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ブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度の廃止
長い間にブラジル特許制度の特徴的な課題となったブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度は改正法により廃止されました。今回の改正法案は、2021年3月に公布された暫定措置令(MP[i])1040/21(MP1040/21)に基づく法案であり、 開業促進などのビジネス環境の改善を主な目的とするものでした。この暫定措置令1040/21には、医薬特許付与の要件として、ブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度を規定しているブラジル産業財産法第229-C条の廃止も含まれていました。なお、議会において暫定措置令1040/21の立法化について検討された際に一部修正されたため、転換法案15/2021(PLV 15/2021)となりました。
ブラジル産業財産法第229-C条に規定されているブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度とは、ブラジル特許庁(INPI)に出願された医薬品関連の特許出願の場合、ANVISAによる事前承認手続きのためにANVISAに送付され、ANVISAが公衆衛生への影響について審査し、事前承認の審査後、ブラジル特許庁に再び送付される制度であす。事前承認が受けた場合、ブラジル特許庁において特許要件に関する実体審査が行われます。一方、事前承認を受けられなかった場合、ブラジル特許庁は事前承認を受けていないことを理由として出願を拒絶します。当該制度は2001年のブラジル産業財産法の改正により導入され、製薬会社の大きな負担となっていました。
2021年6月23日に下院議会において暫定措置令1040/21が承認され、法案に転換されました。その後、8月4日、上院議会が同法案を可決したものの、法案の一部が改訂されたため、改めて下院議会に送付されました。8月5日、下院議会は、上院議会が提案した改訂案を却下し、8月6日にボルソナロ大統領による裁可のために送付されました。その後、ボルソナル大統領が同法案を裁可し、8月26日に第229-C条の廃止を定めた第57条を含む、法律14.195/21が成立しました。同法律により、医薬品関連の特許出願の際のブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度が廃止されることとなりました。

ブラジル特許庁は、8月31日に交付した公報[ii]において、法律14,195/2021による第229-C条の廃止に伴う医薬品関連の特許出願に関する手続きを公表しました。その内容は以下の通りです。
- 2021年8月27日以降、ブラジル特許庁はANVISAに医薬品関連特許出願を転送していない。
- ANVISAから返却された出願については、第229-C条が廃止されたことを示す通知コード7.7が交付され、その後、通常の審査手続きに戻る。
- 第229-C条の廃止前にANVISAによる事前承認の手続きが完了していた出願は、8月23日にブラジル特許庁に転送され、当該出願について従来通りに事前承認(通知コード7.5)または事前承認拒否(通知コード7.7)の通知コードが交付される。
- 2016年12月31日までに行われた出願で、バックログ解消計画に含まれている出願は、通常通りに「Preliminary Office Action」に関する通知コードの6.21または6.22が交付される。
しかしながら、ANVISAにおいて事前承認手続き待ちとなっていた出願の全てがブラジル特許庁において審査が行われようになるまでには少し時間かかるものの、この改正は製薬業界にとって大変ポジティブな情報といえます。日本企業に関しては、ANVISAにおよそ70件程度の出願が残っていたが、近いうちにブラジルの事前承認制度から逃れることができるようになります。
ご質問がありましたら、お気軽にご連絡ください。
[i] 暫定措置令(MP)とは、緊急性のある場合に限り、大統領が独自に発令できるものであり、法律と同様の拘束力を有します。なお、暫定措置令は、大統領による発令後、議会において立法化に関する検討が行われなければならない。
[ii] https://www.gov.br/inpi/pt-br/central-de-conteudo/noticias/inpi-divulga-procedimentos-apos-extincao-da-anuencia-previa-de-patentes-farmaceuticas
ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・判決とその効果について
