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ブラジルにおける強制実施権の改正に関する法案12/2021(PL 12/2021)/法律14.200/2021

 ブラジル産業財産法には、立法当初からTRIPS協定に基づく強制実施権制度が設けられています。特許法68条ないし74条において強制実施権について規定されており、特許権者が現地生産をしていない場合(68条1項a)及び特許権者が製品を輸入している場合(68条4項)は、第三者に対して並行輸入に関する強制実施権を付与することができます。

 ブラジルでは、2021年1月の新型コロナウイルスのパンデミックによる国家予防接種計画の迅速化を理由とした法案第12/2021(PL 12/2021)が議会に提出されました。同法案は、反ボルソナロ政権が提案した法案であるため、議会と連邦政府の間に敵対心を生むことになりました。一方、同法案はTRIPS協定に違反する可能性がある問題を複数抱えていたため、世界中から注目を集めていました。

 法案12/2021は、2021年7月6日、下院において修正された上で可決され、8月11日には、上院において61対13の賛成多数により可決されました。8月13日、可決された法案がボルソナル大統領の裁可のために転送されました。

 新型コロナウイルスのパンデミック対策が切っ掛けではあったものの、議会で可決された問題のある条文を含む同法案が立法されないようにボルソナル大統領には同法案を拒否する期待がありました。ボルソナロ政権は、同法案を全面的に拒否することを検討していたようではあるが、拒否した場合、議会の一部からの敵意が増える可能性があるため、大統領官房庁は様々な機関と直接に意見交換を行っていました。外務省をはじめ経済省、健康省、科学技術省などのいくつかの省庁が拒否に関する異なる意見を提案しており、拒否すべき事項の優先順位を決めることが課題となりました。特に、外務省は、TRIPS協定に違反する可能性を意識していました。また、ボルソナロ政権は、新型コロナウィルスパンデミック対策に関する強制実施権の議論は、ブラジルにおいてのみ行うべきではなく、他国とともにWTOの場で行うべきだと考えていました。その後、9月2日にボルソナロ大統領が部分拒否付きで法案12/2021を裁可し、法律14.200/2021が成立した。成立した法律14.200/2021には、問題視されていた条文が一部拒否されているものの、依然として問題視されていた一部の条文が残っています。

 最初の問題は、改正後の強制実施権の範囲です。今回の改正において産業財産法第71条の強制実施権の要件が変更されます。現行のブラジル産業財産法第71条では、強制実施権を制定するためには、「emergência nacional(national emergency)」または「interesse público(public interest)」のいずれかに該当しなければならなかった。しかしながら、改正後の規定では、強制実施権を制定するためにもう一つの選択肢として「estado de calamidade pública de âmbito nacional(nationwide state of public calamity)」を導入した。改正法では、「estado de calamidade pública de âmbito nacional」の解釈がポイントになります。同法案では、改正第71条17項として、公衆衛生上の国家的または国際的な緊急事態が発生した場合に、強制実施権は、行政府のみならず、議会の立法によって付与することを可能にしていたが、同規定がボルソナロ大統領によって拒否されました。また、その他の問題視されている条文として、法律14.200/2021によって新たに規定された第71-A条です。同条文によると、人権的な理由によって、医薬品分野の製造能力が低い又は製造能力がない国に輸出するために、輸出のための実施を含める強制実施権が可能になります。

