ブラジル国家知的財産戦略を制定する政令10.886/2021

 2021年12月7日、ブラジル国家知的財産戦略(ポルトガル語で“ENPI”。以下、「ENPI」という)を制定しますための政令第10,886号が公布されました。また、ブラジル国家知的財産戦略を実行する方法として、「創造性、イノベーションへの投資、知識へのアクセスを奨励し、公正な競争関係の向上及び経済・社会の発展を目指す、有効かつバランスのとれた、広く知られ、利用される」国家知的財産制度(SNPI)の実現が目標とされています。ENPI第2条で定められましたガイドラインにおいては、法的確実性、透明性、予測可能性、及び国際条約の尊重が原則として設定されています。
 政令第10,886号は5つの条項から構成されています。それに加え、政令には附属書が付されています。附属書には、ブラジルの現行の知的財産制度における9つの問題点が指摘されています。9つの問題点は、次のとおりです。

  1. 知的財産権の活用不足と活用過多に関連する知的財産制度の利用におけるアンバランス。
  2. イノベーションと創造のエコシステムにおける企業やその他の関係者による知的財産に関する戦略的ビジョンの欠如
  3. 知的財産に精通した専門家の不足。
  4. 知的財産の一部について情報へのアクセスが困難で、登録が複雑であること。
  5. 裁判所における知的財産専門家の不足
  6. 知的財産権の侵害。
  7. 知的財産における政府の短期的かつ非連続的な戦略的活動。
  8. 知的財産に関する国際的な活動へのブラジルの参加規模が小さい。
  9. 知的財産に関する法の近代化が必要。

 ブラジル国家知的財産戦略の第1ステップの期間は10年間とされており、上記の問題点を改善、解決しますために、複数の目標を設定し、目標を達成しますための理念も設定しています。ブラジル国家知的財産戦略は、11の省庁が協力して実行しますものであり、公開した時点から実行されています。

 原文のポルトガル語はこちらをクリックして、確認することが可能です

ホベルト

1月 19, 2022 at 08:20 コメントを残す

ブラジルにおけるPPHの最新な動き

 ブラジル特許庁(INPI)長官と日本特許庁長官は、2021年12月1日から5年間にわたる両庁間のPPH更新のための協力覚書に署名しました。また、2021年12月16日にポルトガル特許庁とブラジル特許庁は、5年間にわたりPPHを実施しますための覚書を締結しました。それによって、2021年12月現在、以下の11カ国との間でPPHが行われています。

 なお、2021年1月1日より、ブラジルにおけるPPHの件数制限等が緩和されました。現在、ブラジル特許庁が実施していますPPHの全てが同じ仕組みの下で行われているため、以下に示す1年間に600件という制限は、日本とのPPHのみに関するものではなくて、上記11カ国との間の全てのPPHに適用される件数制限ですことに注意が必要です。

 2020年12月31日まで2021年12月31日まで2022年1月1日~現在
総申請件数制限 (日本を含めたブラジルとのPPH実施庁からの申請の総数)400件/年 (IPCセクション毎に 100件/年)600件/年 (IPCセクション毎に 150件/年)800件/年 (IPCセクション毎に 150件/年)
一出願人当たりの件数制限1件/月1件/週1件/週
第一国出願の制限 (日本の審査結果に基づく PPH申請の場合)第一国出願が日本または ブラジルの場合に限る第一国出願がブラジルとPPHを実施している国のいずれかであればPPH申請可能第一国出願がブラジルとPPHを実施している国のいずれかであればPPH申請可能

 ブラジルでPPHが開始されました2015年以降、PPHが可能なすべての先行審査庁(OEE)からのPPH申請は1664件でした。PPHを利用して優先的に審査されました件数のうち、84%が付与査定に至り、PPH申請から付与査定までの平均審査期間は289日でした。日本は、PPH申請件数が2番目に多い国であり、279件のPPH申請がありました。最も件数が多いのは米国であり、3番目に多いのは中国です。PPH申請の件数が最も多い出願人はファーウェイです。しかし、その次にPPH申請の件数が多い企業はNTTドコモ(50件)です。その他の日本企業においてPPH申請件数が多いのは、NEC(41件)、JVCケンウッド(13件)、ホンダ(10件)、ミツカン(10件)となっています。

ホベルト

1月 14, 2022 at 08:13 コメントを残す

商標の先使用権に関する意見書

 2021年11月3日、ブラジル特許庁(INPI)の法務局長は、意見書No.43/21を発行し、商標における先使用権の適用に関しますガイドラインを公表しました。
 当該意見書は、10年以上にわたって行われてきたブラジル特許庁(INPI)の解釈を明確にすることを目的とされています。本意見書は、特に行政無効訴訟において先使用権に基づく申立が認められます可能性を示唆しています。
 ブラジル産業財産法第129条で規定されているように商標出願において「先願主義」が採用されています。つまり、先に出願した者に商標登録を認めますという考え方です。しかし、例外も設けられており、それは先使用権です。
 ブラジル産業財産第129条第1項では、他の者が先に商標出願を提出したとしても、先願出願の出願日の少なくとも6ヶ月前に善意で商標を使用していたことが確認されれば、善意で商標を使用した者が後で商標出願をしたとしても先願出願よりも優先的に審査されます。先使用権は、同一または類似の商標を使用し、同一または類似の製品やサービスに関します商標が使用されました場合にのみ行使することができます。
 ブラジル特許庁(INPI)の解釈では、先使用権は異議申立のときのみ、つまり先願出願が公開されてから60日以内に請求しますことが可能とされていました。ブラジル特許庁(INPI)のこの解釈は、何回か裁判所で争われていました。裁判所は、登録査定までであれば先使用権の請求が可能と認めます判決もあれば、他方、先使用権の請求は行政手続上の無効審判まで可能と認めます判決もあります。
 本意見書No.43/21によると、ブラジル特許庁(INPI)の解釈を変更し、行政手続上の無効審判まで先使用権の請求の可能性を認めました。本意見書では、無効審判における先使用権の請求を禁止します規定が存在しありませんのと同様に、行政上の控訴(審判)において請求します制限も法律に存在していありませんことに基づいています。
 本意見書No.43/21は既に執行されており、ブラジルにおける商標実務に大きな影響を与えますと考えられます。原文のものはこちらをクリックすることによって確認が可能です

ホベルト

1月 12, 2022 at 07:59 コメントを残す

ブラジル連邦最高裁判所判決の結果に関する訴訟

 2021年4月末から5月にわたって、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所(STF)は、ブラジル特許制度の特徴の一つである特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて審理を行っていました。本件の違憲訴訟の背景についてはこちらの投稿にて説明し、そして、本件の仮処分の判決についてこちらの投稿に説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。また、審理についてはこちらの投稿に説明しましたので、ご確認ください

