ブラジル衛生監督局(ANVISA)がバイオシミラー規制改正案への意見募集を開始

ブラジル衛生監督局(ANVISA)の学術理事会(DICOL)は、バイオシミラーの製造販売承認(MA)を取得するための要件の改正案に対する意見募集を開始した(2023年第1206意見募集)。同要件は、現在ブラジル衛生監督局(ANVISA)の規則第55/2010号で規定されている。

 ブラジル衛生監督局(ANVISA)の学術理事会(Dicol)は、2023年9月27日に開催された第27回総会において、今回の意見募集を全会一致で承認した。メイルーゼフレイタス報告理事の投票(2023年の投票260番)によると、本改正案はバイオシミラーの開発と製造販売承認(MA)取得をより容易にするためのもので、ブラジル衛生監督局(ANVISA)の規則を外国の規制当局が適用する基準と調和させることを目的としている。

 本改正案は、ブラジル衛生監督局(ANVISA)がバイオシミラーに関する規制を改正するためのもう一つのステップである。ブラジル衛生監督局(ANVISA)は2022年11月、バイオシミラーの製造販売承認(MA)取得に関する課題について市場関係者から情報を収集するため、2022年第15意見募集を行った。これに対し、企業は主な阻害原因として次の点を指摘した:(i)ブラジル衛生監督局(ANVISA)が課す基準が他国に比べ厳しいため、ブラジルの規制が国際的なガイドラインと調和していないこと、(ii)要求される非臨床試験および臨床試験に関して柔軟性がないこと、(iii)国内市場で比較対象となる生物学的製品を入手することが困難である一方、国際市場における比較対象製品の選択と使用に関するガイダンスがないこと。

 さらに、ブラジル衛生監督局(ANVISA)は昨年7月、当局の代表者とバイオシミラー市場で事業を行う企業の代表との間で対話を行った。その目的は、2022年第15意見募集で寄せられた意見において指摘されたいくつかの問題点と、その可能な解決策について議論することであった。

 今回の改正案では、バイオシミラー企業が指摘したいくつかの問題点に対応した。例えば、非臨床試験や臨床試験の必要性を規定する第7条と第8条には、ブラジル衛生監督局(ANVISA)に提出された技術的・科学的な正当性の根拠が外国の規制当局のガイドラインに基づくものであれば、そのような試験は対象外とすることができるという規定が含まれている。

 最後に、比較対象製品/原産製品に関して、第4条は国際市場での購入の可能性を規定しており、これはもはや国内市場で入手できないことを条件とするものではなくなった。

 今回の意見募集期間は、2023年10月11日から2023年11月24日までの45日間となる。外国企業は直接ブラジリアにあるブラジル衛生監督局(ANVISA)の本部へコメントを提出することができる。

ブラジル特許庁の工業意匠ハンドブックの新版が2023102日に施行[1]

 ブラジル特許庁は、2023年9月12日付の連邦官報を通じ、工業意匠出願の審査ガイドラインの新版を定める決議第36/2023号を公布した。また、この決議は同日付でブラジル特許庁公報2749号にも掲載された。ブラジル特許庁はまた、ハンドブックの新版のドラフト版に対して提出されたパブリック・コメントが、商標・意匠・地理的表示の審査のための手順およびガイドライン改善のための常設委員会(CPAPD)によって受領され、分析、回答されたことも通知した。ブラジルの意匠実務は、ブラジル特許庁のハンドブックの新版によって大きな影響を受けることになった。主な内容は以下の通り:

・ハーグ協定

 決議第25/2023号によって規定されるハーグ協定に基づく工業意匠の保護のために確立された手続きは、このハンドブックの新版に含まれる。

・グラフィックインターフェース及びタイポグラフィファミリー

 動的および静的グラフィックインターフェース、アイコン、タイポグラフィファミリーは、新版のハンドブック項目の5.3.10および項目5.3.12に従って、工業意匠として保護される資格があるものと正式に規定された。

・ロゴとロゴタイプ

 ロゴを工業意匠として保護する可能性、あるいはロゴタイプを含む工業意匠を保護する可能性は、ハンドブック新版の項目5.3.9に規定されている。

・破線

 破線を含む意匠の提出は、新版ハンドブックの項目5.3.4.3で定めているように、破線によって表される要素は主張される意匠の一部とはみなされず、対応する工業意匠登録によって保護されないことを理解した上で認められる。

・複雑な製品の分離された部品

 機械的相互接続のない部品で構成される複雑な製品の工業デザインの各図は、主張する製品を構成するすべての部品またはコンポーネントの配置を提示しなければならない。

・DASコード

 出願人は、新版ハンドブックの項目5.2.2で定められた優先権書類の謄本に関する提出要件を満たすために、DASコードを提出することができるようになった。

ブラジル特許庁は2023年から2026年戦略計画を公表[2]