 改正後の強制実施権の仕組みとして緊急事態が制定された日から30日以内に緊急事態の対策に有効な技術について、その理由を付けて強制実施権の対象とする特許のリストを公開しなければなりません。さらに、ブラジル国内のニーズに対応可能なライセンス契約の対象となる特許、およびLOR(ライセンス・オブ・ライト)の対象となる特許も当該リストに含めなければなりません。(改正第71条2項)。当該リストの作成に当たり、ブラジル連邦政府は公益機関、研究機関等に相談すべきとされています(改正第71条3項)。また、民間機関、国家および地方公共団体が当該リストに特許出願および特許権の追加を要求することができます(改正第71条4項)。公開後、ブラジル連邦政府は、30日以内(30日間延長可能)に、リストアップされた特許出願および特許権について評価を行い、ライセンシー候補のブラジルにおける製造に関する技術的および経済的能力の有無、そして、国家緊急事態に対応するための強制実施権の有用性の有無について判断されます(改正第71条6項)。ブラジル連邦政府は、特許権者および出願人が公衆衛生上の緊急事態の必要性に必要な量、価格、時期の条件で国内需要を満たすことを確約した場合、対応する特許および特許出願を上記リストから除外することができます。そのために、改正では(a)国内実施、(b)自発ライセンス、および(c)国内の販売、が認められます(改正第71条7項)。

 上記、改正後第71条2項のリストに関する点として、法案の第3条に、新型コロナウイルスに起因する緊急事態の場合、改正されたブラジル産業財産法第71条で定められた30日間の期限は、改正法が執行された日から開始されると定められていたが、当該規定は拒否されました。したがって、新型コロナウイルスのパンデミックについては、新しい緊急事態宣言が必要となります。

 強制実施権成立後の課題として、強制実施権の対象となる特許権は、強制実施権の報酬額が確定するまで、当該特許に関連するロイヤリティーは製品販売価格の1.5%と定められています(改正第71条13項)。ロイヤリティーは登録された特許についてのみ与えられる。特許出願の強制実施権の場合は、登録後、報酬を請求することになります(改正第71条14項)。しかし、特許出願の場合、強制実施権が制定されると、優先的に審査が行われます(改正第71条15項)。ただ、強制実施権の対象になっていても、国家衛生監督局(ANVISA)による最終的または臨時的な製造販売承認を受けている商品しか販売することができない(改正第71条16項)ため、販売されない商品に対しては必然的にロイヤリティーが生じません。

 改正後の規定では、強制実施権の付与にかかわらず、政府は、特許権者と善意による技術協力契約の締結および販売の交渉を優先すると定められています(改正第71条18項)。その例として、8月26日、ファイザー社とバイオンテック社は、新型コロナウイルスのワクチンのラテンアメリカにおける製造業者として、ブラジルのEurofarma Laboratorios社とライセンス契約を締結した。Eurofarma社は、米国内のファイザー社の施設から医薬品の素材を入手し、2022年から完成品の製造に関わる最終の工程を担当する予定です[i]

 ボルソナロ大統領に拒否された条文の中には、幅広い問題を含むと考えられていた条文が含まれています。それは、特許権者または特許出願人に対して、技術を実施するために複数の情報(営業秘密を含む)の提供を要求することを可能にする規定です(改正第71条8項)。また、同様にバイオ医薬品に関する生体由来材料およびその他の材料の提供を要求することを可能にしています(改正第71条9項)。そして、情報および材料が提供されなかった場合、特許出願が記載要件に基づいて拒絶されることになり、登録特許の場合は、記載要件違反としてブラジル特許庁の職権による無効審判の対象となります(改正第71条10項)。大統領が拒否権を行使する際に発行する意見書によると、ノウハウは企業が独占的に占有するものであるため、その公開を求める規定は公共の利益に反すると判断したとされていました。さらに、すべての特許出願は、当業者が特許を実施できるように十分な情報が記載されていなければなりません。また、この規定は、情報の範囲が広いため、特許制度に混乱をもたらす可能性があると指摘されていました[ii]

 一方、拒否されなかったが問題を含んでいる規定として改正第71条11項があります。改正第71条11項によると、強制実施権の対象となる特許権および特許出願の主題に関連する情報、データ、書類を有する公的機関は、特許権および特許出願の実施に有用なすべてのものを共有する義務があると定めています。そのような情報に関しては、通常、第195条XIV項が適用されるが、改正第71条11項が第195条XIV項およびその他のデータ保護に関する規定の例外であると明記されています。第195条XIV項では、試験結果又はその他の非開示データであって、その推敲に相当な努力を要し、かつ、製品の商業化についての許可を取得するための条件として政府機関に提出されたものを、許可を得ることなく漏えいし、利用し又は使用すること、を不正競争行為とみなしています。現時点では、改正第71条11項の範囲は国内機関に限られ、基本的にはANVISAが管理している情報を想定しています。