 ブラジル産業財産法の第40条単項が違憲を決めたブラジル連邦最高裁判所(STF)違憲訴訟第5529号において、Dias Toffoli判事は報告判事としての理由書では、その他の国が特許存続期間延長を認めます法規制を有していますが、その他の国の特許存続期間延長はブラジルの特許存続期間延長のように自動的に適用しますものではなく、定められました基準に基づいて判断されますものですと明示的に言及しました。これは、ブラジル連邦最高裁判所(STF)が、特許存続期間延長をケース・バイ・ケースで判断します限り、合憲ですと認めていますことを意味しますとの解釈が多数説になっています。
 その他の国(たとえば、EU、米国、イスラエル、日本、シンガポール、オーストラリア、ロシアなど)に比べて、ブラジル産業財産法では、米国の「存続期間の調整」(PTA;Patent Term Adjustment)および欧州の補充的保護証明書(SPC;Supplementary Protection Certificates)のような特許存続期間を延長します制度が存在していありません。違憲とされました第40条補項の適用は、特許の存続期間を調整します必要があります場合に可能でありました。
 ブラジル連邦最高裁判所(STF)違憲訴訟第5529号判決の解釈に基づいて、審査に不当な期間かかったことで、行政手続きの「合理的な期間」に関します憲法上で尊重されています原則が違反されたということを理由として、特許の存続期間の延長を請求する訴訟ですが、最近、連邦裁判所に対して何件か提訴されていますことが明らかになっています。
 まだ係属中のものの、そのような訴訟の1つにおいて、上記請求が認められます可能性があることがわかってきました。Johnson & Johnsonがブラジル特許庁(INPI)に対して起こした特許存続期間に関します訴訟(訴訟番号1054805-65.2021.4.01.3400)において、第1巡回区連邦高等裁判所は、ブラジル連邦最高裁判所(STF)違憲訴訟第5529号判決に基づき、特許番号PI 0113109-5の特許の存続期間を修正したブラジル特許庁(INPI)による行政行為の効力を一時的に無効にします差し止め命令を下しました。第1巡回区連邦高等裁判所の判決は、ブラジル連邦最高裁判所(STF)違憲訴訟第5529号判決を引用しており、さらに、ブラジル特許庁(INPI)の審査期間が不当に遅れましたことを認め、特許存続期間の修正によりJohnson & Johnsonが損害を受ける可能性がありますために仮処分が必要と判断されました。
 Johnson & Johnsonの提起した訴訟はまだ最終的な判断に至っていないため、それ自体を判例とみなすことはできありませんが、訴訟がブラジル連邦最高裁判所(STF)違憲訴訟第5529号判決の影響に対して可能な対策となるといえるでしょう。

ホベルト

1月 8, 2022 at 07:50 コメントを残す

ブラジル特許庁、存続期間に関する連邦最高裁判所判決の影響を受ける特許に関する最新決定

 2021年4月末から5月にわたって、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所(STF)は、ブラジル特許制度の特徴の一つである特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて審理を行っていました。本件の違憲訴訟の背景についてはこちらの投稿にて説明し、そして、本件の仮処分の判決についてこちらの投稿に説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。また、審理についてはこちらの投稿に説明しましたので、ご確認ください。2021年12月14日、ブラジル特許庁(INPI)は、ブラジル連邦最高裁判所(STF)違憲訴訟第5529号(ADI#5529)において、ブラジル産業財産法第40条補項が違憲であると判定された後に特許権者による存続期間の見直しに関する不服申立についての結果が通知されました。

 ブラジル最高裁判所は、多数決でブラジル産業財産法(LPI)第9279/1996号の第40条補項を違憲としました。遡及効に関する決定について、ブラジル最高裁判所は、多数決により、ブラジル産業財産法の第40条補項を違憲とする判決の効力を制限する決定を下し、同規定に基づいて付与された期間延長を維持するために、本審理議事録の公表よって遡及効がない(ex nunc)としました。したがって、第40条補項によって既に付与され、現在も有効である特許の有効性は維持されるが、次のものについては除外されます。(i)違憲の主張が含まれている2021年4月7日(本訴訟の仮処分の一部が認められた日)までに提訴された訴訟に関わる特許、及び(ii)医薬品及びプロセス、メディカルデバイス及びヘルスケアで使用するための材料に関連する特許であって期間延長が認められていたものについては、いずれの場合も遡及効(ex tunc)が働き、ブラジル産業財産法の第40条補項に基づいて認められた期間延長が失われ、法律第9,279/1996号(ブラジル産業財産法)の第40条の部分で設定された特許の有効期間に従い、該当特許の期間延長の結果として既に生じていた具体的な保護の効果は失われます。

 2021年5月18日、ブラジル特許庁(INPI)は、遡及適用される範囲となる医薬品および医薬的な方法、および健康目的で使用される機器および/または素材に関する特許権への対応についても明記しました。ブラジル特許庁(INPI)は、違憲訴訟第5529号判決により影響を受ける医薬品および医療機器等に関する特許権を以下の基準に基づき特定し、特許の存続期間を調整するためのオフィスアクション(通知コード16.3)の発行を開始しました。

  • 事前承認を得るためにブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)に送られた特許権
  • 国際特許分類(IPC)がA61B、A61C、A61D、A61F、A61G、A61H、A61J、A61L、A61M、A61NまたはH05Gである(世界知的所有権機関(WIPO)により医薬品に関連する技術とされている)特許権
  • IPC分類がA61K/6、C12Q/1、G01N/33またはG16Hである特許権
  • 判決がcode 19.1で公表された特許権
  • 追加証明書

 ブラジル特許庁(INPI)が2021年6月22日の官報に公表したお知らせでは、存続期間調整のオフィスアクション(通知コード16.3)の影響を受けた特許権者には、当該オフィスアクションに対して不服申立を行う機会が与えられることが明記されました。不服申立が却下された場合は、ブラジル特許法第212条に基づき、行政審判を行うこともできます。

 存続期間調整のオフィスアクションに対する不服申立に関しては、以下のような措置を取ることが可能です。

  • 不服申立の理由が妥当である場合、存続期間調整のオフィスアクション(通知コード16.3)が取り消される。
  • 不服申立において、ヘルスケア等に関する請求事項を削除することで特許権の範囲が狭くなる場合、特許が再公開される。
  • 不服申立の理由が妥当ではないと判断された場合、その判断の理由が公開される(通知コード22.2)。
  • 追加の情報の要求がある場合、その旨が公開され(通知コード22.5)、60日以内に回答しなければならない。

 農薬分野の特許については、ブラジル特許庁(INPI)の法務局から法的見解が出されました。その見解では、特許権者の請求に応じて、違憲訴訟第5529号判決によって下された決定への影響を防ぐためだけでなく一般的にヘルスケア等に該当する事項を削除することはこれまでも可能であり、そうすることによってその他の請求項を判決前の存続期間のままで維持することができるとされました。

 なお、ブラジル特許庁(INPI)は、不服申立が出された案件の結果および判断基準をいつ公開するのかまだ決めていません。

ホベルト

1月 6, 2022 at 10:47 コメントを残す

ブラジル特許庁が位置商標の制度の導入

 2021年9月21日に公開された公報第2646号にブラジル特許庁(INPI)省令(Portaria)PR 37号(2021年9月13日付)を公表し、ブラジル産業財産法第122条に基いて位置商標の制度を導入することを発表しました。省令PR 37号は第5条によると2021年10月1日から施行されます。されに、2021年9月21日、ブラジル特許庁は位置商標の出願に関する追加説明のためにテクニカルノートINPI/CPAPD No.02/2021(Nota Técnica INPI/CPAPD nº 02/2021)を発行しました。

 省令PR 37号の第1条によると、位置商標の登録は、出願の対象の商標が所定の物の単一かつ特定の位置に設置されており、当該位置での商標の設置が技術的または機能的効果を持たない場合に可能となります。よって、位置が特定できない場合、もしくは、位置に機能性がある場合、出願が拒絶されます。また、テクニカルノートの「3.2」では、位置の特定性は、位置そのものだけでなく、対象物における標識の割合を考慮して審査されると決められています。テクニカルノートの「4」では、対象物に設置される商標は、法律で認められる標識であれば、視覚的に認識可能な要素(例えば、単語、文字、数字、表意文字、記号、図面、画像、図形、色、パターン、形状、又はこれらの結合)によって構成することができると定めています。

 第2条によると、省令PR 37号が施行する前にブラジル特許庁に提出された審査中の商標出願の種類については、位置商標の要件を満たしている場合に、出願の種類を「位置商標」に変更することができることにしています。変更申請は、省令の施行日から90日以内に行う必要があります。テクニカルノートの「10.1」については、商標出願の商標見本の変更があった場合、出願は再公開され、第三者による付与前異議申立の期間が改めて開かれることになります。

 第3条によれば、位置商標の審査は、ブラジル特許庁内のシステム等に必要な調整ができるまでに始まらないと決めました。また、第4条では、位置商標の電子出願は、特定の法令によって規則されたから開始されるとしています。テクニカルノートの「24」によると、電子出願の規則ができるまでに、位置商標の電子出願は立体商標として提出すべきと定められています。