 ブラジル特許庁は3月27日(月)、知的財産国家戦略(ENPI)に沿った、様々なプロジェクトとその目標を含む、2023年から2026年の期間の戦略計画を公表した。戦略計画書は、ブラジル特許庁の決議第10/2023号によって正式に公表された。

 計画のメインな戦略目標は、以下の9つとなる:

1.産業財産権の付与及び登録における品質とスピードを最適化し、国際的に参考になるパフォーマンス基準を達成すること。

2.産業財産権の文化及び戦略的活用を推進し、ブラジルの競争力、イノベーション、発展に貢献すること。

3.ブラジルが国際的な産業財産権制度の段階に主役になることを強化する。

4.ブラジル社会ではブラジル特許庁の社会的価値に関する認識と理解を高める。

5.パフォーマンス及びサービス提供の向上に重点を置いたデジタル変革を深化させる。

6.サービス提供能力の近代化と拡大のための持続可能な資金を確保する。

7.増大する需要に対応し、サービス提供において高いパフォーマンスを維持するために必要な労働力の補充と維持を確保すること。

8.コストパフォーマンスの高い、効率的で持続可能なロジスティクスとインフラのサポートを提供する。

9.ガバナンス及びマネジメントの実務及び制度的関係を改善する。

 ブラジル特許庁は、上記9つの戦略目標に基づき、特許出願の実体審査(出願日から計算)を現在の6.9年から2年に短縮し(2026年)、商標登録出願の実体審査(出願から1次審査まで計算)を現在の10ヶ月から1ヶ月(2026年)、商標無効の行政手続を現在の42ヶ月から15ヶ月に短縮することを目標としている。

 各戦略目標には、詳細なプロジェクトが設定されており、設定されたガイドラインと優先事項の実施を具体化することを目的としている。いくつか目立つ点がある。

 ブラジル特許庁は、特許登録の品質と俊敏性を最適化するため、人工知能ツールの利用を含めて、特許審査手続きの一部を自動化する予定だ。さらに、大学など他の第三者機関と連携して、第三者による調査も実施する予定である。また、ブラジル特許庁の規範と、Global-PPHを含む優先権付与手続きの基準を更新する予定である。

 商標出願に関しては、産業財産法の改正の検討に加え、ブラジル特許庁は、商標の実体審査における調査(オフィシャルサーチ)を廃止し、絶対的拒絶理由のみを職権で審査し、相対的拒絶理由(先行登録)は第三者からの異議申立があった場合にのみ検討することを検討する予定である。異議申立手続きも簡素化される予定だ。また、商標の「二次的意味」を認識し、非伝統的な商標を登録するための手続きを実施する予定である。

 国際的な課題では、ブラジル特許庁は、ブラジルが世界の知的財産協定や条約に参加することを優先し、工業意匠登録のためのハーグ協定の運用にまず重点を置く予定である。戦略的アジェンダには、メルコスール諸国を中心とした知的財産の地域統合のためのインセンティブや、海外での地理的表示の登録に関するリスボン協定へのブラジルの加盟に向けた研究の準備も含まれている。

ブラジル特許庁、戦略計画の第1期に準拠した目標及びプロジェクトを含む「アクションプラン2023」を公表[3]

 ブラジル特許庁(INPI)は、2023年-2026年戦略計画の発表から約1か月後、決議第15/2023号を通じて、4年間の戦略計画の実施初年度に定めた業績指標及びプロジェクトを提示する「アクションプラン2023」を公表した。

 4月末に公表された文書において、ブラジル特許庁は予算の制限が大きな課題であることを強調し、2022年に比べて技術決定に関する数値目標をいくつか減らし、専門家不足のために決定プロセスの時間を延ばした。ブラジル特許庁は、2023年の年間予算法の裁量的支出予算額である5,200万ブラジルレアルでは、技術的インフラの近代化、審査能力の拡大、サービスの質の保証に必要な投資を行う上での足かせになると述べている。ブラジル特許庁は、2023年は慢性的な予算制限のシナリオに基づいてアクションプランを達成するための転換点となる年になると考えている。

 この文書では、次の4つの戦略的プロジェクトが取り上げられている:

・特許の流れの自動化:プロセスマネージメント(BPM)の手法を取り入れ、自動化されたシステム(BPMS)の構築を目標とする。

・商標審査手続きに関するも数値目標の見直し:2023年の目標が、2022年の技術的決定件数の288,121件と比べて279,000件に減少している。これは商標出願の審査官の数が減ったことが主な原因である。その結果、技術スタッフの不足、ブラジル特許庁は、予算の制限があったが2023年中に審査官を雇える疑問があったものの、年末年始に試験を行い、2024年に審査官が入庁することができた。

