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ブラジルにおける強制実施権の改正に関する法案12/2021(PL 12/2021)/法律14.200/2021
ブラジル産業財産法には、立法当初からTRIPS協定に基づく強制実施権制度が設けられています。特許法68条ないし74条において強制実施権について規定されており、特許権者が現地生産をしていない場合(68条1項a)及び特許権者が製品を輸入している場合(68条4項)は、第三者に対して並行輸入に関する強制実施権を付与することができます。
ブラジルでは、2021年1月の新型コロナウイルスのパンデミックによる国家予防接種計画の迅速化を理由とした法案第12/2021(PL 12/2021)が議会に提出されました。同法案は、反ボルソナロ政権が提案した法案であるため、議会と連邦政府の間に敵対心を生むことになりました。一方、同法案はTRIPS協定に違反する可能性がある問題を複数抱えていたため、世界中から注目を集めていました。
法案12/2021は、2021年7月6日、下院において修正された上で可決され、8月11日には、上院において61対13の賛成多数により可決されました。8月13日、可決された法案がボルソナル大統領の裁可のために転送されました。
新型コロナウイルスのパンデミック対策が切っ掛けではあったものの、議会で可決された問題のある条文を含む同法案が立法されないようにボルソナル大統領には同法案を拒否する期待がありました。ボルソナロ政権は、同法案を全面的に拒否することを検討していたようではあるが、拒否した場合、議会の一部からの敵意が増える可能性があるため、大統領官房庁は様々な機関と直接に意見交換を行っていました。外務省をはじめ経済省、健康省、科学技術省などのいくつかの省庁が拒否に関する異なる意見を提案しており、拒否すべき事項の優先順位を決めることが課題となりました。特に、外務省は、TRIPS協定に違反する可能性を意識していました。また、ボルソナロ政権は、新型コロナウィルスパンデミック対策に関する強制実施権の議論は、ブラジルにおいてのみ行うべきではなく、他国とともにWTOの場で行うべきだと考えていました。その後、9月2日にボルソナロ大統領が部分拒否付きで法案12/2021を裁可し、法律14.200/2021が成立した。成立した法律14.200/2021には、問題視されていた条文が一部拒否されているものの、依然として問題視されていた一部の条文が残っています。
最初の問題は、改正後の強制実施権の範囲です。今回の改正において産業財産法第71条の強制実施権の要件が変更されます。現行のブラジル産業財産法第71条では、強制実施権を制定するためには、「emergência nacional(national emergency)」または「interesse público(public interest)」のいずれかに該当しなければならなかった。しかしながら、改正後の規定では、強制実施権を制定するためにもう一つの選択肢として「estado de calamidade pública de âmbito nacional(nationwide state of public calamity)」を導入した。改正法では、「estado de calamidade pública de âmbito nacional」の解釈がポイントになります。同法案では、改正第71条17項として、公衆衛生上の国家的または国際的な緊急事態が発生した場合に、強制実施権は、行政府のみならず、議会の立法によって付与することを可能にしていたが、同規定がボルソナロ大統領によって拒否されました。また、その他の問題視されている条文として、法律14.200/2021によって新たに規定された第71-A条です。同条文によると、人権的な理由によって、医薬品分野の製造能力が低い又は製造能力がない国に輸出するために、輸出のための実施を含める強制実施権が可能になります。
