利と比較して考慮されるべきです。競争を維持するためには、知的財産の保護の行使が、その保護の利用範囲を超えることはできないと主張しました。競争の排除は、自由の根幹を揺るがすものであり、これを強化しなければならないと述べました。また、特許保護の有効期間を無期限にすることを制約する基本的な権利として、法的確実性の重要性を繰り返し述べました。最後に、ブラジル産業財産法第40条補項の違憲性を指摘した報告担当判事の意見に全面的に同意して締めくなりました。
Edson Fachin判事は、知的財産の保護は、社会に不可欠な製品の供給を上回ることはできないと主張しました。もちろん、発明家が自分の発明について投資した負担をカバーするために経済的な活動によって利益を得るためのインセンティブとなる機能が重要ではないとは言えないものの、このようなインセンティブには必然的に制限がなければならないとしました。自由競争は原則であり、特許制度は例外であるため、社会的利益を含めた多面的な観点から検討すべきであるとしました。社会はパブリックドメインに入る特許を検討しながら経済活動を企画することが可能であるため、特許の存続期間の不確実性は、産業活動を初め、様々なビジネス環境に悪影響を与えるとし、よって、確実な特許の存続期間を制定する制度がブラジルにおける特許制度には欠かせないとしました。特許権者の競争上の立場を維持するためには、知的財産の保護の行使が、その保護の利用範囲を超えることはできないとし、自由競争を守ることが優先されるべきとしました。したがって、ブラジル産業財産法第40条補項の違憲性を指摘した報告担当判事の意見に全面的に同意するという意見を述べました。
一方で、Luis Roberto Barroso判事は、合憲であるという意見を最初に述べ、本件を検討する際に、3つの重要な問題があると述べました。一つ目は、本条文が25年間にわたって施行されていることを考慮しなければならないこと。二つ目として、第40条補項は、ブラジル特許庁が特許出願の審査に10年以上がかかっているから問題となっていること。つまり、ブラジル特許庁には審査遅延について責任があること。三つ目は、第40条補項は政治的な立場で判断すべきか、それとも憲法上の解釈として判断すべきかということ。Luis Roberto Barroso判事は、イノベーションと研究の促進のために特許制度の存在が大きいと強調しながら、第40条補項の状況は一般規定である第40条の例外規定に過ぎないとしました。一方で、第44条の規定は出願から出願人・特許権者に対して保護を与えていないと主張し、保護は登録からでないと存在しないと強調しました。連邦最高裁判所(STF)の通説では、特許付与の前に存在する権利は特許を得るものの期待権にすぎないとし、それについて、特許出願中の侵害行為に対する差止請求が却下された判例を示しながら、そのような差止請求が却下されるのであれば登録までに保護が与えられていないとしました。ブラジル特許庁の審査バックログが米国や欧州連合に比べて大きいことを認識している一方で、ブラジル特許庁が審査期間を短縮していることを認め、バックログが解決されたら第40条補項の問題がなくなると述べました。健康へのアクセスに関する権利については、むしろ、医薬に関する研究が適切な状況で行われることも健康へのアクセスという権利の中に含められているとしました。したがって、Luis Roberto Barroso判事は、以下の理由により憲法違反はないとしました。(i)有効期間が決定されているため、一時性や法的確実性の違反はありあません。特許が付与されてから10年間です。ブラジル特許庁が遅れた場合、発明者は責任を負うことができません。(ii)出願が遅れた人は誰でも、つまり同じ状況であれば、同じ有効期間になるのでイソノミアの違反はありません。(iii)憲法自体が独占期間の付与を重んじているため、自由競争と消費者の権利の違反はありません。憲法上では、特許権は満了日のある存続期間に制限されるので、違反はありません。(iv)国家の客観的責任とは、まさに国家が引き起こした損害に対して社会的損失を負担することです。第40条補項の問題は憲法上の問題ではなく、議会で議論すべきものと考える。効率の面では第40条補項に問題があるかもしれないが、第40条補項が憲法に違反していないとしました。