 ボルソナロ大統領は、改正第71条8項、9項、10項、17項を拒否し、法案第3条も拒否したが、これに関する議論はまだ終わっていません。大統領の拒否については、議会が当該拒否について確認しなければなりません。憲法第66条4項によると、30日内に議会が拒否を確認する際、当該拒否を覆すためには議員の絶対過半数の賛成が必要となります[iii]

 そして、法律14.200/2021に関する大統領による拒否の議会による確認後、法律によって改正された条文の規則も必要となります。現在、改正前の第71条による強制実施権に関する規則は1999年に成功さった法令3.201によって定められています。そのため、当該改正を施行するためには。法令3.201の改正も併せて行うか、または、新しい規則を立法する必要があります。

ホベルト


[i] https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-and-biontech-announce-collaboration-brazils

[ii] https://presrepublica.jusbrasil.com.br/legislacao/1274849917/mensagem-432-21

[iii] すなわち、議員定数は594人のため298人の議員が拒否を覆す意見に賛成しなければなりません。

9月 20, 2021 at 16:16 コメントを残す

ブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度の廃止

長い間にブラジル特許制度の特徴的な課題となったブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度は改正法により廃止されました。今回の改正法案は、2021年3月に公布された暫定措置令(MP[i])1040/21(MP1040/21)に基づく法案であり、 開業促進などのビジネス環境の改善を主な目的とするものでした。この暫定措置令1040/21には、医薬特許付与の要件として、ブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度を規定しているブラジル産業財産法第229-C条の廃止も含まれていました。なお、議会において暫定措置令1040/21の立法化について検討された際に一部修正されたため、転換法案15/2021(PLV 15/2021)となりました。

ブラジル産業財産法第229-C条に規定されているブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度とは、ブラジル特許庁(INPI)に出願された医薬品関連の特許出願の場合、ANVISAによる事前承認手続きのためにANVISAに送付され、ANVISAが公衆衛生への影響について審査し、事前承認の審査後、ブラジル特許庁に再び送付される制度であす。事前承認が受けた場合、ブラジル特許庁において特許要件に関する実体審査が行われます。一方、事前承認を受けられなかった場合、ブラジル特許庁は事前承認を受けていないことを理由として出願を拒絶します。当該制度は2001年のブラジル産業財産法の改正により導入され、製薬会社の大きな負担となっていました。

 2021年6月23日に下院議会において暫定措置令1040/21が承認され、法案に転換されました。その後、8月4日、上院議会が同法案を可決したものの、法案の一部が改訂されたため、改めて下院議会に送付されました。8月5日、下院議会は、上院議会が提案した改訂案を却下し、8月6日にボルソナロ大統領による裁可のために送付されました。その後、ボルソナル大統領が同法案を裁可し、8月26日に第229-C条の廃止を定めた第57条を含む、法律14.195/21が成立しました。同法律により、医薬品関連の特許出願の際のブラジル国家衛生監督局(ANVISA)による事前承認制度が廃止されることとなりました。

 ブラジル特許庁は、8月31日に交付した公報[ii]において、法律14,195/2021による第229-C条の廃止に伴う医薬品関連の特許出願に関する手続きを公表しました。その内容は以下の通りです。