改正後の強制実施権の仕組みとして緊急事態が制定された日から30日以内に緊急事態の対策に有効な技術について、その理由を付けて強制実施権の対象とする特許のリストを公開しなければなりません。さらに、ブラジル国内のニーズに対応可能なライセンス契約の対象となる特許、およびLOR(ライセンス・オブ・ライト)の対象となる特許も当該リストに含めなければなりません。(改正第71条2項)。当該リストの作成に当たり、ブラジル連邦政府は公益機関、研究機関等に相談すべきとされています(改正第71条3項)。また、民間機関、国家および地方公共団体が当該リストに特許出願および特許権の追加を要求することができます(改正第71条4項)。公開後、ブラジル連邦政府は、30日以内(30日間延長可能)に、リストアップされた特許出願および特許権について評価を行い、ライセンシー候補のブラジルにおける製造に関する技術的および経済的能力の有無、そして、国家緊急事態に対応するための強制実施権の有用性の有無について判断されます(改正第71条6項)。ブラジル連邦政府は、特許権者および出願人が公衆衛生上の緊急事態の必要性に必要な量、価格、時期の条件で国内需要を満たすことを確約した場合、対応する特許および特許出願を上記リストから除外することができます。そのために、改正では(a)国内実施、(b)自発ライセンス、および(c)国内の販売、が認められます(改正第71条7項)。

上記、改正後第71条2項のリストに関する点として、法案の第3条に、新型コロナウイルスに起因する緊急事態の場合、改正されたブラジル産業財産法第71条で定められた30日間の期限は、改正法が執行された日から開始されると定められていたが、当該規定は拒否されました。したがって、新型コロナウイルスのパンデミックについては、新しい緊急事態宣言が必要となります。
強制実施権成立後の課題として、強制実施権の対象となる特許権は、強制実施権の報酬額が確定するまで、当該特許に関連するロイヤリティーは製品販売価格の1.5%と定められています(改正第71条13項)。ロイヤリティーは登録された特許についてのみ与えられる。特許出願の強制実施権の場合は、登録後、報酬を請求することになります(改正第71条14項)。しかし、特許出願の場合、強制実施権が制定されると、優先的に審査が行われます(改正第71条15項)。ただ、強制実施権の対象になっていても、国家衛生監督局(ANVISA)による最終的または臨時的な製造販売承認を受けている商品しか販売することができない(改正第71条16項)ため、販売されない商品に対しては必然的にロイヤリティーが生じません。
改正後の規定では、強制実施権の付与にかかわらず、政府は、特許権者と善意による技術協力契約の締結および販売の交渉を優先すると定められています(改正第71条18項)。その例として、8月26日、ファイザー社とバイオンテック社は、新型コロナウイルスのワクチンのラテンアメリカにおける製造業者として、ブラジルのEurofarma Laboratorios社とライセンス契約を締結した。Eurofarma社は、米国内のファイザー社の施設から医薬品の素材を入手し、2022年から完成品の製造に関わる最終の工程を担当する予定です[i]。
ボルソナロ大統領に拒否された条文の中には、幅広い問題を含むと考えられていた条文が含まれています。それは、特許権者または特許出願人に対して、技術を実施するために複数の情報(営業秘密を含む)の提供を要求することを可能にする規定です(改正第71条8項)。また、同様にバイオ医薬品に関する生体由来材料およびその他の材料の提供を要求することを可能にしています(改正第71条9項)。そして、情報および材料が提供されなかった場合、特許出願が記載要件に基づいて拒絶されることになり、登録特許の場合は、記載要件違反としてブラジル特許庁の職権による無効審判の対象となります(改正第71条10項)。大統領が拒否権を行使する際に発行する意見書によると、ノウハウは企業が独占的に占有するものであるため、その公開を求める規定は公共の利益に反すると判断したとされていました。さらに、すべての特許出願は、当業者が特許を実施できるように十分な情報が記載されていなければなりません。また、この規定は、情報の範囲が広いため、特許制度に混乱をもたらす可能性があると指摘されていました[ii]。
一方、拒否されなかったが問題を含んでいる規定として改正第71条11項があります。改正第71条11項によると、強制実施権の対象となる特許権および特許出願の主題に関連する情報、データ、書類を有する公的機関は、特許権および特許出願の実施に有用なすべてのものを共有する義務があると定めています。そのような情報に関しては、通常、第195条XIV項が適用されるが、改正第71条11項が第195条XIV項およびその他のデータ保護に関する規定の例外であると明記されています。第195条XIV項では、試験結果又はその他の非開示データであって、その推敲に相当な努力を要し、かつ、製品の商業化についての許可を取得するための条件として政府機関に提出されたものを、許可を得ることなく漏えいし、利用し又は使用すること、を不正競争行為とみなしています。現時点では、改正第71条11項の範囲は国内機関に限られ、基本的にはANVISAが管理している情報を想定しています。