・審査品質コンプライアンス:ブラジル特許庁の決定が、出願人が期待する最低限の品質基準を満たすよう、知的財産権審査のコンプライアンス検証プロセスを確立・管理することを目的とする。その範囲は、特許付与、PCT(ISA&IPEA)、商標登録付与、新たに運用が開始される意匠登録付与のプロセスを含む。

・ハーグ協定の管理:指定の受付及び処理の自動化、意匠マニュアルの第2版の発行、新しいマニュアル及び必要なシステムのトレーニングの実施などを目指す。

ブラジル特許庁、特許出願の補正に関するパブリック・コメントを開始[4]

 2023年9月14日、ブラジル特許庁は連邦官報に「1996年5月のブラジル産業財産法第9.279号第33条に基づく特許出願の審査請求の手続きおよび期限、ならび1996年のブラジル産業財産法第9.279号第32条に基づく特許出願の規範的な見直し」に対するパブリック・コメント募集の開始を掲載し、「利害関係のある団体、組織または個人」に対してコメントを提供するよう呼びかけた(コメントの提出期限は2023年10月29日)。

 現在、ブラジル産業財産法第33条では、特許出願人は出願日から36ヶ月以内に審査請求しなければならないと規定されており、これは国内出願(ブラジルで直接出願する場合)またはPCTを通じた国際出願に適用される。審査請求を提出し,対応する手数料を納付することにより,ブラジル特許庁は特許出願の審査を開始することができる。

 ブラジル産業財産法第33条に定められた期限は、特許出願に自発補正を加えるための重要な期限でもある。ブラジル産業財産法第32条によれば、「出願人は、出願時に開示した事項に限定して、審査請求まで補正を加えることができる」と規定されている。審査請求後,ブラジル特許庁は,出願の補正をクレームの範囲を制限するための補正以外は認めていない。たとえ国内移行の際に提出された明細書の裏付けがあったとしても、クレーム範囲を拡大する補正は認められない。

 ブラジル特許庁はパブリック・コメント募集を行った同規定の見直しにおいて、審査請求のための期限の36か月を短縮、あるいは廃止する改正を提案している。ブラジル特許庁によれば、本見直しは、2023年-2026年戦略計画で定められた目標、すなわち、2026年以降、特許出願は出願日または国内段階移行日から24か月以内に決定されるべきであるという目標を達成するために必要なものである。

 しかし、ブラジル特許庁は、審査請求期間の短縮や廃止が特許出願の自発補正に影響を与えることを認識していた。すなわち、出願人による補正に関して新たな期間を設けることを議論する必要があるということである。ブラジル特許庁は、いくつかの案においていくつかのオプションを提案しているが、「特許出願の自発補正期限は、審査請求期限の意図的な短縮に伴い短縮することが適切である」と考えている。これらはすべて、特許出願の審査期間を短縮するという目的のためである。

 ブラジル特許庁の滞貨削減への努力は好ましいが、提案される解決策の副作用には注意が必要である。連邦行政機関一部であるブラジル特許庁は、合理的な手続期間を保証するように行動しなければならない。

さらに、特許出願の処理にかかる時間だけに注目し、その質を無視して行政の効率性を語ることはできない。特許出願の処理の遅れが憂慮すべきレベルに達しているのは事実だが、近年はかなり改善されている。一方で、数か月を「得る」のためだけに、行政プロセスの重要な段階や管理される側の権利を制限することはできない。行政手続の遅れが審査請求期限のせいだというのは、この問題のさまざまな側面を無視した一方的な立場からの見解である。

ホベルト


[1] https://www.lickslegal.com/news/new-edition-of-the-brptos-industrial-design-handbook-comes-into-force-today

[2] https://www.daniel-ip.com/en/client-alert/bpto-initiates-public-consultation-to-expedite-patent-processing-in-brazil-by-2026/

[3] https://www.gov.br/inpi/pt-br/central-de-conteudo/noticias/inpi-divulga-plano-de-acao-2023-com-metas-e-projetos

[4] https://patentblog.kluweriplaw.com/2023/09/26/brazil-the-patent-office-is-considering-changing-terms-for-requesting-examination-and-amending-patent-applications/

 