  • 2021年8月27日以降、ブラジル特許庁はANVISAに医薬品関連特許出願を転送していない。
  • ANVISAから返却された出願については、第229-C条が廃止されたことを示す通知コード7.7が交付され、その後、通常の審査手続きに戻る。
  • 第229-C条の廃止前にANVISAによる事前承認の手続きが完了していた出願は、8月23日にブラジル特許庁に転送され、当該出願について従来通りに事前承認(通知コード7.5)または事前承認拒否(通知コード7.7)の通知コードが交付される。
  • 2016年12月31日までに行われた出願で、バックログ解消計画に含まれている出願は、通常通りに「Preliminary Office Action」に関する通知コードの6.21または6.22が交付される。

 しかしながら、ANVISAにおいて事前承認手続き待ちとなっていた出願の全てがブラジル特許庁において審査が行われようになるまでには少し時間かかるものの、この改正は製薬業界にとって大変ポジティブな情報といえます。日本企業に関しては、ANVISAにおよそ70件程度の出願が残っていたが、近いうちにブラジルの事前承認制度から逃れることができるようになります。

ご質問がありましたら、お気軽にご連絡ください。

ホベルト


[i] 暫定措置令(MP)とは、緊急性のある場合に限り、大統領が独自に発令できるものであり、法律と同様の拘束力を有します。なお、暫定措置令は、大統領による発令後、議会において立法化に関する検討が行われなければならない。

[ii] https://www.gov.br/inpi/pt-br/central-de-conteudo/noticias/inpi-divulga-procedimentos-apos-extincao-da-anuencia-previa-de-patentes-farmaceuticas

9月 15, 2021 at 20:01 コメントを残す

ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・判決とその効果について

2021年4月末から5月にわたって、ブラジルの最上級裁判所であり、主に憲法裁判所としての役割を担っている連邦最高裁判所(STF)は、ブラジル特許制度の特徴の一つである特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて審理を行っていました。本件の違憲訴訟の背景についてはこちらの投稿にて説明し、そして、本件の仮処分の判決についてこちらの投稿に説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。また、審理についてはこちらの投稿に説明しましたので、ご確認ください。違憲に関する決定および遡及効に関する最終決定は、5月14日に公報に以下のように公開[i]しました。9月2日に判決の全文が公開しましたが、439頁もありますので、全文についての詳細な解説は別の機会で分析したいと思いますが、本稿では判決の効果について説明します。

 ブラジル最高裁判所は、多数決でブラジル産業財産法(LPI)第9279/1996号の第40条補項を違憲としました。 遡及効に関する決定について、ブラジル最高裁判所は、多数決により、ブラジル産業財産法(LPI)の第40条補項を違憲とする判決の効力を制限する決定を下し、同規定に基づいて付与された期間延長を維持するために、本審理議事録の公表よって遡及効がない(ex nunc)としました。したがって、第40条補項によって既に付与され、現在も有効である特許の有効性は維持されるが、次のものについては除外されます。(i)違憲の主張が含まれている2021年4月7日(本訴訟の仮処分の一部が認められた日)までに提訴された訴訟に関わる特許、及び(ii)医薬品及びプロセス、メディカルデバイス及びヘルスケアで使用するための材料に関連する特許であって期間延長が認められていたものについては、いずれの場合も遡及効(ex tunc)が働き、ブラジル産業財産法(LPI)の第40条補項に基づいて認められた期間延長が失われ、法律第9,279/1996号(ブラジル産業財産法(LPI))の第40条の部分で設定された特許の有効期間に従い、該当特許の期間延長の結果として既に生じていた具体的な保護の効果は失われます。

よって、ブラジル産業財産権法第40条補項が憲法違反になりました。ブラジルでは、意見訴訟の仕組みのことで、判決後の改正が必要ではありませんので、最終決定は公表してから特許権の存続期間を最低10年保証(実用新案権は7年)の特例がなくなりました。つまり、5月13日以降に登録となる特許は出願日から20年の存続期間になります。また、例外として、違憲判断が遡及適用される範囲は(i) 技術分野を問わず、仮処分の日である2021年4月7日までに提起された無効訴訟で、産業財産権法第40条補項の違憲性が争われている特許、または(ii)「医薬品、製法、ならびに健康目的で使用される装置および/または材料」に関する特許、に該当する登録特許になります。