2021年4月末から5月にわたって、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所(STF)は、ブラジル特許制度の特徴の一つである特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて審理を行っていました。本件の違憲訴訟の背景についてはこちらの投稿にて説明し、そして、本件の仮処分の判決についてこちらの投稿に説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。また、審理についてはこちらの投稿に説明しましたので、ご確認ください。違憲に関する決定および遡及効に関する最終決定は、5月14日に公報に以下のように公開[i]しました。9月2日に判決の全文が公開しましたが、439頁もありますので、全文についての詳細な解説は別の機会で分析したいと思いますが、本稿では判決の効果について説明します。
ブラジル最高裁判所は、多数決でブラジル産業財産法(LPI)第9279/1996号の第40条補項を違憲としました。 遡及効に関する決定について、ブラジル最高裁判所は、多数決により、ブラジル産業財産法(LPI)の第40条補項を違憲とする判決の効力を制限する決定を下し、同規定に基づいて付与された期間延長を維持するために、本審理議事録の公表よって遡及効がない(ex nunc)としました。したがって、第40条補項によって既に付与され、現在も有効である特許の有効性は維持されるが、次のものについては除外されます。(i)違憲の主張が含まれている2021年4月7日(本訴訟の仮処分の一部が認められた日)までに提訴された訴訟に関わる特許、及び(ii)医薬品及びプロセス、メディカルデバイス及びヘルスケアで使用するための材料に関連する特許であって期間延長が認められていたものについては、いずれの場合も遡及効(ex tunc)が働き、ブラジル産業財産法(LPI)の第40条補項に基づいて認められた期間延長が失われ、法律第9,279/1996号(ブラジル産業財産法(LPI))の第40条の部分で設定された特許の有効期間に従い、該当特許の期間延長の結果として既に生じていた具体的な保護の効果は失われます。
よって、ブラジル産業財産権法第40条補項が憲法違反になりました。ブラジルでは、意見訴訟の仕組みのことで、判決後の改正が必要ではありませんので、最終決定は公表してから特許権の存続期間を最低10年保証(実用新案権は7年)の特例がなくなりました。つまり、5月13日以降に登録となる特許は出願日から20年の存続期間になります。また、例外として、違憲判断が遡及適用される範囲は(i) 技術分野を問わず、仮処分の日である2021年4月7日までに提起された無効訴訟で、産業財産権法第40条補項の違憲性が争われている特許、または(ii)「医薬品、製法、ならびに健康目的で使用される装置および/または材料」に関する特許、に該当する登録特許になります。
ブラジル特許庁(INPI)の2021年5月18日では、遡及適用される範囲となる医薬品および医薬的な方法、および健康目的で使用される機器および/または素材に関する特許権(以下、「医薬品および医療機器等に関する特許権」と略記)への対応についても明記されました。医薬品および医療機器等に関する特許権は、以下の基準に基づき特定されます。対象の特許権は、官報への掲載および存続期間が変更された特許証の再発行により通知されます。
- 1. 事前承認を得るためにブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)に送られた特許権
- 2. 国際特許分類(IPC)が A61B, A61C, A61D, A61F, A61G, A61H, A61J, A61L, A61M, A61Nまたは H05Gである(世界知的所有権機関 (WIPO)により医薬品に関連する技術とされている)特許権
- 3. IPC分類が A61K/6, C12Q/1, G01N/33またはG16Hである特許権
- 4. 判決が code 19.1 で公表された特許権
- 5. 追加証明書
上記の基準に該当した場合に、特許存続の修正に関する通知(通知コード16.3)が出されますが、その通知が公表されてから60日以内にブラジル特許庁(INPI)に対して上記の基準の該当性を争うために不服申立を提供することができます。不服申立が認められた場合、存続期間は元の期間、すなわち特許付与日から10年に再変更されます。不服申立が認められなかった場合、存続期間の短縮は維持され、不服申立の却下は官報で通知されます。不服申立の却下に対しては、審判が可能です。
ブラジル特許庁(INPI)が既に5回に遡及適用の対象となる医薬品および医療機器等に関する特許権のリストを公表しました。つまり、以下の5回にブラジル特許庁(INPI)は違憲訴訟の影響を受け、存続期間が短縮された登録特許のリストが公表されました。
- 2021年5月18日の公報第2628号に、ブラジル産業財産法第229-C条による事前承認を受けた3,341件の医薬品関連特許。
- •2021年6月1日の公報第2630号に、世界知的所有権機関(WIPO)の基準によると、医薬品に関する技術に該当する2,114件の登録特許。
- 2021年6月22日の公報第2633号に、国際特許分類(IPC)のA61K/6、C12Q/1、G01N/33、及びG16Hのいずれかに分類された97件の特許。
- 2021年7月6日の公報第2635号に、複数の根拠に該当する496件の特許。