 商標出願の記載等の詳細については、テクニカルノートの「6」によると、位置商標の出願に添付する商標見本には、商標の正確な位置と比率を表す見本を提供しなければならないと定義されています。追加の商標見本を提出することも可能です。また、「7」に基づき、商標見本に設置されている物は点線または破線で表現する必要があります。また、「8」では、位置商標の説明文書を提供しなければならないとしています。「9」によれば、位置商標の範囲が十分に明確でない場合には、オフィスアクションが発行されます。

テクニカルノートによる拒絶される位置商標の例

 審査は、主に(a)標識の識別性と(b)位置の識別性の2つの要素が考慮されて行われます。例えば、鍋の蓋の縁に色を塗ることは、識別力の位置ではないとしています。別の例では、コーヒーメーカーのハンドルに一文字(例えば「A」)を使用することは、その標識に識別力がないため拒絶される。商標が装飾的としか判断されない場合は、その商標には識別力がないと判断されます。

 機能性の判断については、ブラジル特許庁は、以下の点を考慮されます。

  • 対象物の使用を容易にし、その性能を助けるものであるか。
  • より良い装飾的結果を得るために、装飾的の形状を隠す。
  • 安全に使用できることを示すために、装飾的の重要な部分を強調する。
  • 商品または役務を識別し、同一、類似または類似の他の製品と区別するという役割とは相容れない、その他の装飾的または技術的な結果を得ること。

位置の特定性については、装飾的の異なる位置に1つ以上の商標が設置された構成された場合は、位置商標として登録できません。また、割合が広すぎて適切な位置を特定することができない場合も位置商標として登録できません。

省令PR 37号の原本(ポルトガル語)はこちらをクリックして、ダウンロードすることができます

ホベルト

9月 24, 2021 at 20:35 コメントを残す

ブラジルにおける強制実施権の改正に関する法案12/2021(PL 12/2021)/法律14.200/2021

 ブラジル産業財産法には、立法当初からTRIPS協定に基づく強制実施権制度が設けられています。特許法68条ないし74条において強制実施権について規定されており、特許権者が現地生産をしていない場合(68条1項a)及び特許権者が製品を輸入している場合(68条4項)は、第三者に対して並行輸入に関する強制実施権を付与することができます。

 ブラジルでは、2021年1月の新型コロナウイルスのパンデミックによる国家予防接種計画の迅速化を理由とした法案第12/2021(PL 12/2021)が議会に提出されました。同法案は、反ボルソナロ政権が提案した法案であるため、議会と連邦政府の間に敵対心を生むことになりました。一方、同法案はTRIPS協定に違反する可能性がある問題を複数抱えていたため、世界中から注目を集めていました。

 法案12/2021は、2021年7月6日、下院において修正された上で可決され、8月11日には、上院において61対13の賛成多数により可決されました。8月13日、可決された法案がボルソナル大統領の裁可のために転送されました。

 新型コロナウイルスのパンデミック対策が切っ掛けではあったものの、議会で可決された問題のある条文を含む同法案が立法されないようにボルソナル大統領には同法案を拒否する期待がありました。ボルソナロ政権は、同法案を全面的に拒否することを検討していたようではあるが、拒否した場合、議会の一部からの敵意が増える可能性があるため、大統領官房庁は様々な機関と直接に意見交換を行っていました。外務省をはじめ経済省、健康省、科学技術省などのいくつかの省庁が拒否に関する異なる意見を提案しており、拒否すべき事項の優先順位を決めることが課題となりました。特に、外務省は、TRIPS協定に違反する可能性を意識していました。また、ボルソナロ政権は、新型コロナウィルスパンデミック対策に関する強制実施権の議論は、ブラジルにおいてのみ行うべきではなく、他国とともにWTOの場で行うべきだと考えていました。その後、9月2日にボルソナロ大統領が部分拒否付きで法案12/2021を裁可し、法律14.200/2021が成立した。成立した法律14.200/2021には、問題視されていた条文が一部拒否されているものの、依然として問題視されていた一部の条文が残っています。

 最初の問題は、改正後の強制実施権の範囲です。今回の改正において産業財産法第71条の強制実施権の要件が変更されます。現行のブラジル産業財産法第71条では、強制実施権を制定するためには、「emergência nacional(national emergency)」または「interesse público(public interest)」のいずれかに該当しなければならなかった。しかしながら、改正後の規定では、強制実施権を制定するためにもう一つの選択肢として「estado de calamidade pública de âmbito nacional(nationwide state of public calamity)」を導入した。改正法では、「estado de calamidade pública de âmbito nacional」の解釈がポイントになります。同法案では、改正第71条17項として、公衆衛生上の国家的または国際的な緊急事態が発生した場合に、強制実施権は、行政府のみならず、議会の立法によって付与することを可能にしていたが、同規定がボルソナロ大統領によって拒否されました。また、その他の問題視されている条文として、法律14.200/2021によって新たに規定された第71-A条です。同条文によると、人権的な理由によって、医薬品分野の製造能力が低い又は製造能力がない国に輸出するために、輸出のための実施を含める強制実施権が可能になります。

 改正後の強制実施権の仕組みとして緊急事態が制定された日から30日以内に緊急事態の対策に有効な技術について、その理由を付けて強制実施権の対象とする特許のリストを公開しなければなりません。さらに、ブラジル国内のニーズに対応可能なライセンス契約の対象となる特許、およびLOR(ライセンス・オブ・ライト)の対象となる特許も当該リストに含めなければなりません。(改正第71条2項)。当該リストの作成に当たり、ブラジル連邦政府は公益機関、研究機関等に相談すべきとされています(改正第71条3項)。また、民間機関、国家および地方公共団体が当該リストに特許出願および特許権の追加を要求することができます(改正第71条4項)。公開後、ブラジル連邦政府は、30日以内(30日間延長可能)に、リストアップされた特許出願および特許権について評価を行い、ライセンシー候補のブラジルにおける製造に関する技術的および経済的能力の有無、そして、国家緊急事態に対応するための強制実施権の有用性の有無について判断されます(改正第71条6項)。ブラジル連邦政府は、特許権者および出願人が公衆衛生上の緊急事態の必要性に必要な量、価格、時期の条件で国内需要を満たすことを確約した場合、対応する特許および特許出願を上記リストから除外することができます。そのために、改正では(a)国内実施、(b)自発ライセンス、および(c)国内の販売、が認められます(改正第71条7項)。

 上記、改正後第71条2項のリストに関する点として、法案の第3条に、新型コロナウイルスに起因する緊急事態の場合、改正されたブラジル産業財産法第71条で定められた30日間の期限は、改正法が執行された日から開始されると定められていたが、当該規定は拒否されました。したがって、新型コロナウイルスのパンデミックについては、新しい緊急事態宣言が必要となります。

 強制実施権成立後の課題として、強制実施権の対象となる特許権は、強制実施権の報酬額が確定するまで、当該特許に関連するロイヤリティーは製品販売価格の1.5%と定められています(改正第71条13項)。ロイヤリティーは登録された特許についてのみ与えられる。特許出願の強制実施権の場合は、登録後、報酬を請求することになります(改正第71条14項)。しかし、特許出願の場合、強制実施権が制定されると、優先的に審査が行われます(改正第71条15項)。ただ、強制実施権の対象になっていても、国家衛生監督局(ANVISA)による最終的または臨時的な製造販売承認を受けている商品しか販売することができない(改正第71条16項)ため、販売されない商品に対しては必然的にロイヤリティーが生じません。

 改正後の規定では、強制実施権の付与にかかわらず、政府は、特許権者と善意による技術協力契約の締結および販売の交渉を優先すると定められています(改正第71条18項)。その例として、8月26日、ファイザー社とバイオンテック社は、新型コロナウイルスのワクチンのラテンアメリカにおける製造業者として、ブラジルのEurofarma Laboratorios社とライセンス契約を締結した。Eurofarma社は、米国内のファイザー社の施設から医薬品の素材を入手し、2022年から完成品の製造に関わる最終の工程を担当する予定です[i]