1月 16, 2024 at 12:17 コメントを残す

特許期間の調整(PTA)に関する最近の判決

 4 月 13 日,第 1 巡回区連邦高等裁判所(TRF-1)の第 5 パネルは,ノボノルディスク・ファーマシューティカル・ブラジルが請求した 2 つの特許の期間延長を否定した。この決定,2021 年にブラジル特許庁(INPI)が遅延した場合の登録期間の延長を否定したブラジル連邦司法最高裁判所(STF)の判決に続き,TRF-1の合議体による初めての判決である[i]。今回の事件では,ノボノルディスクは2つの特許について7年と12年の延長を要求した。問題となった有効成分は,糖尿病と肥満の治療に使用されるOzempicとRybelsusという商品名の医薬品に使用されている。当該訴訟は,ノボノルディスク社の請求が下級審で却下されたため,同社がTRF-1に上訴していたものであった。

 TRF-1での口頭弁論において,ノボノルディスク社は,同社の特許はINPIから大幅に遅れて,有効期限に極めて近い日付で付与され,この付与の遅延によりノボノルディスクはもはや合理的な独占期間を持つことができなくなった,と主張した。この訴訟のアミカスキュリエである研究製薬産業協会(Interfarma)は,ブラジル産業財産権法第40条補項を違憲としたブラジル連邦司法最高裁判所の判決に基づき期間延長の請求をすることはできないと主張した。

 同じくアミカスキュリエであるジェネリック医薬品メーカーのEMSは,期間延長を請求することはブラジル連邦司法最高裁判所の判決を軽視していることになると指摘した。EMSは,対象となっている特許の1つが2024年に失効すること,当該特許が使用されている医薬品が薬局で約1,000レアルで販売されている高額な薬であることを指摘した。また,アミカスキュリエであるブラジル国内資本研究産業会(Grupo Farmabrasil)は,ノボノルディスクが権利以上の期間を求めていると主張した。

 本件を審理した報告裁判官は,ノボノルディスクの特許期間延長請求を却下した。同裁判官は,保護は一定期間与えられるべきであるとしたものの,特許保護がなければ,一般的な医薬品は平均73.4%の価格低下をもたらすことを判決において指摘した。同裁判官は,ブラジル連邦司法最高裁判所の判決を引用し,第三者の遅延によって損害を受けることになるという製造業者の主張は,より手頃な価格で製品を提供するという社会的利益に基づくものであるべきだと述べた。同裁判官は,企業の投資の償還は社会的利益の前では二の次になると考えているようである。

 一方,3月27日,第9巡回区連邦高等裁判所は,ブリストル マイヤーズ スクイブ(BMS)社に有利な仮処分命令を出し,358日間の特許期間を延長することを認めた[ii]。当該遅延は,ブラジルの衛生監督局であるANVISAに起因するものとされた。

 本件において,第9巡回区連邦高等裁判所の裁判官は,今回の問題が,ブラジル連邦司法最高裁判所の判決に抵触する特許期間の延長に関するものではないことを明らかにするとともに,今回の事件においては,民事責任の観点から関係者の権利を確保するための最善の方法を検討することに焦点を当てていた。本件では,裁判官は,規制当局が遅延を引き起こした期間のみ特許保護を延長する合理的な基準を,原告が提示していると判断した。したがって,裁判所は,関係する規制機関の提供する情報を考慮しても,原告が示した全期間を必要な保護期間として設定する一方,遅延に対する特許権者の関与は最小限であったことを指摘した。

ホベルト


[i] 訴訟番号:1086937-78.2021.4.01.3400

[ii] 訴訟番号:1005786-56.2022.4.01.3400

5月 8, 2023 at 16:20 コメントを残す

ブラジルにおける悪意の商標出願に関する判決

 ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,実業家が他人の商標の無効を起こした後,自己の利益のために登録した行為が悪意であるとして,「Permabond」商標の3 件の登録を全員一致で無効とする判決を下した。ブラジル司法最高裁判所(STJ)によると,ブラジルで使用された「Permabond」商標は,海外で使用されている同商標と混同又は関連付け
られる可能性が高いと判断した。 

 外国企業であるPermabond LLC は,ブラジルの実業家及びその実業家が有する会社(ブラジルではPermabond Adesivos Ltda として登録)を相手取って訴訟を提起していた。下級審は,行政手続において外国商標の著名性が証明されていないことを理由に,原告の請求を棄却した。

 ブラジル司法最高裁判所(STJ)への上訴で,Permabond LLC は,この実業家が同社の従業員であったことから,商標の無効を提起した後,自らの利益のために同じ名称で出願したことは悪意があると主張した。また,Permabond LLC は,元社員による効力がなくなった商標の出願及び登録は,顧客の不正流用と不正競争を特徴づけるものであると主張した。

 ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,Permabond LLC が2006 年までブラジルにおける商標登録の保有者であったが,同国内で使用せず,法定期間内に登録延長を請求しなかったため,効力を失ったと指摘した。実業家が商標の存在を事前に知っていたことが認められたため,ブラジル国内で類似の製品を商業的に利用するために利用しようとしたことは,明らかに悪意ある行為に該当する。ブラジル司法最高裁判所(STJ)によると,消費者に混乱を引き起こす可能性のある類似の製品に対する起業家の当該行為は,法律9,279/1996(産業財産法)124 条,項目V 及びXXIII,並びにパリ条約10 条に違反していると判断した。

本件の判例は、原文のポルトガル語でこちるをクリックすることによって確認が可能

ホベルト


4月 9, 2023 at 08:55 コメントを残す

ブラジル特許庁の2023年-2026年における戦略計画書

ブラジル特許庁は3月27日(月)、知的財産国家戦略(ENPI)に沿った、様々なプロジェクトとその目標を含む、2023年から2026年の期間の戦略計画を公表した。戦略計画書は、ブラジル特許庁の決議第10/2023号によって正式に公表された。

計画のメインな戦略目標は、以下の9つとなる:

  1. 産業財産権の付与及び登録における品質とスピードを最適化し、国際的に参考になるパフォーマンス基準を達成すること。
  2. 産業財産権の文化及び戦略的活用を推進し、ブラジルの競争力、イノベーション、発展に貢献すること。
  3. ブラジルが国際的な産業財産権制度の段階に主役になることを強化する。
  4. ブラジル社会ではブラジル特許庁の社会的価値に関する認識と理解を高める。
  5. パフォーマンス及びサービス提供の向上に重点を置いたデジタル変革を深化させる。
  6. サービス提供能力の近代化と拡大のための持続可能な資金を確保する。
  7. 増大する需要に対応し、サービス提供において高いパフォーマンスを維持するために必要な労働力の補充と維持を確保すること。
  8. コストパフォーマンスの高い、効率的で持続可能なロジスティクスとインフラのサポートを提供する。
  9. ガバナンス及びマネジメントの実務及び制度的関係を改善する。

ブラジル特許庁は、上記9つの戦略目標に基づき、特許出願の実体審査(出願日から計算)を現在の6.9年から2年に短縮し(2026年)、商標登録出願の実体審査(出願から1次審査まで計算)を現在の10ヶ月から1ヶ月(2026年)、商標無効の行政手続を現在の42ヶ月から15ヶ月に短縮することを目標としている。

各戦略目標には、詳細なプロジェクトが設定されており、設定されたガイドラインと優先事項の実施を具体化することを目的としている。

ブラジル特許庁は、特許登録の品質と俊敏性を最適化するため、人工知能ツールの利用を含めて、特許審査手続きの一部を自動化する予定である。さらに、大学など他の第三者機関と連携して、第三者による調査も実施する予定である。また、ブラジル特許庁の規範と、Global-PPHを含む優先権付与手続きの基準を更新する予定である。

商標出願に関しては、産業財産法の改正の検討に加え、ブラジル特許庁は、商標の実体審査における調査(オフィシャルサーチ)を廃止し、絶対的拒絶理由のみを職権で審査し、相対的拒絶理由(先行登録)は第三者からの異議申立があった場合にのみ検討することを検討する予定である。異議申立手続きも簡素化される予定である。また、商標の「二次的意味」を認識し、非伝統的な商標を登録するための手続きを実施する予定である。 国際的な課題では、ブラジル特許庁は、ブラジルが世界の知的財産協定や条約に参加することを優先し、工業意匠登録のためのハーグ協定の運用にまず重点を置く予定である。戦略的アジェンダには、メルコスール諸国を中心とした知的財産の地域統合のためのインセンティブや、海外での地理的表示の登録に関するリスボン協定へのブラジルの加盟に向けた研究の準備も含まれている。

本戦略計画書は、原文のポルトガル語でこちるをクリックすることによって確認が可能

ホベルト

4月 4, 2023 at 19:04 コメントを残す

ブラジルにおけるエリクソンv. アップルの紛争について

 2022 年12 月9 日,エリクソンとアップルは,世界中で行われていた5G に関するクロスライセンス紛争が和解によって解決することとなった。今回の和解は,米国及びドイツでの係争が進展したことにより,合意に至ったものであると考えられる。しかし,今回の紛争においてあまり認識されていないのは,最近の南米における紛争の動きが,和解に至るきっかけの一つであったということである。

 エリクソンとアップルの特許紛争は,エリクソンの5G 関連特許のポートフォリオに対する適切なライセンス料の支払いについて両社が合意に達することができずに,ライセンス契約が更新されなかったにもかかわらずアップルが技術を使い続けたことで2021 年10 月以降に開始されたものである。この紛争は,いくつかの法域で展開された。エリクソンは,米国の連邦地方裁判所及び米国国際貿易委員会(ITC)において,アップル社に対する訴えを提起した。さらに,エリクソンはドイツ,英国,オランダ,ブラジル及びコロンビアにおいても訴訟を提起した。これに対し,アップルはドイツ及び米国で訴訟を提起し,また,米国特許商標庁(USPTO)の審判部において数十件の無効審判及び異議申立を行った。