- 2021年8月10日の公報第2640号に、追加証明書(ブラジル独特の制度であり、進歩性を欠く場合であっても、発明の内容に加えた改良又は進展を保護するための出願形式のこと)の5件。
ブラジル特許庁(INPI)がまたさらに件数を出す可能性がありますので、モニタリングが必要になります。
また、複数の権利者がブラジル特許庁(INPI)に対して訴訟を提訴しています。そのような主張では、ブラジル特許庁(INPI)による審査が遅かったことで、存続期間の修正を請求しています。特に、ANVISA(衛生監督局)による事前承認の対象となった案件の場合は、ブラジル特許庁(INPI)とANVISAの間で、手続きの不安定があったために、事前承認の対象とならない特許の審査期間に比べて、存続期間の修正を求める訴訟が増えています。このような動きについてもモニタリングが必要になります。
以上、そもそも、世界中に特許法の規定が違憲であるか否か訴訟が珍しい上に、判決はブラジル特許制度に大きく影響を与えてきました。その響きはまだ続くと考えられますが、妥当な存続期間に関する議論については有益な論点を持ち上げた案件といえます。
ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・仮処分の判決について
現在、2021年4月時点で、連邦最高裁判所 (STF)は、ブラジル特許制度の特徴となる特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて判断しているところです。本件の違憲訴訟は2016年にブラジル共和国検事総長によって提訴されたものであり、本件の違憲訴訟の背景については前の投稿にて説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。
本件の争点は、ブラジル産業財産法の存続期間の特例措置が第 40 条補項は違憲か否かということです。第 40 条補項によると、特許付与までに 審査が10 年を超えた場合には、特許権存続期間の満了日が付与日より10年後までに自動的に延長されるとしています。具体的には、特許出願日から 20 年間、あるいは、特許発行日から 10 年間のいずれか長い方まで特許権が存続することになります。
第 40 条補項の違憲訴訟が4月7日に審理される予定でしたが、現在、審理は4月14日に延長された状態になりました。しかし、4月7日に違憲訴訟の報告担当の裁判官(Dias Toffoli判事)が第 40 条補項の違憲審査について自分の違憲を公表したとともに、2021年2月24日にブラジル共和国検事総長が請求した仮処分について判断しました。仮処分の請求を受付する根拠としたはコロナ過の問題として指摘されました。それは、もし仮に違憲が認められた場合、その時点で特許存続期間が満了されることとなる医薬特許が存在するので、仮処分の検討が必要との見解です。 実は、仮処分の判決文において、日本の製薬会社である富士フイルムホールディングス傘下の富山化学工業が製造する「ファビピラビル」が一例として取り上げられました。本件は、もともと審理開始は2021年5月26日に予定されていましたが、既に仮処分の請求が出され、今回の違憲審査の影響をコロナ問題に直接に与える可能性が高いため、審理が2021年4月に前倒しされることとなりました。
仮処分の判決と共に Dias Toffoli判事は報告担当としての意見を公表しました。それによって、86頁までにも及ぼす判決文(ポルトガル語の原文はこちらにてダウンロード可能)には、 Dias Toffoli判事が存続期間の特例措置が第 40 条補項は違憲である見解を説明しました。
Dias Toffoli判事の意見ではブラジル特許庁の審査遅延と特別期間を定めている第40条補項には関係があるという見解を示しました。Dias Toffoli判事によると、特許の保護の憲法上の根拠となる憲法第5条(XXIX)には、特許の保護は「社会的な利益および国の技術的・経済的発展を考慮して」、「産業上の発明を、完成した発明者にその利用のための一時的な特権を保障しなければ」なりません。これを踏まえると、憲法上では「社会的な利益」も「国の技術的・経済的発展」も検討しなければならないため、特許権は完全に私的な財産物として認めるべきではないとされました。
それに照らして、Dias Toffoli判事にとって第40条補項制度は存続期間の特別起算方法ではなくて、存続期間延長の制度として解釈すべきのことです。また、第40条補項に基づいて起算された存続期間は付与査定日まで存続期間の満了日を理解することができませんので、 第40条補項はブラジルの特許制度に不安定を与えると解釈されました。不安定な存続期間延長ですので、 第40条補項制度 は、法的安全性に反して、過剰な期間の独占権を与えるものです。それによって、憲法上で保護されている「行政の効率性の原則」(憲法第37条)、「経済秩序の原則」(第170条)、「健康に対する基本的権利」(第196条)が違反されているという見解です。よって、 第40条補項制度による存続期間は、医薬品へのアクセスに関して、国際的なシナリオと比較してブラジルにとって大きな不利益が生じているとされました。