 ボルソナロ大統領に拒否された条文の中には、幅広い問題を含むと考えられていた条文が含まれています。それは、特許権者または特許出願人に対して、技術を実施するために複数の情報(営業秘密を含む)の提供を要求することを可能にする規定です(改正第71条8項)。また、同様にバイオ医薬品に関する生体由来材料およびその他の材料の提供を要求することを可能にしています(改正第71条9項)。そして、情報および材料が提供されなかった場合、特許出願が記載要件に基づいて拒絶されることになり、登録特許の場合は、記載要件違反としてブラジル特許庁の職権による無効審判の対象となります(改正第71条10項)。大統領が拒否権を行使する際に発行する意見書によると、ノウハウは企業が独占的に占有するものであるため、その公開を求める規定は公共の利益に反すると判断したとされていました。さらに、すべての特許出願は、当業者が特許を実施できるように十分な情報が記載されていなければなりません。また、この規定は、情報の範囲が広いため、特許制度に混乱をもたらす可能性があると指摘されていました[ii]

 一方、拒否されなかったが問題を含んでいる規定として改正第71条11項があります。改正第71条11項によると、強制実施権の対象となる特許権および特許出願の主題に関連する情報、データ、書類を有する公的機関は、特許権および特許出願の実施に有用なすべてのものを共有する義務があると定めています。そのような情報に関しては、通常、第195条XIV項が適用されるが、改正第71条11項が第195条XIV項およびその他のデータ保護に関する規定の例外であると明記されています。第195条XIV項では、試験結果又はその他の非開示データであって、その推敲に相当な努力を要し、かつ、製品の商業化についての許可を取得するための条件として政府機関に提出されたものを、許可を得ることなく漏えいし、利用し又は使用すること、を不正競争行為とみなしています。現時点では、改正第71条11項の範囲は国内機関に限られ、基本的にはANVISAが管理している情報を想定しています。

 ボルソナロ大統領は、改正第71条8項、9項、10項、17項を拒否し、法案第3条も拒否したが、これに関する議論はまだ終わっていません。大統領の拒否については、議会が当該拒否について確認しなければなりません。憲法第66条4項によると、30日内に議会が拒否を確認する際、当該拒否を覆すためには議員の絶対過半数の賛成が必要となります[iii]

 そして、法律14.200/2021に関する大統領による拒否の議会による確認後、法律によって改正された条文の規則も必要となります。現在、改正前の第71条による強制実施権に関する規則は1999年に成功さった法令3.201によって定められています。そのため、当該改正を施行するためには。法令3.201の改正も併せて行うか、または、新しい規則を立法する必要があります。

ホベルト


[i] https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-and-biontech-announce-collaboration-brazils

[ii] https://presrepublica.jusbrasil.com.br/legislacao/1274849917/mensagem-432-21

[iii] すなわち、議員定数は594人のため298人の議員が拒否を覆す意見に賛成しなければなりません。

9月 20, 2021 at 16:16 コメントを残す

ブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度の廃止

長い間にブラジル特許制度の特徴的な課題となったブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度は改正法により廃止されました。今回の改正法案は、2021年3月に公布された暫定措置令(MP[i])1040/21(MP1040/21)に基づく法案であり、 開業促進などのビジネス環境の改善を主な目的とするものでした。この暫定措置令1040/21には、医薬特許付与の要件として、ブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度を規定しているブラジル産業財産法第229-C条の廃止も含まれていました。なお、議会において暫定措置令1040/21の立法化について検討された際に一部修正されたため、転換法案15/2021(PLV 15/2021)となりました。

ブラジル産業財産法第229-C条に規定されているブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度とは、ブラジル特許庁(INPI)に出願された医薬品関連の特許出願の場合、ANVISAによる事前承認手続きのためにANVISAに送付され、ANVISAが公衆衛生への影響について審査し、事前承認の審査後、ブラジル特許庁に再び送付される制度であす。事前承認が受けた場合、ブラジル特許庁において特許要件に関する実体審査が行われます。一方、事前承認を受けられなかった場合、ブラジル特許庁は事前承認を受けていないことを理由として出願を拒絶します。当該制度は2001年のブラジル産業財産法の改正により導入され、製薬会社の大きな負担となっていました。

 2021年6月23日に下院議会において暫定措置令1040/21が承認され、法案に転換されました。その後、8月4日、上院議会が同法案を可決したものの、法案の一部が改訂されたため、改めて下院議会に送付されました。8月5日、下院議会は、上院議会が提案した改訂案を却下し、8月6日にボルソナロ大統領による裁可のために送付されました。その後、ボルソナル大統領が同法案を裁可し、8月26日に第229-C条の廃止を定めた第57条を含む、法律14.195/21が成立しました。同法律により、医薬品関連の特許出願の際のブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度が廃止されることとなりました。

 ブラジル特許庁は、8月31日に交付した公報[ii]において、法律14,195/2021による第229-C条の廃止に伴う医薬品関連の特許出願に関する手続きを公表しました。その内容は以下の通りです。

  • 2021年8月27日以降、ブラジル特許庁はANVISAに医薬品関連特許出願を転送していない。
  • ANVISAから返却された出願については、第229-C条が廃止されたことを示す通知コード7.7が交付され、その後、通常の審査手続きに戻る。
  • 第229-C条の廃止前にANVISAによる事前承認の手続きが完了していた出願は、8月23日にブラジル特許庁に転送され、当該出願について従来通りに事前承認(通知コード7.5)または事前承認拒否(通知コード7.7)の通知コードが交付される。
  • 2016年12月31日までに行われた出願で、バックログ解消計画に含まれている出願は、通常通りに「Preliminary Office Action」に関する通知コードの6.21または6.22が交付される。

 しかしながら、ANVISAにおいて事前承認手続き待ちとなっていた出願の全てがブラジル特許庁において審査が行われようになるまでには少し時間かかるものの、この改正は製薬業界にとって大変ポジティブな情報といえます。日本企業に関しては、ANVISAにおよそ70件程度の出願が残っていたが、近いうちにブラジルの事前承認制度から逃れることができるようになります。

ご質問がありましたら、お気軽にご連絡ください。

ホベルト


[i] 暫定措置令(MP)とは、緊急性のある場合に限り、大統領が独自に発令できるものであり、法律と同様の拘束力を有します。なお、暫定措置令は、大統領による発令後、議会において立法化に関する検討が行われなければならない。

[ii] https://www.gov.br/inpi/pt-br/central-de-conteudo/noticias/inpi-divulga-procedimentos-apos-extincao-da-anuencia-previa-de-patentes-farmaceuticas

9月 15, 2021 at 20:01 コメントを残す

ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・判決とその効果について

2021年4月末から5月にわたって、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所(STF)は、ブラジル特許制度の特徴の一つである特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて審理を行っていました。本件の違憲訴訟の背景についてはこちらの投稿にて説明し、そして、本件の仮処分の判決についてこちらの投稿に説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。また、審理についてはこちらの投稿に説明しましたので、ご確認ください。違憲に関する決定および遡及効に関する最終決定は、5月14日に公報に以下のように公開[i]しました。9月2日に判決の全文が公開しましたが、439頁もありますので、全文についての詳細な解説は別の機会で分析したいと思いますが、本稿では判決の効果について説明します。