 和解に至った南米での動きは,まずコロンビアにおける当該紛争の進展である。2022 年7 月,ボゴタの裁判所(Juzgado 043 Civil del Circuito de Bogotá)は,アップルがエリクソンの5G の標準必須特許(SEP)を侵害していると判断し,アップルがコロンビアで5G を利用するiPhone 及びiPad の輸入・販売することを禁止する判決を出した。また,同裁判所は,アップル社に対して,世界の他の場所で訴訟差止命令(anti-suit injunction)を求める行為を禁止する差止命令(anti-anti-suitinjunction)を出した。
 ブラジルでは,エリクソンが,アップルが5G に関する3 件の特許権を許可なく使用したことに基づき,差し止めと損害賠償を請求する訴訟を起こした。エリクソンはリオデジャネイロ州裁判所に仮処分を請求したが却下された。エリクソンは当該判決を不服として即時抗告を行い,リオデジャネイロ高等裁判所は仮処分を却下したリオデジャネイロ州裁判所の決定を覆し,差止の仮処分請求を認めた上に特許の使用料金に関して暫定的に年額2 億米ドルの損害賠償額を設定した。アップル社はリオデジャネイロ高等裁判所の判決を不服として上訴し,ブラジル司法最高裁判所(STJ)で審議されることになった。

 和解の3 日前の12 月6 日,ブラジル司法最高裁判所(STJ)が標準必須特許(SEP)(及び5G)について初めて審理した。ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,標準必須特許(SEP)の権利者が差止の仮処分を請求することを可能と認めた。ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,リオデジャネイロ高等裁判所がアップルに対して下した仮処分命令が適法であることを確認した。それによって,ブラジル最高裁判所(STJ)は,アップルに対し,ブラジル国内における5G 携帯端末の販売の差し止め,もしくはエリクソンに端末1 台につき3 ドルを直ちに支払うよう命じた。なお,ブラジル司法最高裁判所(STJ)が設定した端末1 台につき3 ドルという金額は,従前の契約に基づいて可能となる金額から定められているが,エリクソンが契約更新時に求めた5 ドルよりは低い金額となっている。この結果,エリクソンが勝訴したリオデジャネイロ高等裁判所の判決が出た2022 年4 月以降,アップルがブラジルで販売したiPhone 及びiPad 1 台につき3 ドルの金額を遡って支払わなければならないとなるはずであった。ブラジルにおいては,アップルが2020 年に発売したiPhone12から5G 技術が導入され,iPad の場合は,2021 年に発売されたiPad Pro から5G が利用できるようになっている。

 ブラジル司法最高裁判所(STJ)の論理的根拠は,標準必須特許(SEP)に対して差止請求の仮処分を認めない理由はなく,FRAND 宣言を差止命令による救済に影響を与えない契約法の問題としてとらえるべきであるとした。ただし,エリクソンは,ブラジルの裁判所によるロイヤリティの設定を望んでおらず,新たなライセンス契約が締結されるまでの間,侵害を差し止める決定を求めていただけであった。しかし,ブラジル司法最高裁判所(STJ)の判決によれば,アップルは,ブラジルにおけるエリクソンの特許の使用について補償しなければならないとした。結果的に,ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,差止命令がホールドアウトを防ぐためのツールになるということを示したことになる。侵害訴訟において最終的に支払われる損害賠償だけでは,標準必須特許(SEP)に関する適切な救済手段とは考えなかったのである。

 現在,ブラジルは世界第6 位のスマートフォン市場である。従って,この決定がエリクソン社に和解を成立させるための更なる動機を与えたと言っても過言ではない。また,ブラジルでは標準必須特許(SEP)の差止請求(及び差止請求の仮処分)が認められる可能性があることにより,標準必須特許(SEP)に関わる紛争に関して重要な場所に
なりえる。事実,エリクソンとアップルの紛争だけでなく,最近ではノキアがオッポと,Vringo がZTE と,DivX がサムスンとTCL との紛争においてブラジルが重要な場所となっている。2012 年から2019 年にかけて,ブラジルにおける標準必須特許(SEP)の侵害に関する訴訟はたった6 件しかなかった。一方,2020 年から2022 年にかけて,8 件の標準必須特許(SEP)侵害訴訟が提起されおり,ブラジルがグローバルなFRAND 訴訟に関して影響を与える地域になりつつある。