国際的なシナリオの点では、比較法の検討について報告担当の裁判官がサンパウロ大学がリードする「Grupo Direito e Pobreza」(直訳すると「法と貧困問題グループ」)という学者のグループが提出した意見書に大きく影響を受けているといえます。このグループがアミカス・キュリエには、比較法の調査としてPatent Term Extension制度、Patent Term Adjustment制度、およびSupplementary Protection Certificates制度と第40条補項を比較しました。その調査結果により、自動的に適用されるのは第40条補項の大きな問題というのが報告担当の裁判官の意見です。
現行の産業財産法の立法過程を分析したところ、最初の法案には第40条補項が含められていなかったという指摘があり、後に条文が追加されたにも関わらず、追加された内容が十分に議論されていなかったという経緯がありました。報告担当の裁判官によると、第40条補項の追加は、立法当時審査遅延があったという主張がされたにも関わらず、ブラジル特許庁の審査遅延と旧法で保護されていなかった医薬発明は、保護対象に含まれたていたとのことです。すなわち、ブラジルがTRIPS協定によって可能とされた発展途上国に融通される権利を利用しなかったことが、現在のブラジル特許庁の審査遅延の理由という指摘です。
また、どうやら、報告担当の裁判官の感覚では、第40条補項制度があることで、出願人が意図的に審査を遅らせることが可能になるという判断が判決に含められています。つまり、「a pending application is better than no patent at all」という戦略が、一般的に全世界の出願人の戦略であるという考えです。
Dias Toffoli判事にとって、ブラジル産業財産法第44条の関係で、損害賠償の請求権が日数を遡ることになるため、特許が付与される前にも市場に影響を与えています。一方で、救済となる第44条と第210条により、審査遅延があった場合でも出願人・権利者には不利がないという意見と共に、 第40条補項の必要性がないとという意見が挙げられました。
その理論に基づいて、第 40 条補項が違憲であるという意見を明確にした上で、仮処分として医薬・製薬・メディカルデバイスに関する特許について最終判決が下されるまでに第 40 条補項が適用されないと命じました。そして、最終判決として、Dias Toffoli判事は、第 40 条補項の違憲を認める上で(イ)現在、違憲の主張が含めている訴訟中の特許の全件、および(ロ)医薬・製薬・メディカルデバイスに関する特許の全件について違憲の遡及効を、連邦最高裁判所(STF)に提案しました。
それに、2021年4月8日、Dias Toffoli判事が前日に出した仮処分の判決について追加の説明を公報(ポルトガル語の原文はこちらにてダウンロード可能)に公表しました。特に、仮処分の判決の下で第40条補項の拘束力が無効にされた範囲は、医薬・製薬・メディカルデバイスに関する特許出願のみということです。つまり、2021年4月8日以降、少なくとも違憲訴訟の判決が下されるまでに、審査が10年以上かかったとしても、医薬・製薬・メディカルデバイスに関する分野の特許出願であれば、第40条補項に基づく存続期間(つまり、付与日から10年間)を与えることは不可能です。改めて、報告担当の裁判官の提案は少なくとも医薬・製薬・メディカルデバイスに関する特許の全件について違憲の遡及効となるため、全件の存続期間を修正することを提案しました。
連邦最高裁判所(STF)の他の判事の意見を読み取れることが極めて困難ですので、最終判決に関する予想を付くことが難しいです。しかし、新しい情報があり次第、引き続き投稿します。ご質問がありましたら、お気軽にご連絡ください。
ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・背景について
現在、2021年4月時点で、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所 (STF)は、ブラジル特許制度の特徴となる特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて判断しているところです。本稿では、その違憲訴訟の背景を説明いたします。
ブラジルでは、特許権の存続期間は原則として出願日から20年、実用新案の存続期間は出願日から15年とされています(ブラジル産業財産権法第40条)。存続期間の延長は原則として不可能ですが、ブラジル産業財産権法第40条補項には存続期間の特別措置が設けられています。それは、特許の場合は登録後最低10年間、実用新案の場合は登録後最低7年間の権利期間が保障される規定です。したがって、特許の出願から登録までに10年以上かかった場合には、出願日から20年を超えて権利が存続することがあり、また、実用新案の出願から登録までに8年以上かかった場合には、出願日から15年を超えて権利が存続することがあります。