 ブラジル最高裁判所は、多数決でブラジル産業財産法(LPI)第9279/1996号の第40条補項を違憲としました。 遡及効に関する決定について、ブラジル最高裁判所は、多数決により、ブラジル産業財産法(LPI)の第40条補項を違憲とする判決の効力を制限する決定を下し、同規定に基づいて付与された期間延長を維持するために、本審理議事録の公表よって遡及効がない(ex nunc)としました。したがって、第40条補項によって既に付与され、現在も有効である特許の有効性は維持されるが、次のものについては除外されます。(i)違憲の主張が含まれている2021年4月7日(本訴訟の仮処分の一部が認められた日)までに提訴された訴訟に関わる特許、及び(ii)医薬品及びプロセス、メディカルデバイス及びヘルスケアで使用するための材料に関連する特許であって期間延長が認められていたものについては、いずれの場合も遡及効(ex tunc)が働き、ブラジル産業財産法(LPI)の第40条補項に基づいて認められた期間延長が失われ、法律第9,279/1996号(ブラジル産業財産法(LPI))の第40条の部分で設定された特許の有効期間に従い、該当特許の期間延長の結果として既に生じていた具体的な保護の効果は失われます。

よって、ブラジル産業財産権法第40条補項が憲法違反になりました。ブラジルでは、意見訴訟の仕組みのことで、判決後の改正が必要ではありませんので、最終決定は公表してから特許権の存続期間を最低10年保証(実用新案権は7年)の特例がなくなりました。つまり、5月13日以降に登録となる特許は出願日から20年の存続期間になります。また、例外として、違憲判断が遡及適用される範囲は(i) 技術分野を問わず、仮処分の日である2021年4月7日までに提起された無効訴訟で、産業財産権法第40条補項の違憲性が争われている特許、または(ii)「医薬品、製法、ならびに健康目的で使用される装置および/または材料」に関する特許、に該当する登録特許になります。

ブラジル特許庁(INPI)の2021年5月18日では、遡及適用される範囲となる医薬品および医薬的な方法、および健康目的で使用される機器および/または素材に関する特許権(以下、「医薬品および医療機器等に関する特許権」と略記)への対応についても明記されました。医薬品および医療機器等に関する特許権は、以下の基準に基づき特定されます。対象の特許権は、官報への掲載および存続期間が変更された特許証の再発行により通知されます。

  • 1. 事前承認を得るためにブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)に送られた特許権
  • 2. 国際特許分類(IPC)が A61B, A61C, A61D, A61F, A61G, A61H, A61J, A61L, A61M, A61Nまたは H05Gである(世界知的所有権機関 (WIPO)により医薬品に関連する技術とされている)特許権
  • 3. IPC分類が A61K/6, C12Q/1, G01N/33またはG16Hである特許権
  • 4. 判決が code 19.1 で公表された特許権
  • 5. 追加証明書

上記の基準に該当した場合に、特許存続の修正に関する通知(通知コード16.3)が出されますが、その通知が公表されてから60日以内にブラジル特許庁(INPI)に対して上記の基準の該当性を争うために不服申立を提供することができます。不服申立が認められた場合、存続期間は元の期間、すなわち特許付与日から10年に再変更されます。不服申立が認められなかった場合、存続期間の短縮は維持され、不服申立の却下は官報で通知されます。不服申立の却下に対しては、審判が可能です。

ブラジル特許庁(INPI)が既に5回に遡及適用の対象となる医薬品および医療機器等に関する特許権のリストを公表しました。つまり、以下の5回にブラジル特許庁(INPI)は違憲訴訟の影響を受け、存続期間が短縮された登録特許のリストが公表されました。

  • 2021年5月18日の公報第2628号に、ブラジル産業財産法第229-C条による事前承認を受けた3,341件の医薬品関連特許。
  • •2021年6月1日の公報第2630号に、世界知的所有権機関(WIPO)の基準によると、医薬品に関する技術に該当する2,114件の登録特許。
  • 2021年6月22日の公報第2633号に、国際特許分類(IPC)のA61K/6、C12Q/1、G01N/33、及びG16Hのいずれかに分類された97件の特許。
  • 2021年7月6日の公報第2635号に、複数の根拠に該当する496件の特許。
  • 2021年8月10日の公報第2640号に、追加証明書(ブラジル独特の制度であり、進歩性を欠く場合であっても、発明の内容に加えた改良又は進展を保護するための出願形式のこと)の5件。

ブラジル特許庁(INPI)がまたさらに件数を出す可能性がありますので、モニタリングが必要になります。

また、複数の権利者がブラジル特許庁(INPI)に対して訴訟を提訴しています。そのような主張では、ブラジル特許庁(INPI)による審査が遅かったことで、存続期間の修正を請求しています。特に、ANVISA(衛生監督局)による事前承認の対象となった案件の場合は、ブラジル特許庁(INPI)とANVISAの間で、手続きの不安定があったために、事前承認の対象とならない特許の審査期間に比べて、存続期間の修正を求める訴訟が増えています。このような動きについてもモニタリングが必要になります。

以上、そもそも、世界中に特許法の規定が違憲であるか否か訴訟が珍しい上に、判決はブラジル特許制度に大きく影響を与えてきました。その響きはまだ続くと考えられますが、妥当な存続期間に関する議論については有益な論点を持ち上げた案件といえます。

ホベルト


[i]Licks事務所による英訳はこちらをクリックすることによって確認可能です。

9月 10, 2021 at 16:05 コメントを残す

ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・審理について

2021年4月末から5月にわたって、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所(STF)は、ブラジル特許制度の特徴の一つである特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて審理を行っていました。本件の違憲訴訟の背景についてはこちらの投稿にて説明し、そして、本件の仮処分の判決についてこちらの投稿に説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。

 まず、審理の開始にあたり、報告担当裁判官を務めているDias Toffoli判事が、争点の対象となっている規定および違憲訴訟について、すなわち、本件の違憲訴訟(ADI)が、ブラジル連邦検察庁(MPF)によってブラジル産業財産法第40条補項について提起され、憲法第5条(XXXII)及び(LXXVIII)、第37条及び第37条6項、第170条(IV)及び(V)を根拠としていることが説明されました。続いて、Dias Toffoli判事は、連邦上院、共和国大統領内閣府、およびブラジル司法長官(AGU)の意見についてまとめて説明し、全ての意見書が特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項が合憲であり、それに伴い違憲訴訟違憲訴訟(ADI)が却下されるべきということでありました。最後に、Dias Toffoli判事が仮差止命令について説明し、裁判所が認めた15個のアミカス・キュリエの意見書が提出されていることを報告しました。

・アミカス・キュリエおよび訴訟関係人による意見

 本件では、活発な議論が行われるために本件審理に対する様々なアミカス・キュリエの提出および訴訟関係人の参加が認められており、このような本件への幅広い参加者による関与が連邦最高裁判所(STF)に影響を与えたといえます。

 Dias Toffoli判事による説明に引き続いて行われた審理において、ブラジル連邦検察庁(MPF)のAugusto Aras長官は、ブラジル産業財産法第40条補項により、無期限に特許期間が設定されてしまっているとし、その結果、特許存続期間からなる行政上の非効率性が社会に影響を与えているとし、さらに、特許期間のこの延長により、新型コロナウイルスのパンデミックを考慮するとさらに有害悪影響をもたらす可能性があると主張しました。その後、連邦検事長が口頭弁論を終了し、ブラジル産業財産法第40条補項の違憲宣言を求めました。

 次に、ブラジル司法長官(AGU)が、「違憲訴訟(ADI)第5529号」の却下を求める口頭弁論を行いました。ブラジル司法長官(AGU)は、その理由として、違憲の判断を遡及して行うことで法的な不安定が生じることに加え、示された憲法上の規定に違反することはありません。比較法では、米国及び日本などのように、存続期間の延長が許される可能性があります。最近、ブラジル特許庁は出願の審査期間の短縮を目標にバックログ削減プログラムを開始しました。このようなプログラムが成功すれば、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項の適用は例外的なものになるでしょう。また、違憲性が認められた場合、製薬分野以外の技術分野も被害を受けることになります。ブラジルの企業、大学・研究機関、ブラジルの大規模な特許出願人も、違憲性を認める判決によって影響を受けることになります。連邦会計検査院(TCU)が第40条補項の見直しを勧めている一方、現在、第40条補項の改正を扱う法案が審議中ということも考慮すべきである」と主張しました。また、パンデミックに関して、ブラジル特許庁は、ウイルスに有効性を持つ物質を扱う出願の審査を早期化するための制度を設定していると主張し、ブラジル司法長官(AGU)は、下記を求めました。

-ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性についての宣言を要求

-代替案として、最終的な違憲性による既に付与された特許を維持し、パンデミック期間中は新型コロナウイルスに対して有効性のある製品や方法が補項条の対象から除外されることを要求

 引き続いて、アミカス・キュリエに関する説明が開始されました。まず初めに、ブラジルAIDS学際協会(ABIA;代表:Alan Rossi Silva弁護士)は、健康問題の影響に基づいて、ブラジル産業財産法第40条補項を違憲とすることを求めました。次にアグロバイオ(代表:Liliane Roriz弁護士)は、ブラジルにおけるビジネス環境が悪化しており、2021年にいくつかの大企業が法的不確実性を含むいくつかの理由でブラジルにおけるビジネスを売却したり、ブラジルから撤退したと主張しました。更に、第40条補項は立法の権限内で対応可能なものであり、当該規定を改正することが立法によって行わなければなりません。また、審査バックログ対策のプログラムが実施されており、改正する必要性すらないため、ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性についての宣言を求める旨を主張しました。

 ブラジル知的財産協会(ABPI;代表:会長Luiz Henrique do Amaral Silva弁護士)は、立法を通じて特許権存続期間の特例措置を無効にすることは法律上相応しくないとして、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。同様に、研究開発型製薬工業協会(INTERFARMA;代表:Gustavo Freitas de Morais)は、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。農薬安定性協会(ANDEF;代表:Rodrigo de Bittencourt Mudrovitsch弁護士)は、研究のインセンティブと適切な保護期間の関係性について主張し、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。

 一方、ファインケミカル・バイオテクノロジー産業協会(Abifina;代表:Pedro Marcos Nunes Barbosa弁護士)は、ブラジル産業財産法第40条補項の規定は基本的に外国企業しか利用できないので、違憲とすることを求めました。

 ブラジル産業財産権代理人協会(ABAPI)(代表者:Marcelo Goyanes弁護士)は、ブラジルの産業財産に関するバランスを考慮すると、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項は重要であるため、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。

 ブラジルローテック協会(AB2L;代表:Otto Licks弁護士)は、ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性の宣言を求めました。また、AB2Lは、本件の問題の原因は、ブラジル特許庁の審査遅延であり、すなわち、第40条補項の制度は存続期間の延長を定める制度ではありません。存続期間の計算は確定されているが、法律上、利用可能な計算方法が2つあるだけということ。ブラジルの特許制度では、そのような規定が187年前から施行されている旨を主張しました。

 ブラジル知的財産研究所(IBPI;代表:Felipe Santa Cruz弁護士)もPró-Genéricos(代表:Marcos Vinícius Furtado Coelho弁護士)も、パンデミックの状況およびブラジルの健康保険制度への負担に照らして、ブラジル産業財産法第40条補項を違憲とすることを求めました。

 全国革新的企業研究開発協会(ANPEI;代表:Luiz Augusto Lopes Paulino)は、ブラジル産業財産法第40条補項が無効にされた場合、ブラジルにおける研究活動に影響が生じるとの理由で、合憲とするよう要求しました。

 ブラジルの電気・電子産業協会(ABINEE;代表:Regis Arslanian)は、第40条補項が違憲であるとするこの度の紛争は医薬特許の問題から開始されたものの、違憲が認められた場合、電気通信や電力分野などの他の技術分野においても、何千件もの特許を失うことになり、ブラジルにおける5Gの実施に悪影響を与えることは間違いがないと主張しました。さらに、ブラジ特許庁の審査バックログ対策によって第40条補項の適用が減ることになるので、ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性についての宣言を求めました。

 連邦公共弁護局(DPU;代表:Gustavo Zortéa da Silva公共弁護官)は、健康保険制度と特許制度では、健康へのアクセスに関する権限のほうが重要であると主張し、ブラジル産業財産法第40条補項を違憲とすることを求めました。反対に、米州知的財産協会(ASIPI;代表:Gabriel Leonardos弁護士)は、ブラジルの特許制度は最終的に健康保険制度に実質的な影響を与えず、比較法上も存続期間の特例措置という制度が他の国にも存在すると説明し、ブラジル産業財産法第40条補項を合憲とすることを求めました。

 クロップライフ・ブラジル(代表:Eduardo Hallak弁護士)は、第40条補項の制度は存続期間の延長に関する制度ではないと主張し、例外措置に過ぎないと主張しました。しかし、延長制度であったとしても、比較法では、米国や中国など、期間延長を行っている国の例があると説明し まし た。また、本件の問題意識は医薬に関するものであるが、農薬・バイオの分野にも全体的に悪影響を与える可能性があると主張し、ブラジル産業財産法第40条補項の合憲性について宣言することを求めました。

 アミカス・キュリエによる口頭弁論の終了後、連邦高等裁判所の11人の裁判官が意見を述べる機会が与えられ、11人の裁判官が意見を述べました。

・報告担当のDias Toffoli判事による意見

 報告担当のDias Toffoli判事は、次のように自己の意見を述べました。まず、特許制度の有様を検討すると、特許権は時間的に制限されていることが特許制度の根本的な原則であり、それによって特許制度が技術の発展に貢献することを強調しました。次に、ブラジル特許庁による審査のやり方について説明しながら、特許の保護は出願を許可する決定から始まるのではなく、いったん特許が付与されれば、実質的な保護は出願日から遡って行われると述べました。そして、Dias Toffoli判事は、ブラジル産業財産法第40条補項は、産業財産法の立法過程において十分な議論がなされていなかったと説明しました。また、第40条補項が正そうとする問題は、ブラジル特許庁における審査バックログおよび審査遅延を補うことを目的としており、何年も解決策がないまま存在している問題であると主張しました。さらに、比較法では、ブラジル産業財産法第40条補項に相当する規定は世界に存在せず、第40条補項はTRIPSプラスの規定であることを説明しました。また、問題となっている条項の違憲性を認めても、TRIPS協定に違反することにはならないと述べました。

 Dias Toffoli判事は、そもそもブラジル特許庁のバックログが「合理的な時間内に決定を行う」という原則(ブラジル連邦共和国憲法第5条、LXXVIII)と「行政の効率性の原則」(ブラジル連邦共和国憲法第37条)に違反していると主張しました。また、ブラジル特許庁における審査に関する問題とともに、長い存続期間を取得するために、審査を遅らせるような出願人による行為もあると述べました。この点について、ブラジル特許庁は、様々な技術分野によって平均の審査期間が異なる状況を考慮して、技術分野によって異なる対応が行われていると反論しました。さらに、Dias Toffoli判事は、連邦会計検査院(TCU)の報告書を引用して、ブラジル特許庁の審査遅延に対する対応が不十分であり、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項の存在がブラジル特許庁における当該問題に悪影響を与えていると指摘しました。Dias Toffoli判事は、このような理由から第40条補項を改正するためのコンセンサスがあると主張しました。Dias Toffoli判事は、比較法の観点から、ブラジルは世界で最も長い存続期間を付与している国であると説明しました。このことが、先進国ではないブラジルにとって、国内企業に過度な負担を強いることになり、国際的な競争においてもブラジル企業が悪影響を受けることになります。一方、外国の出願人は自国の特許制度よりも寛大に扱われることになると主張しました。

 特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項と健康へのアクセスについて、Dias Toffoli判事は、医薬品分野以外の技術分野における特許制度の重要性に関するAB2Lのアミカス・キュリエの主張を認めながら、現行の産業財産法の規定は医薬品分野に特に影響を与えると主張しました。連邦会計検査院(TCU)の報告書に基づいて、特許期間の延長が統一医療システム(SUS)に大きな影響を与えることを示し、医薬品価格の上昇、公共支出や国民の医薬品へのアクセスに影響があると説明しました。また、このような状況は、新型コロナウイルスのパンデミックに対処する上で、この問題がさらに大きくなったと主張しました。特許存続期間の延長は、国の公衆衛生政策に直接的な影響を与え、国民の医薬品、公共政策、医療サービスへのアクセスに影響を与えるとしました。