ホベルト

3月 31, 2023 at 17:20 コメントを残す

ブラジル特許庁(INPI)審判部の商標の審決集

2021年12月29日、ブラジル特許庁(INPI)は、審判部による商標法の解釈をまとめる目的とした控訴審レベルの審決集を公表しました。

ブラジル特許庁(INPI)によると、選択された審決は、審判部の現在の解釈を確立にしており、できれば審査基準や全体的き手続きの改善に貢献することに当たりにも参照するものと目指しています。

審決集の初版は72ページのものであり、過去20年間にブラジル特許庁(INPI)が決定した商標案件を幅広くカバーしています。審決事項は主に7つのカテゴリーに分類されています。

  • 道徳・公序良俗に関する拒絶理由
  • 商標の識別性
  • 商標の欺瞞性(地理的表示との混同について1件のみ)
  • 商標の出願可能な標章
  • 不使用取消訴訟
  • 手続きに関する事項
  • 所有権の移転

各審決には、(a)出願番号および審決日などの事件の基本情報、(b)審決の要旨、(c)関連商標、(d)審判部が採用した解釈の概要、が記載されています。

各審決の内容は、1件あたり平均1ページにまとめられて、非常に簡潔な記述でまとめられています。これらの審決には拘束力がありませんが、これらの審決は、ブラジル商標制度における問題に関してブラジル特許庁(INPI)の審判部が下す審決の指針となる傾向があります。

通常、ブラジルでは、審判部の審決の全文は公開されておらず、結果のみが公開されています。そのため、この審決集はブラジルでの実務の発展に大いに役立ちます。

この審決集は、原文のポルトガル語でこちるをクリックすることによって確認が可能です

ホベルト

3月 3, 2022 at 16:43 コメントを残す

ブラジル議会がサイバー犯罪条約への加盟を批准

ブラジル議会の2021年12月21日の公報では、「サイバー犯罪に関する条約」の条文を含めている立法令37/2021が制定されたことが明らかになり、それによってブラジル立法側により批准が完了されました。「サイバー犯罪に関する条約」は、2004年から施行されており、個人情報保護とオンラインでの児童ポルノや著作権侵害を含むサイバー犯罪に関する対応を取り決める国際条約です。「サイバー犯罪に関する条約」では、加盟国の協力を促進するメカニズムをもたらすことで、インターネット上で行われる犯罪の対策を目的としています。

サイバー犯罪に関する条約は欧州評議会が2001年に発案したものですが、日本を始め、チリ、アルゼンチン、米国、コスタリカ、ドミニカ共和国など、EU圏外の国も加盟しています。条約の運用に際しては人権及び基本的自由の保護に関する条約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、その他の適応可能な国際人権文書の義務に即して十分な人権を保護する措置を比例原則に従って行うよう締約国に求めています。

ブラジル外務省によると、ブラジルがこの条約に加盟することで、ブラジル当局が外国の管轄下にある電子証拠にアクセスすることが効率化されるとのことになります。

ホベルト

2月 28, 2022 at 21:20 コメントを残す

ブラジル国家知的財産戦略を制定する政令10.886/2021

 2021年12月7日、ブラジル国家知的財産戦略(ポルトガル語で“ENPI”。以下、「ENPI」という)を制定しますための政令第10,886号が公布されました。また、ブラジル国家知的財産戦略を実行する方法として、「創造性、イノベーションへの投資、知識へのアクセスを奨励し、公正な競争関係の向上及び経済・社会の発展を目指す、有効かつバランスのとれた、広く知られ、利用される」国家知的財産制度(SNPI)の実現が目標とされています。ENPI第2条で定められましたガイドラインにおいては、法的確実性、透明性、予測可能性、及び国際条約の尊重が原則として設定されています。
 政令第10,886号は5つの条項から構成されています。それに加え、政令には附属書が付されています。附属書には、ブラジルの現行の知的財産制度における9つの問題点が指摘されています。9つの問題点は、次のとおりです。

  1. 知的財産権の活用不足と活用過多に関連する知的財産制度の利用におけるアンバランス。
  2. イノベーションと創造のエコシステムにおける企業やその他の関係者による知的財産に関する戦略的ビジョンの欠如
  3. 知的財産に精通した専門家の不足。
  4. 知的財産の一部について情報へのアクセスが困難で、登録が複雑であること。
  5. 裁判所における知的財産専門家の不足
  6. 知的財産権の侵害。
  7. 知的財産における政府の短期的かつ非連続的な戦略的活動。
  8. 知的財産に関する国際的な活動へのブラジルの参加規模が小さい。
  9. 知的財産に関する法の近代化が必要。