ブラジルでは、特許および実用新案の審査遅延は昔から問題となっています。その理由の一つは、ブラジル特許庁が独立的な財政を有しておらず、審査期間の短縮を含む審査レベルの向上に当たっては、ブラジルの議会にて定められた予算しか使えないからです。また、ブラジル特許庁の公務員雇用規則では、特許審査官になるために当該技術分野の修士課程以上の学位取得が要件となっているので、いくら予算があっても、人気の技術分野では審査官を雇うことが難しいということも理由の一つです。その関係で、現行のブラジル産業財産法が立法された1996年から、審査遅延の懸念に伴い、ブラジル産業財産権法第40条補項に対する特別措置が設けられました。
審査遅延の懸念があったとはいえ、立法された時点ではブラジル産業財産権法第40条補項の特別措置は実質的に例外規定となり、基本的にその規定に基づいて登録される案件はないだろうと予想されていました。しかし、2000年代にブラジル特許庁が直面した様々な問題により、審査遅延の問題がより酷くなり、現在、存続期間中の特許登録の46%が特別措置に基づいて付与された状況になっています。審査遅延が著しく酷かった2014年から2016年には、特許登録のおよそ7割が特別措置に基づいて登録されました。 第40条補項の特別措置が原則のように適用されることになりましたら、問題として取り上げられるようになりました。特に医薬・製薬の分野では、多くの人にこれは大問題としてとられました。
具体例として、2013年11月04日、ブラジルの ファインケミカル・バイオテクノロジー産業協会(Abifina)は、特別措置が違憲であることを主張するための違憲訴訟 (訴訟番号:ADI 5061)を連邦最高裁判所 (STF)に対して提訴しましたが、最終的に、原告適格がないことが理由で違憲訴訟が却下されました。原告適格の問題を解消するために、ブラジル共和国検事総長は2016年に、再度連邦最高裁判所(STF)にブラジル産業財産法の特別措置が違憲である旨を認めるための違憲訴訟(訴訟番号:ADI 5529)を提訴しました。
ブラジルの現行の憲法は、1988年に制定されました。114の項目から構成されており、複数の規則が細かく定められています。また、法律で定める厳密な規定と、抽象的な原則によって認められる解釈規定があります。この解釈の仕方はブラジル独特の法制度であり、広い解釈が認められるのは、ブラジルにおいては一般的なこととなります。ブラジル産業財産権法第40条補項の特別措置が違憲であると主張するに当たり、特別措置は、4つの憲法上の保護を受ける原則に違反すると主張されています。
- 特別措置に基づく存続期間が制度上認められるのかという問題、特許が付与されるまで最長の存続期間を知ることができないので、特別措置の存在が憲法第5条で保障されている法的安定性に違反しているということ。
- 特別措置に基づく存続期間を認められた特許が、通常の特許より長く保護されているので、延長された存続期間によって、憲法第170条IV項で保障されている自由競争の原則に違反していること。・特別措置では、案件ごとの登録存続期間が異なる可能性があるので、憲法第5条I項で保障されている法の下の平等の原則に違反していること。
- 特別措置が、ブラジル特許庁が効率的に審査業務を行わなくても済むことになるので、憲法第37条で保障されている公役の効率性の原則に違反していること。
本件の議題については、必然的にデリケートなトピックとなり、それに関する複数の意見(訴訟内においてアミカス・キュリエとしても)が挙げられています。また、本件は、ブラジル産業財産法に関する違憲訴訟が連邦最高裁判所(STF)で裁定されるのは初めてのことなので、かなり注目が集められています。連邦最高裁判所(STF)に適用されるブラジルの手続法によると、判決により以下のように2つの異なる結果がもたらされることになります。
- i) 連邦最高裁判所(STF)の過半数が10年の特許権の存続期間の合憲性を認めた場合、この条文が維持される。
- ii) 連邦最高裁判所(STF)の過半数が10年の特許権の存続期間が違憲であることを決定した場合、本規定は違憲と宣言される。
違憲訴訟の判決の効力は、原則として全てのの訴訟事件および行政事件(特許出願の審査を含めて)に影響を与えるため、連邦最高裁判所(STF)は、必要に応じて拘束力の調整をすることができます(違憲訴訟に関する法、法律9868/99第27条)。例えば、この規定が違憲と判断された場合、その拘束力は判決が公表された後に生じることとなり、原則通りであれば現在この規定によって特別措置が適用されている特許登録はすべて無効とされることになります。ただし、判決の拘束力が調整されることによって、判決公表前に特別規定が適用された権利については権利自体が無効とされることなく、原則的な存続期間(特許の場合は出願日から20年)に短縮されたり、あるいは引続き10年間の存続期間が保障されることもあり得ます。
ブラジル特許庁および政府は、2016年から様々なバックログ解消対策(PPHを含めて)を実施しているので、ブラジル産業財産法の特別措置が懸念事項となり、当該違憲訴訟への影響を与える可能性はさほど大きくないと主張しています。その理由としては、ブラジル特許庁および政府が、現行の主なバックログ解消対策のプログラムである予備審査(Preliminary Office Action)を通して、「2021年6月までにバックログの8割を解消する」ことを目指しているからです。