Rosa Weber判事は、違憲性を認める意見を述べました。第40条補項により存続期間に不確実性が生じるため、ブラジルの社会的利益と技術的発展を阻害していると述べました。問題となっている条項の予測不可能性は、有効な特許期間を不確実にすることを可能にし、一時的でなければならないという知的財産権の基本的な概念を直接攻撃するものです。第40条補項により、特許の存続期間が不確実になることで、実質的に存続期間が確定しない特許を生み出すことになります。よって、問題となっている第40条補項は、違憲であり、特許制度の根本的な考え方にも違反していうといえます。第40条補項は、ブラジル憲法第5条(XXIX)、第78条および第170条(iv)にも違反するため、憲法の規定に適合していません。なお、Rosa Weber判事は、違憲性を認める一方、ブラジル特許庁に責任があることについては認めずに、どちらかというとAlexandre de Moraes判事の意見に近い意見をもっていると述べました。
Cármen Lúcia判事は、憲法上では特許の存続期間を一時的なものにすべきと制定しているため、産業財産法が既に25年もの間施行されているとはいえ、不確実な存続期間は憲法違反であると述べました。第40条補項に規定されている期間に存在する不確実性が憲法に違反しており、当該規定は不必要で不十分なものであるため、憲法で確立された原則に反する効果をもたらしていると考えていると述べました。Cármen Lúcia判事も、Rosa Weber判事とAlexandre de Moraes判事の意見に従い、違憲性を認める一方、ブラジル特許庁には責任がないと述べました。
Ricardo Lewandowski判事は、サンパウロ大学が主導する「Grupo Direito e Pobreza」(直訳すると「法と貧困問題グループ」)という学者グループが提出したアミカス・キュリエに賛同しながら、次のような理由から第40条補項が憲法に違反すると述べました。(1)ブラジルの特許存続期間は他の30カ国より長いこと。(2)ブラジル特許庁の審査官の人数は十分であり、第40条補項の規定が不要であること。(3)第40条補項は健康へのアクセスの阻害となります。(4)たとえば、米国の特許制度においても存続期間についてはブラジルよりも厳格であること。また、他のBRICS諸国においても第40条補項のような制度は存在しません。最後に、ブラジルにおいて存続期間が最も長い10件の特許のうち、9件は製薬業界のものであり、問題となっている条文の機能不全に疑いの余地はなく、消費者に過度の負担をかけていると結論づけました。したがって、第40条補項は、憲法の第5条(XXIX)、および第170条に違反し、貧しい人の医薬品へのアクセスについて悪影響を与えるものです。憲法第196条に規定されている健康に対する権利についても、当該規定により医療制度に過度の負担をかけることになるため、憲法第196条にも抵触していると述べました。
続いて、Gilmar Mendes判事は、産業財産に対する権利は、特にグローバル化された経済の中では、極めて重要な権利であると述べました。しかしながら、社会に不利益をもたらす行政上の審査遅延によって、憲法上の規定が損なわれることはないとしました。したがって、ブラジル特許庁が合理的な期間内に特許出願の審査を進めれば、第40条の一般規定が適用されて問題が生じません。しかし、連邦会計検査院(TCU)が提出した調査報告を引用しながら、医薬品の特許期間の延長がジェネリック医薬品の供給に影響を与え、ブラジル全体に深刻な損失を与えていると述べました。ブラジル特許庁が審査バックログを解決するための努力が欠けているとしつつ、審査請求のための期間やその他の出願人が任意に行う行為により、審査期間はブラジル特許庁だけにより左右することができるものではないと述べました。例外規定である第40条補項が原則的に適用されることが、状況的に違憲であり、その結果、第40条補項が一般規定として憲法に違反するものになっているので、報告担当判事の意見に従うと述べました。
連邦最高裁判所(STF)において最も長い期間着任しているMarco Aurélio Mello判事は、ブラジルが特許存続期間についてTRIPS協定に定められている存続期間よりも長い存続期間を与えていることが相応しくないと述べました。一般規定の第40条は、TRIPS協定又は欧州特許条約に準拠しているので十分であるとしました。特に、第44条の規定も存在しているため、第44条と第40条補項の両適用はブラジル特許制度におけるアンバランスを生み出すとしました。特に、自由競争を目指すのであれば、第44条と第40条補項の両適用は相応しくないです。ブラジ特許庁には責任がないとしながら、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項は不要であると述べて、当該規定が憲法に違反していると述べました。