ボルソナロ大統領は、改正第71条8項、9項、10項、17項を拒否し、法案第3条も拒否したが、これに関する議論はまだ終わっていません。大統領の拒否については、議会が当該拒否について確認しなければなりません。憲法第66条4項によると、30日内に議会が拒否を確認する際、当該拒否を覆すためには議員の絶対過半数の賛成が必要となります[iii]。
そして、法律14.200/2021に関する大統領による拒否の議会による確認後、法律によって改正された条文の規則も必要となります。現在、改正前の第71条による強制実施権に関する規則は1999年に成功さった法令3.201によって定められています。そのため、当該改正を施行するためには。法令3.201の改正も併せて行うか、または、新しい規則を立法する必要があります。
[i] https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-and-biontech-announce-collaboration-brazils
[ii] https://presrepublica.jusbrasil.com.br/legislacao/1274849917/mensagem-432-21
[iii] すなわち、議員定数は594人のため298人の議員が拒否を覆す意見に賛成しなければなりません。
弾劾手続きと知的財産
今日は発明の日である。そのため、このトピックについて執筆しようと思った。現在、ブラジルでは大統領の弾劾が議論されている。でも、それは知財とどのような関係があるのであろう。
ただいま、ブラジルの下院の代議院(Câmara dos Deputados)にて、議員342人以上の投票により、弾劾裁判が起訴されることになった。この開始は、私の日本法の理解では、検察官が捜査を終わった後で、起訴する決定ににたような感じだと思う。そこで、弾劾裁判が上院の元老院(Senado)に上がる。上院では、最初、特別委員会によって、受理されるか否かの判断が行われる。受理されることになったら、大統領が一時的に解任され、弾劾裁判が行われる。
現政権、労働者党の政権は2003年からブラジルを指導している。最初はルラ政権、そして、その次にルーセフ政権。全部で13年、長い時期。13年間の知的財産に関する活動が判断し難いであるが、知的財産に悪い環境のイメージであろうが、この場合には間違いなく浮き沈みがあった。
ルラ政権における特許の環境は暗いといえる。2007年、エファヴィレンツの強制実施権の設定があった。現行法において、ブラジルのただひとつの強制実施権であった。そして、ルーセフ大統領が2012年に、実施権を延長した。また、ブラジル特許庁(INPI)への予算はかなり制限された。それ以外、多数の小さなアンチパテント的なこともあった(たとえば、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)の知財部をなくしたこと)。
一方、ルラ政権では、ブラジルにおける著作権の実務はかなり上達した。必要な改正が成り立たなかったが、著作権の意識を高めるところと、著作権の保護のポリシーには改善が間違いなくみられた。ソフトウェアのパイラシーの対策も改善してきた。
ルーセフ政権には、産業財産権の環境はかなり成功してきたと思う。ルラ政権で始めた工業活動がやっと知的財産の意識をでき、ルーセフ政権ではイノベーションが重要に思われた。
確かに、ブラジル特許庁(INPI)への必要な予算は出さなかったが、ブラジル特許庁にはある程度の自由をさせた結果、現在、ペーパーレス化がほとんど完成で、ブラジル特許庁は自分で自分のためにいろいろ改善ができた。また、2015年にWIPOがブラジルでオフィスを作った。また、アメリカとのPPHもできた。特に、最近、少しずつ上達しつつある感覚。
最終的に、弾劾の結果を問わずに、これからも、少しずつの進化をし続けていくと考えられる。したがって、ブラジルを長期的に考えて、まだ諦めるところではないと筆者の思いである。発明の日では、ブラジルは少し不安な状況にあるが、ブラジルにおい発明が大事にされている環境になってきている。益々になってきており、今の不安定が、それに影響を及ぼさない。
ホベルト