ブラジル特許庁(INPI)の2021年5月18日では、遡及適用される範囲となる医薬品および医薬的な方法、および健康目的で使用される機器および/または素材に関する特許権(以下、「医薬品および医療機器等に関する特許権」と略記)への対応についても明記されました。医薬品および医療機器等に関する特許権は、以下の基準に基づき特定されます。対象の特許権は、官報への掲載および存続期間が変更された特許証の再発行により通知されます。

  • 1. 事前承認を得るためにブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)に送られた特許権
  • 2. 国際特許分類(IPC)が A61B, A61C, A61D, A61F, A61G, A61H, A61J, A61L, A61M, A61Nまたは H05Gである(世界知的所有権機関 (WIPO)により医薬品に関連する技術とされている)特許権
  • 3. IPC分類が A61K/6, C12Q/1, G01N/33またはG16Hである特許権
  • 4. 判決が code 19.1 で公表された特許権
  • 5. 追加証明書

上記の基準に該当した場合に、特許存続の修正に関する通知(通知コード16.3)が出されますが、その通知が公表されてから60日以内にブラジル特許庁(INPI)に対して上記の基準の該当性を争うために不服申立を提供することができます。不服申立が認められた場合、存続期間は元の期間、すなわち特許付与日から10年に再変更されます。不服申立が認められなかった場合、存続期間の短縮は維持され、不服申立の却下は官報で通知されます。不服申立の却下に対しては、審判が可能です。

ブラジル特許庁(INPI)が既に5回に遡及適用の対象となる医薬品および医療機器等に関する特許権のリストを公表しました。つまり、以下の5回にブラジル特許庁(INPI)は違憲訴訟の影響を受け、存続期間が短縮された登録特許のリストが公表されました。

  • 2021年5月18日の公報第2628号に、ブラジル産業財産法第229-C条による事前承認を受けた3,341件の医薬品関連特許。
  • •2021年6月1日の公報第2630号に、世界知的所有権機関(WIPO)の基準によると、医薬品に関する技術に該当する2,114件の登録特許。
  • 2021年6月22日の公報第2633号に、国際特許分類(IPC)のA61K/6、C12Q/1、G01N/33、及びG16Hのいずれかに分類された97件の特許。
  • 2021年7月6日の公報第2635号に、複数の根拠に該当する496件の特許。
  • 2021年8月10日の公報第2640号に、追加証明書(ブラジル独特の制度であり、進歩性を欠く場合であっても、発明の内容に加えた改良又は進展を保護するための出願形式のこと)の5件。

ブラジル特許庁(INPI)がまたさらに件数を出す可能性がありますので、モニタリングが必要になります。

また、複数の権利者がブラジル特許庁(INPI)に対して訴訟を提訴しています。そのような主張では、ブラジル特許庁(INPI)による審査が遅かったことで、存続期間の修正を請求しています。特に、ANVISA(衛生監督局)による事前承認の対象となった案件の場合は、ブラジル特許庁(INPI)とANVISAの間で、手続きの不安定があったために、事前承認の対象とならない特許の審査期間に比べて、存続期間の修正を求める訴訟が増えています。このような動きについてもモニタリングが必要になります。

以上、そもそも、世界中に特許法の規定が違憲であるか否か訴訟が珍しい上に、判決はブラジル特許制度に大きく影響を与えてきました。その響きはまだ続くと考えられますが、妥当な存続期間に関する議論については有益な論点を持ち上げた案件といえます。

ホベルト


[i]Licks事務所による英訳はこちらをクリックすることによって確認可能です。

9月 10, 2021 at 16:05 コメントを残す

ブラジルの特許権存続期間の特例措置の違憲訴訟・仮処分の判決について

現在、2021年4月時点で、連邦最高裁判所 (STF)は、ブラジル特許制度の特徴となる特許権存続期間の特例措置が違憲か否かについて判断しているところです。本件の違憲訴訟は2016年にブラジル共和国検事総長によって提訴されたものであり、本件の違憲訴訟の背景については前の投稿にて説明しましたので、ご関心がありましたら、ご確認ください。