最後に判事長を務めているLuiz Fux判事が合憲の意見を述べました。第40条補項は、単に最低限の実質的な保護期間を保証しているだけであり、憲法上は問題がないと述べました。憲法は合理的な時間内に意思決定を行うことを原則としており、行政機関の遅延は社会を害してはいけないとし、ブラジル特許庁がその原則を尊重していないものの、その負担を社会に転嫁してはならないです。また、Luiz Fux判事は、他の判事による第44条の解釈に同意せず、特許出願は登録になるまでは特許を得るための期待権にすぎないとしました。医薬品関する審査の遅延は、ブラジル特許庁とANVISAが原因であるとし、出願人の影響は少ないとしました。特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項を無効にすることは、ブラジル特許制度におけるアンバランスを生じさせるため、憲法上の問題はないとしました。
最後に、報告担当判事が論じていたブラジル特許庁の責任およびブラジル特許庁における「違憲状況」について全般的な審理が行われたが、Dias Toffoli判事は、最終的に当該問題意識については議会に伝えるだけで十分であると判断しました。さらに、Carmen Lucia判事はブラジル特許庁を管理しているブラジル開発商工省(MDIC)にも伝えるべきと提案しました。 そして、遡及効果についての審理に進み、最終的には報告担当のDias Toffoli判事が最初に提案した内容となっていました。つまり、(i)現在、違憲の主張が含まれている2021年4月7日までに提訴された訴訟に関わる全ての特許について違憲の遡及効があります。(ii)医薬・製薬・メディカルデバイスに関する全ての特許(連邦最高裁判所によるとおよそ3,435件)について違憲の遡及効があります。(iii)審査中の全すべての特許出願について、違憲の遡及効があります。
ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・背景について
現在、2021年4月時点で、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所 (STF)は、ブラジル特許制度の特徴となる特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて判断しているところです。本稿では、その違憲訴訟の背景を説明いたします。
ブラジルでは、特許権の存続期間は原則として出願日から20年、実用新案の存続期間は出願日から15年とされています(ブラジル産業財産権法第40条)。存続期間の延長は原則として不可能ですが、ブラジル産業財産権法第40条補項には存続期間の特別措置が設けられています。それは、特許の場合は登録後最低10年間、実用新案の場合は登録後最低7年間の権利期間が保障される規定です。したがって、特許の出願から登録までに10年以上かかった場合には、出願日から20年を超えて権利が存続することがあり、また、実用新案の出願から登録までに8年以上かかった場合には、出願日から15年を超えて権利が存続することがあります。
ブラジルでは、特許および実用新案の審査遅延は昔から問題となっています。その理由の一つは、ブラジル特許庁が独立的な財政を有しておらず、審査期間の短縮を含む審査レベルの向上に当たっては、ブラジルの議会にて定められた予算しか使えないからです。また、ブラジル特許庁の公務員雇用規則では、特許審査官になるために当該技術分野の修士課程以上の学位取得が要件となっているので、いくら予算があっても、人気の技術分野では審査官を雇うことが難しいということも理由の一つです。その関係で、現行のブラジル産業財産法が立法された1996年から、審査遅延の懸念に伴い、ブラジル産業財産権法第40条補項に対する特別措置が設けられました。
審査遅延の懸念があったとはいえ、立法された時点ではブラジル産業財産権法第40条補項の特別措置は実質的に例外規定となり、基本的にその規定に基づいて登録される案件はないだろうと予想されていました。しかし、2000年代にブラジル特許庁が直面した様々な問題により、審査遅延の問題がより酷くなり、現在、存続期間中の特許登録の46%が特別措置に基づいて付与された状況になっています。審査遅延が著しく酷かった2014年から2016年には、特許登録のおよそ7割が特別措置に基づいて登録されました。 第40条補項の特別措置が原則のように適用されることになりましたら、問題として取り上げられるようになりました。特に医薬・製薬の分野では、多くの人にこれは大問題としてとられました。
具体例として、2013年11月04日、ブラジルの ファインケミカル・バイオテクノロジー産業協会(Abifina)は、特別措置が違憲であることを主張するための違憲訴訟 (訴訟番号:ADI 5061)を連邦最高裁判所 (STF)に対して提訴しましたが、最終的に、原告適格がないことが理由で違憲訴訟が却下されました。原告適格の問題を解消するために、ブラジル共和国検事総長は2016年に、再度連邦最高裁判所(STF)にブラジル産業財産法の特別措置が違憲である旨を認めるための違憲訴訟(訴訟番号:ADI 5529)を提訴しました。