 ブラジル国家知的財産戦略の第1ステップの期間は10年間とされており、上記の問題点を改善、解決しますために、複数の目標を設定し、目標を達成しますための理念も設定しています。ブラジル国家知的財産戦略は、11の省庁が協力して実行しますものであり、公開した時点から実行されています。

 原文のポルトガル語はこちらをクリックして、確認することが可能です

ホベルト

1月 19, 2022 at 08:20 コメントを残す

ブラジルにおけるPPHの最新な動き

 ブラジル特許庁(INPI)長官と日本特許庁長官は、2021年12月1日から5年間にわたる両庁間のPPH更新のための協力覚書に署名しました。また、2021年12月16日にポルトガル特許庁とブラジル特許庁は、5年間にわたりPPHを実施しますための覚書を締結しました。それによって、2021年12月現在、以下の11カ国との間でPPHが行われています。

 なお、2021年1月1日より、ブラジルにおけるPPHの件数制限等が緩和されました。現在、ブラジル特許庁が実施していますPPHの全てが同じ仕組みの下で行われているため、以下に示す1年間に600件という制限は、日本とのPPHのみに関するものではなくて、上記11カ国との間の全てのPPHに適用される件数制限ですことに注意が必要です。

 2020年12月31日まで2021年12月31日まで2022年1月1日~現在
総申請件数制限 (日本を含めたブラジルとのPPH実施庁からの申請の総数)400件/年 (IPCセクション毎に 100件/年)600件/年 (IPCセクション毎に 150件/年)800件/年 (IPCセクション毎に 150件/年)
一出願人当たりの件数制限1件/月1件/週1件/週
第一国出願の制限 (日本の審査結果に基づく PPH申請の場合)第一国出願が日本または ブラジルの場合に限る第一国出願がブラジルとPPHを実施している国のいずれかであればPPH申請可能第一国出願がブラジルとPPHを実施している国のいずれかであればPPH申請可能

 ブラジルでPPHが開始されました2015年以降、PPHが可能なすべての先行審査庁(OEE)からのPPH申請は1664件でした。PPHを利用して優先的に審査されました件数のうち、84%が付与査定に至り、PPH申請から付与査定までの平均審査期間は289日でした。日本は、PPH申請件数が2番目に多い国であり、279件のPPH申請がありました。最も件数が多いのは米国であり、3番目に多いのは中国です。PPH申請の件数が最も多い出願人はファーウェイです。しかし、その次にPPH申請の件数が多い企業はNTTドコモ(50件)です。その他の日本企業においてPPH申請件数が多いのは、NEC(41件)、JVCケンウッド(13件)、ホンダ(10件)、ミツカン(10件)となっています。

ホベルト

1月 14, 2022 at 08:13 コメントを残す

商標の先使用権に関する意見書

 2021年11月3日、ブラジル特許庁(INPI)の法務局長は、意見書No.43/21を発行し、商標における先使用権の適用に関しますガイドラインを公表しました。
 当該意見書は、10年以上にわたって行われてきたブラジル特許庁(INPI)の解釈を明確にすることを目的とされています。本意見書は、特に行政無効訴訟において先使用権に基づく申立が認められます可能性を示唆しています。
 ブラジル産業財産法第129条で規定されているように商標出願において「先願主義」が採用されています。つまり、先に出願した者に商標登録を認めますという考え方です。しかし、例外も設けられており、それは先使用権です。
 ブラジル産業財産第129条第1項では、他の者が先に商標出願を提出したとしても、先願出願の出願日の少なくとも6ヶ月前に善意で商標を使用していたことが確認されれば、善意で商標を使用した者が後で商標出願をしたとしても先願出願よりも優先的に審査されます。先使用権は、同一または類似の商標を使用し、同一または類似の製品やサービスに関します商標が使用されました場合にのみ行使することができます。
 ブラジル特許庁(INPI)の解釈では、先使用権は異議申立のときのみ、つまり先願出願が公開されてから60日以内に請求しますことが可能とされていました。ブラジル特許庁(INPI)のこの解釈は、何回か裁判所で争われていました。裁判所は、登録査定までであれば先使用権の請求が可能と認めます判決もあれば、他方、先使用権の請求は行政手続上の無効審判まで可能と認めます判決もあります。
 本意見書No.43/21によると、ブラジル特許庁(INPI)の解釈を変更し、行政手続上の無効審判まで先使用権の請求の可能性を認めました。本意見書では、無効審判における先使用権の請求を禁止します規定が存在しありませんのと同様に、行政上の控訴(審判)において請求します制限も法律に存在していありませんことに基づいています。
 本意見書No.43/21は既に執行されており、ブラジルにおける商標実務に大きな影響を与えますと考えられます。原文のものはこちらをクリックすることによって確認が可能です

ホベルト

1月 12, 2022 at 07:59 コメントを残す

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