本件の争点は、ブラジル産業財産法の存続期間の特例措置が第 40 条補項は違憲か否かということです。第 40 条補項によると、特許付与までに 審査が10 年を超えた場合には、特許権存続期間の満了日が付与日より10年後までに自動的に延長されるとしています。具体的には、特許出願日から 20 年間、あるいは、特許発行日から 10 年間のいずれか長い方まで特許権が存続することになります。

第 40 条補項の違憲訴訟が4月7日に審理される予定でしたが、現在、審理は4月14日に延長された状態になりました。しかし、4月7日に違憲訴訟の報告担当の裁判官(Dias Toffoli判事)が第 40 条補項の違憲審査について自分の違憲を公表したとともに、2021年2月24日にブラジル共和国検事総長が請求した仮処分について判断しました。仮処分の請求を受付する根拠としたはコロナ過の問題として指摘されました。それは、もし仮に違憲が認められた場合、その時点で特許存続期間が満了されることとなる医薬特許が存在するので、仮処分の検討が必要との見解です。 実は、仮処分の判決文において、日本の製薬会社である富士フイルムホールディングス傘下の富山化学工業が製造する「ファビピラビル」が一例として取り上げられました。本件は、もともと審理開始は2021年5月26日に予定されていましたが、既に仮処分の請求が出され、今回の違憲審査の影響をコロナ問題に直接に与える可能性が高いため、審理が2021年4月に前倒しされることとなりました。 

仮処分の判決と共に Dias Toffoli判事は報告担当としての意見を公表しました。それによって、86頁までにも及ぼす判決文(ポルトガル語の原文はこちらにてダウンロード可能)には、 Dias Toffoli判事が存続期間の特例措置が第 40 条補項は違憲である見解を説明しました

Dias Toffoli判事の意見ではブラジル特許庁の審査遅延と特別期間を定めている第40条補項には関係があるという見解を示しました。Dias Toffoli判事によると、特許の保護の憲法上の根拠となる憲法第5条(XXIX)には、特許の保護は「社会的な利益および国の技術的・経済的発展を考慮して」、「産業上の発明を、完成した発明者にその利用のための一時的な特権を保障しなければ」なりません。これを踏まえると、憲法上では「社会的な利益」も「国の技術的・経済的発展」も検討しなければならないため、特許権は完全に私的な財産物として認めるべきではないとされました。

それに照らして、Dias Toffoli判事にとって第40条補項制度は存続期間の特別起算方法ではなくて、存続期間延長の制度として解釈すべきのことです。また、第40条補項に基づいて起算された存続期間は付与査定日まで存続期間の満了日を理解することができませんので、 第40条補項はブラジルの特許制度に不安定を与えると解釈されました。不安定な存続期間延長ですので、 第40条補項制度 は、法的安全性に反して、過剰な期間の独占権を与えるものです。それによって、憲法上で保護されている「行政の効率性の原則」(憲法第37条)、「経済秩序の原則」(第170条)、「健康に対する基本的権利」(第196条)が違反されているという見解です。よって、 第40条補項制度による存続期間は、医薬品へのアクセスに関して、国際的なシナリオと比較してブラジルにとって大きな不利益が生じているとされました。

国際的なシナリオの点では、比較法の検討について報告担当の裁判官がサンパウロ大学がリードする「Grupo Direito e Pobreza」(直訳すると「法と貧困問題グループ」)という学者のグループが提出した意見書に大きく影響を受けているといえます。このグループがアミカス・キュリエには、比較法の調査としてPatent Term Extension制度、Patent Term Adjustment制度、およびSupplementary Protection Certificates制度と第40条補項を比較しました。その調査結果により、自動的に適用されるのは第40条補項の大きな問題というのが報告担当の裁判官の意見です。