ブラジルの現行の憲法は、1988年に制定されました。114の項目から構成されており、複数の規則が細かく定められています。また、法律で定める厳密な規定と、抽象的な原則によって認められる解釈規定があります。この解釈の仕方はブラジル独特の法制度であり、広い解釈が認められるのは、ブラジルにおいては一般的なこととなります。ブラジル産業財産権法第40条補項の特別措置が違憲であると主張するに当たり、特別措置は、4つの憲法上の保護を受ける原則に違反すると主張されています。
- 特別措置に基づく存続期間が制度上認められるのかという問題、特許が付与されるまで最長の存続期間を知ることができないので、特別措置の存在が憲法第5条で保障されている法的安定性に違反しているということ。
- 特別措置に基づく存続期間を認められた特許が、通常の特許より長く保護されているので、延長された存続期間によって、憲法第170条IV項で保障されている自由競争の原則に違反していること。・特別措置では、案件ごとの登録存続期間が異なる可能性があるので、憲法第5条I項で保障されている法の下の平等の原則に違反していること。
- 特別措置が、ブラジル特許庁が効率的に審査業務を行わなくても済むことになるので、憲法第37条で保障されている公役の効率性の原則に違反していること。
本件の議題については、必然的にデリケートなトピックとなり、それに関する複数の意見(訴訟内においてアミカス・キュリエとしても)が挙げられています。また、本件は、ブラジル産業財産法に関する違憲訴訟が連邦最高裁判所(STF)で裁定されるのは初めてのことなので、かなり注目が集められています。連邦最高裁判所(STF)に適用されるブラジルの手続法によると、判決により以下のように2つの異なる結果がもたらされることになります。
- i) 連邦最高裁判所(STF)の過半数が10年の特許権の存続期間の合憲性を認めた場合、この条文が維持される。
- ii) 連邦最高裁判所(STF)の過半数が10年の特許権の存続期間が違憲であることを決定した場合、本規定は違憲と宣言される。
違憲訴訟の判決の効力は、原則として全てのの訴訟事件および行政事件(特許出願の審査を含めて)に影響を与えるため、連邦最高裁判所(STF)は、必要に応じて拘束力の調整をすることができます(違憲訴訟に関する法、法律9868/99第27条)。例えば、この規定が違憲と判断された場合、その拘束力は判決が公表された後に生じることとなり、原則通りであれば現在この規定によって特別措置が適用されている特許登録はすべて無効とされることになります。ただし、判決の拘束力が調整されることによって、判決公表前に特別規定が適用された権利については権利自体が無効とされることなく、原則的な存続期間(特許の場合は出願日から20年)に短縮されたり、あるいは引続き10年間の存続期間が保障されることもあり得ます。
ブラジル特許庁および政府は、2016年から様々なバックログ解消対策(PPHを含めて)を実施しているので、ブラジル産業財産法の特別措置が懸念事項となり、当該違憲訴訟への影響を与える可能性はさほど大きくないと主張しています。その理由としては、ブラジル特許庁および政府が、現行の主なバックログ解消対策のプログラムである予備審査(Preliminary Office Action)を通して、「2021年6月までにバックログの8割を解消する」ことを目指しているからです。
個人的には、ブラジル特許庁がバックログ解消に努めているのは間違い無いと感じていますが、「2021年6月までにバックログの8割を解消する」という目標が達成できるとは限らず、それだけで全ての審査遅延の問題が解決されるとは思いません。ブラジル特許庁が安定的且つ効率的な実務ができるようになるまで、ブラジル 産業財産法の特別措置は、健全な特許制度を確立するために必要な措置と言えるでしょう。
本件の審理は4月中に終わる予定ですので、ブラジルにおける特許制度について近年の最も影響力のある判決ですので、注目せざるを得ないものといえます。
ブラジル特許庁は特許要件を規制する特許審査基準第II部を決議第169/2016号を公布。
ブラジル特許庁は特許要件に関する特許出願の審査のための審査基準を実施することになった(総合的な審査基準の第ⅠⅠ部 – “Bloco IⅠ” -)2016年7月26日に決議第169/2016号を2016年7月26日に発効した。
