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ブラジル公正取引委員会による標準必須特許(SEP)調査
2025年4月23日、ブラジルの公正取引委員会(CADE)は、標準必須特許(SEP)に関する紛争に介入する権限を初めて実施し、エリクソンのライセンス活動における支配的地位の乱用に関する職権による調査の開始を勧告した。
ブラジル公正取引委員会(CADE)は、エリクソンがモトローラおよびレノボに対して,グローバルなライセンス契約を条件でブラジルのみについて5G特許をライセンスすることを拒否したことについて,独占禁止法違反であるかどうかを調査する。すなわち,エリクソンのライセンス活動が標準必須特許(SEP)FRAND(公正,合理的,差別のない)条件に該当するかどうかを調査する。
今回の調査は、エリクソンとレノボが2025年4月上旬に広範な特許侵害紛争について和解し、ライセンス契約によって解決した後に始まった。レノボは,2014年にモトローラ・モビリティを買収した後,エリクソンとそのモバイル5G特許ポートフォリオのライセンス契約を結ぶために数年にわたって交渉を行っていた。しかし,エリクソンは,(イギリスやブラジルを含む)世界中でレノボおよびモトローラ・モビリティに対して,特許侵害訴訟を提起していた。2024年,モトローラとレノボは,エリクソンに対してブラジルでの暫定的ライセンスを強制するための仮処分を伴う独占禁止法違反に関する予備審査をブラジル公正取引委員会(CADE)に請求した。
ブラジル公正取引委員会(CADE)の調査部門は、2024年11月に上記仮処分の請求を却下したため,レノボはその決定に対してブラジル公正取引委員会(CADE)の審判機関に不服申し立てを行った。その後,レノボは,グローバルに和解が成立したことにより審判機関への不服申立を撤回したが,同審判機関はエリクソンに対する調査の開始を職権で命じていた。
上記仮処分に関する予備調査において、ブラジル公正取引委員会(CADE)はホールドアップがなかったという判断を既に下していた。つまり,予備調査の段階でエリクソンによるブラジルにおける権利行使はライセンス契約を締結するための対策ではなかったと判断していた。今回,ブラジル公正取引委員会(CADE)が調査を開始することにより,先の意見を覆してエリクソンの行為が独占禁止法に違反していると判断するのではなく,ブラジル公正取引委員会(CADE)が当該事件に関するエリクソンのライセンス活動を継続的に調査する必要があるためであると説明した。
今回の職権による調査の勧告に当たり,エリクソンがモトローラおよびレノボに対して契約を締結させるために不当かつ不公正な条件を課し,それが価格差別に該当する可能性を検討すべきと述べた。ブラジル公正取引委員会(CADE)の委員は,必須特許の乱用は公共の利益に関わる問題であるとコメントしており,今回のケースは5G電話市場へのアクセスに不可欠な必須特許を保有する,通信インフラ分野で支配的地位にある企業に関するものである。
ブラジル公正取引委員会(CADE)による職権調査は,理論的には経済秩序の違反を構成する可能性がある要素が存在し,不服申立の撤回が承認されたにもかかわらず,当該事実を調査し続ける必要があるためだとしている。また,別のブラジル公正取引委員会(CADE)委員によると,ブラジル公正取引委員会(CADE)が主導して,特許権の権利行使による仮処分差止請求が支配的地位の乱用に該当する可能性に関する基準を確立するために,さらに調査を行うべきであるともされた。
ブラジルにおけるエリクソンv. アップルの紛争について
2022 年12 月9 日,エリクソンとアップルは,世界中で行われていた5G に関するクロスライセンス紛争が和解によって解決することとなった。今回の和解は,米国及びドイツでの係争が進展したことにより,合意に至ったものであると考えられる。しかし,今回の紛争においてあまり認識されていないのは,最近の南米における紛争の動きが,和解に至るきっかけの一つであったということである。
エリクソンとアップルの特許紛争は,エリクソンの5G 関連特許のポートフォリオに対する適切なライセンス料の支払いについて両社が合意に達することができずに,ライセンス契約が更新されなかったにもかかわらずアップルが技術を使い続けたことで2021 年10 月以降に開始されたものである。この紛争は,いくつかの法域で展開された。エリクソンは,米国の連邦地方裁判所及び米国国際貿易委員会(ITC)において,アップル社に対する訴えを提起した。さらに,エリクソンはドイツ,英国,オランダ,ブラジル及びコロンビアにおいても訴訟を提起した。これに対し,アップルはドイツ及び米国で訴訟を提起し,また,米国特許商標庁(USPTO)の審判部において数十件の無効審判及び異議申立を行った。