現行の産業財産法の立法過程を分析したところ、最初の法案には第40条補項が含められていなかったという指摘があり、後に条文が追加されたにも関わらず、追加された内容が十分に議論されていなかったという経緯がありました。報告担当の裁判官によると、第40条補項の追加は、立法当時審査遅延があったという主張がされたにも関わらず、ブラジル特許庁の審査遅延と旧法で保護されていなかった医薬発明は、保護対象に含まれたていたとのことです。すなわち、ブラジルがTRIPS協定によって可能とされた発展途上国に融通される権利を利用しなかったことが、現在のブラジル特許庁の審査遅延の理由という指摘です。

また、どうやら、報告担当の裁判官の感覚では、第40条補項制度があることで、出願人が意図的に審査を遅らせることが可能になるという判断が判決に含められています。つまり、「a pending application is better than no patent at all」という戦略が、一般的に全世界の出願人の戦略であるという考えです。

Dias Toffoli判事にとって、ブラジル産業財産法第44条の関係で、損害賠償の請求権が日数を遡ることになるため、特許が付与される前にも市場に影響を与えています。一方で、救済となる第44条と第210条により、審査遅延があった場合でも出願人・権利者には不利がないという意見と共に、 第40条補項の必要性がないとという意見が挙げられました。

その理論に基づいて、第 40 条補項が違憲であるという意見を明確にした上で、仮処分として医薬・製薬・メディカルデバイスに関する特許について最終判決が下されるまでに第 40 条補項が適用されないと命じました。そして、最終判決として、Dias Toffoli判事は、第 40 条補項の違憲を認める上で(イ)現在、違憲の主張が含めている訴訟中の特許の全件、および(ロ)医薬・製薬・メディカルデバイスに関する特許の全件について違憲の遡及効を、連邦最高裁判所(STF)に提案しました。

それに、2021年4月8日、Dias Toffoli判事が前日に出した仮処分の判決について追加の説明を公報(ポルトガル語の原文はこちらにてダウンロード可能)に公表しました。特に、仮処分の判決の下で第40条補項の拘束力が無効にされた範囲は、医薬・製薬・メディカルデバイスに関する特許出願のみということです。つまり、2021年4月8日以降、少なくとも違憲訴訟の判決が下されるまでに、審査が10年以上かかったとしても、医薬・製薬・メディカルデバイスに関する分野の特許出願であれば、第40条補項に基づく存続期間(つまり、付与日から10年間)を与えることは不可能です。改めて、報告担当の裁判官の提案は少なくとも医薬・製薬・メディカルデバイスに関する特許の全件について違憲の遡及効となるため、全件の存続期間を修正することを提案しました。

連邦最高裁判所(STF)の他の判事の意見を読み取れることが極めて困難ですので、最終判決に関する予想を付くことが難しいです。しかし、新しい情報があり次第、引き続き投稿します。ご質問がありましたら、お気軽にご連絡ください。

ホベルト

4月 14, 2021 at 06:27 2件のコメント

ブラジル特許庁は特許要件を規制する特許審査基準第II部を決議第169/2016号を公布。

ブラジル特許庁は特許要件に関する特許出願の審査のための審査基準を実施することになった(総合的な審査基準の第ⅠⅠ部 – “Bloco IⅠ” -)2016年7月26日に決議第169/2016号を2016年7月26日に発効した。

normas do inpi
ブラジル特許庁では現在3つの審査基準の特許出願の審査基準を実施している。 2013年4月には、ブラジル特許庁は決議第85/2013号を公表することによって、実用新案出願のための審査基準を制定した。2013年12月には、ブラジル特許庁は決議第124/2013号を公表することによって、特許出願の方式的な要件や出願の書き方についての総合的な審査基準の第Ⅰ部(“Bloco I”)を制定した。また、2015年3月には、ブラジル特許庁は決議第144/2015号を公表することによって、バイオテクノロジー分野の特許出願の審査基準を制定した。