個人的には、ブラジル特許庁がバックログ解消に努めているのは間違い無いと感じていますが、「2021年6月までにバックログの8割を解消する」という目標が達成できるとは限らず、それだけで全ての審査遅延の問題が解決されるとは思いません。ブラジル特許庁が安定的且つ効率的な実務ができるようになるまで、ブラジル 産業財産法の特別措置は、健全な特許制度を確立するために必要な措置と言えるでしょう。
本件の審理は4月中に終わる予定ですので、ブラジルにおける特許制度について近年の最も影響力のある判決ですので、注目せざるを得ないものといえます。
ブラジル特許庁は特許要件を規制する特許審査基準第II部を決議第169/2016号を公布。
ブラジル特許庁は特許要件に関する特許出願の審査のための審査基準を実施することになった(総合的な審査基準の第ⅠⅠ部 – “Bloco IⅠ” -)2016年7月26日に決議第169/2016号を2016年7月26日に発効した。
ブラジル特許庁では現在3つの審査基準の特許出願の審査基準を実施している。 2013年4月には、ブラジル特許庁は決議第85/2013号を公表することによって、実用新案出願のための審査基準を制定した。2013年12月には、ブラジル特許庁は決議第124/2013号を公表することによって、特許出願の方式的な要件や出願の書き方についての総合的な審査基準の第Ⅰ部(“Bloco I”)を制定した。また、2015年3月には、ブラジル特許庁は決議第144/2015号を公表することによって、バイオテクノロジー分野の特許出願の審査基準を制定した。
さらに、コンピュータソフトウエア関連発明審査基準も存在する。その審査基準は2012年にパブリックコメントのために公開されたが、実施をする予定はまだ不明である。
決議第169/2016号のポルトガル語版はこちらからダウンロードが可能である。
ソース:INPI
Temer大統領代行に紹介されたブラジル産業財産庁「INPI」の業務改善のテーマ
INPIの業務改善は、ブラジルにおけるイノベーション強化に資するとして、「国家産業連盟」(「CNI」というブラジル国内で経団連に相当する団体)の中の一つの委員会である「イノベーションのためのビジネス動員」(「MEI」)が提案している主要な課題である。このトピックについて、7月8日にブラジリアにて、Temer大統領代行が参加したイベントで議論された。
MEI指導者委員会の会議は、ブラジリアにあるCNIの本部で行われた。CNI会長のRobson Andrade氏による管理の下、CNIが主催したイベントには、ブラジル国内で活動している大手企業150社のリーダーが集まった。

©Agência Brasil
またイベントには、以下の参加者らが出席した:ブラジル開発商工省「MDIC」からFernando Furlan副大臣;科学技術イノベーション・通信省「MCTI」からGilberto Kassab大臣;教育省「MEC」からJose Mendonca Filho大臣; ブラジル国立経済社会開発銀行「BNDES」からMaria Silvia Marques社長;そして、INPIからLuis Pimentel長官等。
イベント中に行われたプレゼンテーションにおいて、ブラジルの化粧品会社ナチュラより参加したPedro Passos氏は、国内にイノベーションを起こすには、INPIの審査期間を減少させる必要性があると訴えた。そのためには、INPIの業務改善を目指し、経済的なリソースを与え、人員を増やし、国内外における協力を高めなければならないと主張した。
イノベーションに関する議論において、CNI会長のRobson Andrade氏は、Temer大統領代行がイノベーションを促進するために必要な施策を支援する約束をした旨を述べ、Robson Andrade氏は、その施策の一例として、INPIの特許審査における時間の短縮を挙げた。
MEIはイノベーションの促進に向けた6点の計画を掲げており、その中の1点目が知的財産に関連するものである。
– イノベーションと産業財産の規制の枠組みの強化。
– イノベーションのための政府の枠組みの強化。
– イノベーションのための資金調達。
– イノベーションによるグローバル化。
– イノベーションのための人材育成。
– イノベーションができる中小企業の促進。
INPI長官は、ブラジル産業財産法20周年を記念したCNIインタビューにて、INPIにおける主な4つの分野の改善について説明した。
(1)過去の採用試験に合格した者の雇用による人員の増加;
(2)知的財産権の出願の審査における最適化と自動化;
(3)インフラの改善とブラジル産業財産法第239条に関わるINPIの経済的自律性を求めることによるガバナンスの改善;
(4)審査品質の向上、審査官の研修、および知財に関する意識向上のための国内および国際的な協力。
ソース:INPI
「ブラジル」新しい商標権利不要求(Disclaimer)の制度
ブラジル特許庁は2016年5月31日に決議166/2016号を公表した。新決議によると商標の権利不要求(Disclaimer)の新たな制度を設定した。決議166/2016号によって、6月1日から公告される商標登録証明書には、下記の文言が記載される:
「当商標登録に関する商法権の効力は1996年5月14日付法律第9279号第124条 II項、VI項、 VIII項、XVIII項および第XXI項の規定に制限される。」
そのテキストは、権利不要求(Disclaimer)が付けられた商標登録のすべての証明書にそのままで掲載される。ご参考までに、言及された条文は日本商標法でいうと下記のようになります:
第124条II項 => 第3条1項5号
第124条VI項 => 第3条1項1号2号3号
第124条VIII項 => 第3条1項1号2号3号
第124条XVIII項 => 第3条1項1号2号3号
第124条第XXI項 => 第4条1項18号
権利不要求(Disclaimer)の制度では、商標中の主要な一構成要素が、その部分単独では排他的な権利が与えられないことを明確にするための制度である。決議166/2016号の前に、商標登録毎に特定な権利不要求(Disclaimer)のテキストが付されていた。権利不要求(Disclaimer)のテキストは登録毎に異なっていたため、それに関する不服申立が多数に出されていた。これから、スタンダードな権利不要求(Disclaimer)のテキストを設定することによっては、不服申立の件数を減らす効果があると期待されています。不服申立の件数を減らすをことができれば、バックログ解消の一つのツールとして働くと期待される。
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ソース:INPI
弾劾手続きと知的財産
今日は発明の日である。そのため、このトピックについて執筆しようと思った。現在、ブラジルでは大統領の弾劾が議論されている。でも、それは知財とどのような関係があるのであろう。
ただいま、ブラジルの下院の代議院(Câmara dos Deputados)にて、議員342人以上の投票により、弾劾裁判が起訴されることになった。この開始は、私の日本法の理解では、検察官が捜査を終わった後で、起訴する決定ににたような感じだと思う。そこで、弾劾裁判が上院の元老院(Senado)に上がる。上院では、最初、特別委員会によって、受理されるか否かの判断が行われる。受理されることになったら、大統領が一時的に解任され、弾劾裁判が行われる。
現政権、労働者党の政権は2003年からブラジルを指導している。最初はルラ政権、そして、その次にルーセフ政権。全部で13年、長い時期。13年間の知的財産に関する活動が判断し難いであるが、知的財産に悪い環境のイメージであろうが、この場合には間違いなく浮き沈みがあった。
ルラ政権における特許の環境は暗いといえる。2007年、エファヴィレンツの強制実施権の設定があった。現行法において、ブラジルのただひとつの強制実施権であった。そして、ルーセフ大統領が2012年に、実施権を延長した。また、ブラジル特許庁(INPI)への予算はかなり制限された。それ以外、多数の小さなアンチパテント的なこともあった(たとえば、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)の知財部をなくしたこと)。
一方、ルラ政権では、ブラジルにおける著作権の実務はかなり上達した。必要な改正が成り立たなかったが、著作権の意識を高めるところと、著作権の保護のポリシーには改善が間違いなくみられた。ソフトウェアのパイラシーの対策も改善してきた。
ルーセフ政権には、産業財産権の環境はかなり成功してきたと思う。ルラ政権で始めた工業活動がやっと知的財産の意識をでき、ルーセフ政権ではイノベーションが重要に思われた。
確かに、ブラジル特許庁(INPI)への必要な予算は出さなかったが、ブラジル特許庁にはある程度の自由をさせた結果、現在、ペーパーレス化がほとんど完成で、ブラジル特許庁は自分で自分のためにいろいろ改善ができた。また、2015年にWIPOがブラジルでオフィスを作った。また、アメリカとのPPHもできた。特に、最近、少しずつ上達しつつある感覚。
最終的に、弾劾の結果を問わずに、これからも、少しずつの進化をし続けていくと考えられる。したがって、ブラジルを長期的に考えて、まだ諦めるところではないと筆者の思いである。発明の日では、ブラジルは少し不安な状況にあるが、ブラジルにおい発明が大事にされている環境になってきている。益々になってきており、今の不安定が、それに影響を及ぼさない。
ホベルト
ブラジル特許庁、オンラインで意匠登録証発行
ブラジル特許庁は、決議INPI/PR 159/2016によって、オンラインサイト上で意匠登録証の発行が可能となった。2016年3月の時点では、2014年から2015年にかけて意匠登録証7,207件の発行が可能となっている。オンライン上での意匠登録証の取り方は下記のようになる:
1) ブラジル特許庁サイトへアクセス(http://www.inpi.gov.br)
2) トップ画面右上の「Acesso Rápido」と書いてる部分に「Faça uma busca」(検索する)をクリック
3) 該当の申請番号を入力
4) 入力後の次ページにて、意匠登録付与による登録証発行が確認できる
5) 「PDF」のアイコンをクリックし、本人認証(captcha)ページが現れる
6) 登録情報に間違いがないか確認した後、意匠登録証の発行準備が整う、ユーザーは登録証をダンロードし保管