和解に至った南米での動きは,まずコロンビアにおける当該紛争の進展である。2022 年7 月,ボゴタの裁判所(Juzgado 043 Civil del Circuito de Bogotá)は,アップルがエリクソンの5G の標準必須特許(SEP)を侵害していると判断し,アップルがコロンビアで5G を利用するiPhone 及びiPad の輸入・販売することを禁止する判決を出した。また,同裁判所は,アップル社に対して,世界の他の場所で訴訟差止命令(anti-suit injunction)を求める行為を禁止する差止命令(anti-anti-suitinjunction)を出した。
ブラジルでは,エリクソンが,アップルが5G に関する3 件の特許権を許可なく使用したことに基づき,差し止めと損害賠償を請求する訴訟を起こした。エリクソンはリオデジャネイロ州裁判所に仮処分を請求したが却下された。エリクソンは当該判決を不服として即時抗告を行い,リオデジャネイロ高等裁判所は仮処分を却下したリオデジャネイロ州裁判所の決定を覆し,差止の仮処分請求を認めた上に特許の使用料金に関して暫定的に年額2 億米ドルの損害賠償額を設定した。アップル社はリオデジャネイロ高等裁判所の判決を不服として上訴し,ブラジル司法最高裁判所(STJ)で審議されることになった。
和解の3 日前の12 月6 日,ブラジル司法最高裁判所(STJ)が標準必須特許(SEP)(及び5G)について初めて審理した。ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,標準必須特許(SEP)の権利者が差止の仮処分を請求することを可能と認めた。ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,リオデジャネイロ高等裁判所がアップルに対して下した仮処分命令が適法であることを確認した。それによって,ブラジル最高裁判所(STJ)は,アップルに対し,ブラジル国内における5G 携帯端末の販売の差し止め,もしくはエリクソンに端末1 台につき3 ドルを直ちに支払うよう命じた。なお,ブラジル司法最高裁判所(STJ)が設定した端末1 台につき3 ドルという金額は,従前の契約に基づいて可能となる金額から定められているが,エリクソンが契約更新時に求めた5 ドルよりは低い金額となっている。この結果,エリクソンが勝訴したリオデジャネイロ高等裁判所の判決が出た2022 年4 月以降,アップルがブラジルで販売したiPhone 及びiPad 1 台につき3 ドルの金額を遡って支払わなければならないとなるはずであった。ブラジルにおいては,アップルが2020 年に発売したiPhone12から5G 技術が導入され,iPad の場合は,2021 年に発売されたiPad Pro から5G が利用できるようになっている。
ブラジル司法最高裁判所(STJ)の論理的根拠は,標準必須特許(SEP)に対して差止請求の仮処分を認めない理由はなく,FRAND 宣言を差止命令による救済に影響を与えない契約法の問題としてとらえるべきであるとした。ただし,エリクソンは,ブラジルの裁判所によるロイヤリティの設定を望んでおらず,新たなライセンス契約が締結されるまでの間,侵害を差し止める決定を求めていただけであった。しかし,ブラジル司法最高裁判所(STJ)の判決によれば,アップルは,ブラジルにおけるエリクソンの特許の使用について補償しなければならないとした。結果的に,ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,差止命令がホールドアウトを防ぐためのツールになるということを示したことになる。侵害訴訟において最終的に支払われる損害賠償だけでは,標準必須特許(SEP)に関する適切な救済手段とは考えなかったのである。
現在,ブラジルは世界第6 位のスマートフォン市場である。従って,この決定がエリクソン社に和解を成立させるための更なる動機を与えたと言っても過言ではない。また,ブラジルでは標準必須特許(SEP)の差止請求(及び差止請求の仮処分)が認められる可能性があることにより,標準必須特許(SEP)に関わる紛争に関して重要な場所に
なりえる。事実,エリクソンとアップルの紛争だけでなく,最近ではノキアがオッポと,Vringo がZTE と,DivX がサムスンとTCL との紛争においてブラジルが重要な場所となっている。2012 年から2019 年にかけて,ブラジルにおける標準必須特許(SEP)の侵害に関する訴訟はたった6 件しかなかった。一方,2020 年から2022 年にかけて,8 件の標準必須特許(SEP)侵害訴訟が提起されおり,ブラジルがグローバルなFRAND 訴訟に関して影響を与える地域になりつつある。