ブラジル特許庁では現在3つの審査基準の特許出願の審査基準を実施している。 2013年4月には、ブラジル特許庁は決議第85/2013号を公表することによって、実用新案出願のための審査基準を制定した。2013年12月には、ブラジル特許庁は決議第124/2013号を公表することによって、特許出願の方式的な要件や出願の書き方についての総合的な審査基準の第Ⅰ部(“Bloco I”)を制定した。また、2015年3月には、ブラジル特許庁は決議第144/2015号を公表することによって、バイオテクノロジー分野の特許出願の審査基準を制定した。
さらに、コンピュータソフトウエア関連発明審査基準も存在する。その審査基準は2012年にパブリックコメントのために公開されたが、実施をする予定はまだ不明である。
決議第169/2016号のポルトガル語版はこちらからダウンロードが可能である。
ソース:INPI
Temer大統領代行に紹介されたブラジル産業財産庁「INPI」の業務改善のテーマ
INPIの業務改善は、ブラジルにおけるイノベーション強化に資するとして、「国家産業連盟」(「CNI」というブラジル国内で経団連に相当する団体)の中の一つの委員会である「イノベーションのためのビジネス動員」(「MEI」)が提案している主要な課題である。このトピックについて、7月8日にブラジリアにて、Temer大統領代行が参加したイベントで議論された。
MEI指導者委員会の会議は、ブラジリアにあるCNIの本部で行われた。CNI会長のRobson Andrade氏による管理の下、CNIが主催したイベントには、ブラジル国内で活動している大手企業150社のリーダーが集まった。

©Agência Brasil
またイベントには、以下の参加者らが出席した:ブラジル開発商工省「MDIC」からFernando Furlan副大臣;科学技術イノベーション・通信省「MCTI」からGilberto Kassab大臣;教育省「MEC」からJose Mendonca Filho大臣; ブラジル国立経済社会開発銀行「BNDES」からMaria Silvia Marques社長;そして、INPIからLuis Pimentel長官等。
イベント中に行われたプレゼンテーションにおいて、ブラジルの化粧品会社ナチュラより参加したPedro Passos氏は、国内にイノベーションを起こすには、INPIの審査期間を減少させる必要性があると訴えた。そのためには、INPIの業務改善を目指し、経済的なリソースを与え、人員を増やし、国内外における協力を高めなければならないと主張した。
イノベーションに関する議論において、CNI会長のRobson Andrade氏は、Temer大統領代行がイノベーションを促進するために必要な施策を支援する約束をした旨を述べ、Robson Andrade氏は、その施策の一例として、INPIの特許審査における時間の短縮を挙げた。
MEIはイノベーションの促進に向けた6点の計画を掲げており、その中の1点目が知的財産に関連するものである。
– イノベーションと産業財産の規制の枠組みの強化。
– イノベーションのための政府の枠組みの強化。
– イノベーションのための資金調達。
– イノベーションによるグローバル化。
– イノベーションのための人材育成。
– イノベーションができる中小企業の促進。
INPI長官は、ブラジル産業財産法20周年を記念したCNIインタビューにて、INPIにおける主な4つの分野の改善について説明した。
(1)過去の採用試験に合格した者の雇用による人員の増加;
(2)知的財産権の出願の審査における最適化と自動化;
(3)インフラの改善とブラジル産業財産法第239条に関わるINPIの経済的自律性を求めることによるガバナンスの改善;
(4)審査品質の向上、審査官の研修、および知財に関する意識向上のための国内および国際的な協力。
ソース:INPI
ブラジル特許庁はスポーツ品に関する意匠出願の優先審査を設定
今年で行われるリオデジャネイロオリンピックの関係で、ブラジルでは様々なスポーツ品が販売される予定である。それゆえ、スポーツ品の模倣品対策については意匠権が大きな役割を果たす。
ただし、ブラジル特許庁では意匠権の審査のバックログも、特許と同じく、問題である。ブラジルでは意匠権制度は無審査主義を導入しているが、登録後に実体審査を請求することができる。実体審査が行われたか否かという点は特に権利使用するときに考慮される。上記に照らして、ブラジル特許庁は決議第167/2016を制定し、意匠権の早期審査を導入した。早期審査を請求する要件は2つ。 1つ目は意匠出願・登録はスポーツ品に関するもの。 2つ目は出願が2016年6月16日までに行われたこと。早期審査の申請は2016年6月30日までに行わなければならない。
それはブラジル特許庁からの小さな対応とは言えるが、ブラジル特許庁はそもそも問題を意識して対応しようとしているのが良いことだと考えている。
それについてまたご質問がある方はお気軽にご連絡下さい。
ソース:INPI