 Dias Toffoli判事は、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項は、特許の存続期間を不明実にしているので、法的確実性と憲法第5条(XXIX)に違反していると主張しました。また、出願人の戦略によっては存続期間を長くする事が可能であるとし、それにより社会の負担が変わることがあるため、憲法第5条(XXIX)に違反しているとしました。不当な競争上の優位性が生じないように、特許保護は明確な規則に従って与えられるべきとしました。また、Dias Toffoli判事は、付与されていない特許出願を保護するためには、ブラジル産業財産法第44条があり、それと第40条補項との共同適用により、特許保護の延長が生じているとしました。

 Dias Toffoli判事によると、第40条補項は、知的財産の社会的機能(ブラジル憲法第5条第XXIX項、第170条第III項)、自由競争、消費者保護にも違反しているとしました。特許の存続期間は一定の期間に制限されているからこそ、その存続期間が満了した後、社会が特許に基づいて保護されていたものを自由に利用することができます。その関係性が極めて重要であり、第40条補項による制度により、付与されるまで特許の存続期間がいつ満了するのか分からないため、ビジネス活動に相応しくない不安定さをもたらすことになります。したがって、自由競争と消費者保護に違反することになります。

また、Dias Toffoli判事は、ブラジルにおける特許制度に関して「違憲状態」が存在するとして、次の4つの具体的な理由を挙げました。(i)BRPTOによる特許出願の審査遅延、(ii)ブラジル産業財産法第40条補項によって認められた「追加」の存続期間、(iii)他の国と比較してブラジルの特許存続期間が長いこと(iv)ブラジル特許庁の内部問題の解決ができていないこと。Dias Toffoli判事は、これらの理由はすべて、ブラジル特許庁が特許出願の審査に関する行政上の役割を果たしていないことが原因として生じているため、ブラジルの特許制度が機能していないと主張しました。このような状況にかかわらず、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項が存在することにより、ブラジルの特許庁における当該問題に悪影響を与えかねないと主張しました。

 最後に、Dias Toffoli判事は、第40条第補項を違憲とし、違憲の判断をする場合は、原則として「ex nunc(遡及効がない)」の効果を与えることを提案しました。ただし、その例外として、当該判決は、期間延長が認められた医薬品および健康に使用するための方法、装置、材料に関する特許については、「ex tunc(遡及効がある)」を適用することを提案しました。

・報告担当以外の判事による意見

 報告担当判事の意見陳述が終わると、他の判事が先任順位(着任が新しい判事から)によって意見を述べました。

 Nunes Marques判事は、ブラジルの産業財産権にとってこのような審理が重要であることを強調しながら、次のように述べました。ブラジルでは、イノベーションの促進を確保するために、一時的な経済的独占利用による財産権が保証されています。しかし、発明者に与えるインセンティブとなる特許権と、社会が発明にアクセスする権利(パブリックドメイン)とのバランスを取りながら産業財産制度を考えるべきであるとしました。さらに、比較法上、存続期間の延長に関する制度(存続期間の調整(PTA)及び存続期間延長(PTE))は例外的に適用され得ることがある一方、ブラジル産業財産法第44条は出願から特許付与までの間についてある程度の保護を与えるため、ブラジルについては存続期間の延長に関する制度が不要となります。そのため自由競争を目指そうとするブラジルでは第40条補項による制度は相応しくありません。したがって、当該第40条補項は、法の適正手続き(第5条、LIV)と一時的な特権(第5条、XXIX)、自由競争(第170条、IV)、消費者保護(第170条、V)に違反しているため、違憲であると理解していると述べました。その上で、新型コロナウイルスのパンデミック対策に役立つ可能性のある医薬品、たとえばレムデシビル(Remdesivir)等、が第40条補項に基づいて存続期間が制定されていたので、現在、第40条補項による制度は相応しくないとしました。また、第40条はTRIPS協定第33条に基づいているが、第40条補項は過剰な保護を生み出していると指摘しました。そして、ブラジル特許庁の特許出願審査の遅延を解決するために政府が行動しなければならないと論じながら、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項は違憲であるとしました。

 Alexandre de Moraes判事によると、特許権存続期間の特例措置に関する最も重要な問題は特許が登録になるまでに存続期間を確定することができないことです。それは、特許権の社会的な機能に大きな損害をもたらすとしますた。したがって、問題となっている条文は、効率性、合理的な時間内での意思決定、公平性の原則に違反しています。ブラジルが国として条約から受けた義務は、第40条の本文のみで満たしており、第40条補項の制度は不当な環境を作りだしており、ブラジルの法制度に相応しくない規定であるとし、違憲性を認める意見を述べました。しかしながら、報告担当判事が説明したブラジル特許庁における「違憲状況」については、現状では差ほど深刻ではないと延べ、問題は第40条補項による存続期間の不確実さがあるという点が違憲である旨を明らかにしました。

 引き続き、Edson Fachin判事は、知的財産の保護は、社会に不可欠な製品の供給を上回ることはできないと主張しました。同判事は、特許保護は法の下では平等であり、一方では発明者を保護し、他方では新たな発明を奨励し、その発展を可能にし、発明の所有者が革新を続けること、あるいはその発明を完成させることを奨励するものであると述べました。その一方で、時間的な制限がある制度であることを繰り返し述べました。また、一般的には市場の自由が原則であり、産業財産権に対応する法制度は例外であり、社会的利益を含めた多面的な観点から検討すべきであると述べました。さらに、保護期間の不確実性は、基本的な権利、特に社会的権利や経済秩序に抵触すると述べました。有効期間に関する期間と確実性は維持されなければならないと述べました。特許権者の特権は、発明の集団的利用の権利と比較して考慮されるべきです。競争を維持するためには、知的財産の保護の行使が、その保護の利用範囲を超えることはできないと主張しました。競争の排除は、自由の根幹を揺るがすものであり、これを強化しなければならないと述べました。また、特許保護の有効期間を無期限にすることを制約する基本的な権利として、法的確実性の重要性を繰り返し述べました。最後に、ブラジル産業財産法第40条補項の違憲性を指摘した報告担当判事の意見に全面的に同意して締めくなりました。

 Edson Fachin判事は、知的財産の保護は、社会に不可欠な製品の供給を上回ることはできないと主張しました。もちろん、発明家が自分の発明について投資した負担をカバーするために経済的な活動によって利益を得るためのインセンティブとなる機能が重要ではないとは言えないものの、このようなインセンティブには必然的に制限がなければならないとしました。自由競争は原則であり、特許制度は例外であるため、社会的利益を含めた多面的な観点から検討すべきであるとしました。社会はパブリックドメインに入る特許を検討しながら経済活動を企画することが可能であるため、特許の存続期間の不確実性は、産業活動を初め、様々なビジネス環境に悪影響を与えるとし、よって、確実な特許の存続期間を制定する制度がブラジルにおける特許制度には欠かせないとしました。特許権者の競争上の立場を維持するためには、知的財産の保護の行使が、その保護の利用範囲を超えることはできないとし、自由競争を守ることが優先されるべきとしました。したがって、ブラジル産業財産法第40条補項の違憲性を指摘した報告担当判事の意見に全面的に同意するという意見を述べました。