7) 発行された意匠登録証の上部、枠内に正式な電子サインが表示されているかを確認
実は、それによってブラジル特許等は大きな問題を解決しようとしている。登録証のための紙をサプライする企業との問題があり、2014年から意匠の登録証がずっと発行されていない。特許の場合、決議PR 13/2013によって2013年3月から原則的に特許証が電子的に発行されており、紙媒体の発行には追加料金がかかる。また、商標の登録証について、決議137/2014によって既に2014年9月から原則として電子的に発行することになっている。
それで、出願から登録証発行までの一連の意匠出願手続きが電子的に行うことが可能。ブラジル特許庁は2015年4月22日より決議146/2015に基づいて電子出願システムを開始し、意匠電子出願を受理するようになった。
また、ブラジル特許庁(INPI)は、電子出願に関する新たな条項を含む、意匠登録出願の要件及び手続を規定する規則第44号を2015年12月1日付で公告した。規則第44号は2013年の規則第33号を無効化するものではあるが、旧規則の多くの要件を維持している。最も重要な改正は以下の通り:
●新規則では、変形例についてであっても、明細書及びクレームの提出が選択的なものとなった。
●新規則では、デザインの客体は、標準的(regular)な実線で表さなければならない。このことは、立体形状に表された装飾模様は、立体形状を破線や点線で表して装飾模様を実線で表現するのではなく、平面的に表現しなければならないことを意味する。
●願書においては「出願分野(Application Field)i」の記載が必須であり、その記載はロカルノ分類に従うのが望ましい。
ブラジルで意匠は、特許および商標と異なり、無審査主義を採っています。従って、意匠電子出願システムの制定によってブラジル特許庁は意匠に関するバックログを本格的に減少させると期待できる。
ソース:INPI
ブラジル特許庁はバックログ解消のためのタスクフォース
2016年に、ブラジル特許庁が自分のサービスを改善することを目指し、様々な企画をたている。その中では、新長官ピメンテル氏はPCT出願の審査、意匠登録のための実体審査(*1)、および特許と商品に関する審判の判断のためにタスクフォースを組む企画がたてられた。
タスクフォースはブラジル特許庁の従業員58人によって構成され、 2016年1月1日から2016年12月31日の1部に勤務時間の一部をタスクフォースの仕事にわりあてる予定である。
タスクフォースは4つのワークグループに分けられる。第一グループは32人の審査官と9人のテクニシャン(*2)によって構成され、 PCTの国内移行を手掛ける予定である。第2グループは審査官1人、テクニシャン3人とスタッフ6人で様々な手数料の納付を確認し、電子化する予定である。目標は、ブラジル特許庁PCT部門とタスクフォースの努力によって、 2016年のうちに6万5,800件の審決(*3)を下す予定である。
第3グループは審査官1人、テクニシャン1人によって構成され、意匠登録の実体審査に手掛ける予定である。 2015年11月現在、実体審査待ちとして1万3,969件があった。目標は、 2016年において9,581件の審決(*3)を下す予定である。
第4グループは上位専門家1人とテクニシャン4人によって構成され、審判部(CGREC)をサポートする予定である。 2016年において、商標に関する審判3,080件と特許に関する審判22件を解決する予定である。
筆者にとって、それは良いニュースだといえる。経済的に不景気な状態にあるブラジルでは、必要となっている新しい審査官の採用がしばらくできなくなった。そこでは、現在いる審査官の生産性を向上させなければならないが、それは簡単にできるものではない。その意味で、緊急状態対策のような計画が望ましいと筆者が思う。しかし、タスクフォースの仕事は、参加している人の生産性に大きな影響を与えない程度にするのがチャレンジえだろう。しかし、特許の審査もそうであるが、意匠の問題も厳しい状況である。
ソース:INPI
*1 ブラジルでは、意匠登録について無審査主義を採っているが、登録後に経理の有効性を確認するために、実体審査を請求することが可能である。それは、日本で言うと実用新案に関する技術評価書を申請するみたいな制度である。
*2 ブラジルでは、審査官(正式的にブラジルポルトガル語で「pesquisador」という)になるために修士学位以上の習得が要件とされている。テクニシャンは、審査に関する仕事一部ができ、それ以外審査官をサポートするものである。また、ソフトウェアや半導体の登記を使おうものである。テクニシャン(ポルトガル語で「tecnologista」という)になるために大学卒業だけでなれる。上位専門家(ポルトガル語で「especialista sênior」という)は、2006年に作られた役職であり、技術に関する高度な検討を始め、技術的な知識を普及を含めて知的財産に関するプロジェクトを計画することもできるものである。上位専門家になるために、博士学位以上をを有することが要件とされ、 10年以上の経験が必要とされる。
*3 ここで「審決」と言うと、付与査定や拒絶査定のみならず、拒絶理由通知やその他のオフィスアクションも含めている。