 一方で、Luis Roberto Barroso判事は、合憲であるという意見を最初に述べ、本件を検討する際に、3つの重要な問題があると述べました。一つ目は、本条文が25年間にわたって施行されていることを考慮しなければならないこと。二つ目として、第40条補項は、ブラジル特許庁が特許出願の審査に10年以上がかかっているから問題となっていること。つまり、ブラジル特許庁には審査遅延について責任があること。三つ目は、第40条補項は政治的な立場で判断すべきか、それとも憲法上の解釈として判断すべきかということ。Luis Roberto Barroso判事は、イノベーションと研究の促進のために特許制度の存在が大きいと強調しながら、第40条補項の状況は一般規定である第40条の例外規定に過ぎないとしました。一方で、第44条の規定は出願から出願人・特許権者に対して保護を与えていないと主張し、保護は登録からでないと存在しないと強調しました。連邦最高裁判所(STF)の通説では、特許付与の前に存在する権利は特許を得るものの期待権にすぎないとし、それについて、特許出願中の侵害行為に対する差止請求が却下された判例を示しながら、そのような差止請求が却下されるのであれば登録までに保護が与えられていないとしました。ブラジル特許庁の審査バックログが米国や欧州連合に比べて大きいことを認識している一方で、ブラジル特許庁が審査期間を短縮していることを認め、バックログが解決されたら第40条補項の問題がなくなると述べました。健康へのアクセスに関する権利については、むしろ、医薬に関する研究が適切な状況で行われることも健康へのアクセスという権利の中に含められているとしました。したがって、Luis Roberto Barroso判事は、以下の理由により憲法違反はないとしました。(i)有効期間が決定されているため、一時性や法的確実性の違反はありあません。特許が付与されてから10年間です。ブラジル特許庁が遅れた場合、発明者は責任を負うことができません。(ii)出願が遅れた人は誰でも、つまり同じ状況であれば、同じ有効期間になるのでイソノミアの違反はありません。(iii)憲法自体が独占期間の付与を重んじているため、自由競争と消費者の権利の違反はありません。憲法上では、特許権は満了日のある存続期間に制限されるので、違反はありません。(iv)国家の客観的責任とは、まさに国家が引き起こした損害に対して社会的損失を負担することです。第40条補項の問題は憲法上の問題ではなく、議会で議論すべきものと考える。効率の面では第40条補項に問題があるかもしれないが、第40条補項が憲法に違反していないとしました。

 Rosa Weber判事は、違憲性を認める意見を述べました。第40条補項により存続期間に不確実性が生じるため、ブラジルの社会的利益と技術的発展を阻害していると述べました。問題となっている条項の予測不可能性は、有効な特許期間を不確実にすることを可能にし、一時的でなければならないという知的財産権の基本的な概念を直接攻撃するものです。第40条補項により、特許の存続期間が不確実になることで、実質的に存続期間が確定しない特許を生み出すことになります。よって、問題となっている第40条補項は、違憲であり、特許制度の根本的な考え方にも違反していうといえます。第40条補項は、ブラジル憲法第5条(XXIX)、第78条および第170条(iv)にも違反するため、憲法の規定に適合していません。なお、Rosa Weber判事は、違憲性を認める一方、ブラジル特許庁に責任があることについては認めずに、どちらかというとAlexandre de Moraes判事の意見に近い意見をもっていると述べました。

 Cármen Lúcia判事は、憲法上では特許の存続期間を一時的なものにすべきと制定しているため、産業財産法が既に25年もの間施行されているとはいえ、不確実な存続期間は憲法違反であると述べました。第40条補項に規定されている期間に存在する不確実性が憲法に違反しており、当該規定は不必要で不十分なものであるため、憲法で確立された原則に反する効果をもたらしていると考えていると述べました。Cármen Lúcia判事も、Rosa Weber判事とAlexandre de Moraes判事の意見に従い、違憲性を認める一方、ブラジル特許庁には責任がないと述べました。

 Ricardo Lewandowski判事は、サンパウロ大学が主導する「Grupo Direito e Pobreza」(直訳すると「法と貧困問題グループ」)という学者グループが提出したアミカス・キュリエに賛同しながら、次のような理由から第40条補項が憲法に違反すると述べました。(1)ブラジルの特許存続期間は他の30カ国より長いこと。(2)ブラジル特許庁の審査官の人数は十分であり、第40条補項の規定が不要であること。(3)第40条補項は健康へのアクセスの阻害となります。(4)たとえば、米国の特許制度においても存続期間についてはブラジルよりも厳格であること。また、他のBRICS諸国においても第40条補項のような制度は存在しません。最後に、ブラジルにおいて存続期間が最も長い10件の特許のうち、9件は製薬業界のものであり、問題となっている条文の機能不全に疑いの余地はなく、消費者に過度の負担をかけていると結論づけました。したがって、第40条補項は、憲法の第5条(XXIX)、および第170条に違反し、貧しい人の医薬品へのアクセスについて悪影響を与えるものです。憲法第196条に規定されている健康に対する権利についても、当該規定により医療制度に過度の負担をかけることになるため、憲法第196条にも抵触していると述べました。

 続いて、Gilmar Mendes判事は、産業財産に対する権利は、特にグローバル化された経済の中では、極めて重要な権利であると述べました。しかしながら、社会に不利益をもたらす行政上の審査遅延によって、憲法上の規定が損なわれることはないとしました。したがって、ブラジル特許庁が合理的な期間内に特許出願の審査を進めれば、第40条の一般規定が適用されて問題が生じません。しかし、連邦会計検査院(TCU)が提出した調査報告を引用しながら、医薬品の特許期間の延長がジェネリック医薬品の供給に影響を与え、ブラジル全体に深刻な損失を与えていると述べました。ブラジル特許庁が審査バックログを解決するための努力が欠けているとしつつ、審査請求のための期間やその他の出願人が任意に行う行為により、審査期間はブラジル特許庁だけにより左右することができるものではないと述べました。例外規定である第40条補項が原則的に適用されることが、状況的に違憲であり、その結果、第40条補項が一般規定として憲法に違反するものになっているので、報告担当判事の意見に従うと述べました。

 連邦最高裁判所(STF)において最も長い期間着任しているMarco Aurélio Mello判事は、ブラジルが特許存続期間についてTRIPS協定に定められている存続期間よりも長い存続期間を与えていることが相応しくないと述べました。一般規定の第40条は、TRIPS協定又は欧州特許条約に準拠しているので十分であるとしました。特に、第44条の規定も存在しているため、第44条と第40条補項の両適用はブラジル特許制度におけるアンバランスを生み出すとしました。特に、自由競争を目指すのであれば、第44条と第40条補項の両適用は相応しくないです。ブラジ特許庁には責任がないとしながら、特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項は不要であると述べて、当該規定が憲法に違反していると述べました。

 最後に判事長を務めているLuiz Fux判事が合憲の意見を述べました。第40条補項は、単に最低限の実質的な保護期間を保証しているだけであり、憲法上は問題がないと述べました。憲法は合理的な時間内に意思決定を行うことを原則としており、行政機関の遅延は社会を害してはいけないとし、ブラジル特許庁がその原則を尊重していないものの、その負担を社会に転嫁してはならないです。また、Luiz Fux判事は、他の判事による第44条の解釈に同意せず、特許出願は登録になるまでは特許を得るための期待権にすぎないとしました。医薬品関する審査の遅延は、ブラジル特許庁とANVISAが原因であるとし、出願人の影響は少ないとしました。特許権存続期間の特例措置を定める第40条補項を無効にすることは、ブラジル特許制度におけるアンバランスを生じさせるため、憲法上の問題はないとしました。

 最後に、報告担当判事が論じていたブラジル特許庁の責任およびブラジル特許庁における「違憲状況」について全般的な審理が行われたが、Dias Toffoli判事は、最終的に当該問題意識については議会に伝えるだけで十分であると判断しました。さらに、Carmen Lucia判事はブラジル特許庁を管理しているブラジル開発商工省(MDIC)にも伝えるべきと提案しました。  そして、遡及効果についての審理に進み、最終的には報告担当のDias Toffoli判事が最初に提案した内容となっていました。つまり、(i)現在、違憲の主張が含まれている2021年4月7日までに提訴された訴訟に関わる全ての特許について違憲の遡及効があります。(ii)医薬・製薬・メディカルデバイスに関する全ての特許(連邦最高裁判所によるとおよそ3,435件)について違憲の遡及効があります。(iii)審査中の全すべての特許出願について、違憲の遡及効があります。

ホベルト

9月 1, 2021 at 14:29 3件のコメント

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