さらに、コンピュータソフトウエア関連発明審査基準も存在する。その審査基準は2012年にパブリックコメントのために公開されたが、実施をする予定はまだ不明である。

決議第169/2016号のポルトガル語版はこちらからダウンロードが可能である。

ホベルト

ソース:INPI

7月 27, 2016 at 16:06 コメントを残す

Temer大統領代行に紹介されたブラジル産業財産庁「INPI」の業務改善のテーマ

INPIの業務改善は、ブラジルにおけるイノベーション強化に資するとして、「国家産業連盟」(「CNI」というブラジル国内で経団連に相当する団体)の中の一つの委員会である「イノベーションのためのビジネス動員」(「MEI」)が提案している主要な課題である。このトピックについて、7月8日にブラジリアにて、Temer大統領代行が参加したイベントで議論された。

MEI指導者委員会の会議は、ブラジリアにあるCNIの本部で行われた。CNI会長のRobson Andrade氏による管理の下、CNIが主催したイベントには、ブラジル国内で活動している大手企業150社のリーダーが集まった。

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©Agência Brasil

 

 

またイベントには、以下の参加者らが出席した:ブラジル開発商工省「MDIC」からFernando Furlan副大臣;科学技術イノベーション・通信省「MCTI」からGilberto Kassab大臣;教育省「MEC」からJose Mendonca Filho大臣; ブラジル国立経済社会開発銀行「BNDES」からMaria Silvia Marques社長;そして、INPIからLuis Pimentel長官等。

イベント中に行われたプレゼンテーションにおいて、ブラジルの化粧品会社ナチュラより参加したPedro Passos氏は、国内にイノベーションを起こすには、INPIの審査期間を減少させる必要性があると訴えた。そのためには、INPIの業務改善を目指し、経済的なリソースを与え、人員を増やし、国内外における協力を高めなければならないと主張した。

イノベーションに関する議論において、CNI会長のRobson Andrade氏は、Temer大統領代行がイノベーションを促進するために必要な施策を支援する約束をした旨を述べ、Robson Andrade氏は、その施策の一例として、INPIの特許審査における時間の短縮を挙げた。

MEIはイノベーションの促進に向けた6点の計画を掲げており、その中の1点目が知的財産に関連するものである。

– イノベーションと産業財産の規制の枠組みの強化。
– イノベーションのための政府の枠組みの強化。
– イノベーションのための資金調達。
– イノベーションによるグローバル化。
– イノベーションのための人材育成。
– イノベーションができる中小企業の促進。

INPI長官は、ブラジル産業財産法20周年を記念したCNIインタビューにて、INPIにおける主な4つの分野の改善について説明した。
(1)過去の採用試験に合格した者の雇用による人員の増加;
(2)知的財産権の出願の審査における最適化と自動化;
(3)インフラの改善とブラジル産業財産法第239条に関わるINPIの経済的自律性を求めることによるガバナンスの改善;
(4)審査品質の向上、審査官の研修、および知財に関する意識向上のための国内および国際的な協力。

ホベルト

ソース:INPI

7月 12, 2016 at 15:41 コメントを残す

ブラジル特許庁はスポーツ品に関する意匠出願の優先審査を設定

今年で行われるリオデジャネイロオリンピックの関係で、ブラジルでは様々なスポーツ品が販売される予定である。それゆえ、スポーツ品の模倣品対策については意匠権が大きな役割を果たす。

ただし、ブラジル特許庁では意匠権の審査のバックログも、特許と同じく、問題である。ブラジルでは意匠権制度は無審査主義を導入しているが、登録後に実体審査を請求することができる。実体審査が行われたか否かという点は特に権利使用するときに考慮される。上記に照らして、ブラジル特許庁は決議第167/2016を制定し、意匠権の早期審査を導入した。早期審査を請求する要件は2つ。 1つ目は意匠出願・登録はスポーツ品に関するもの。 2つ目は出願が2016年6月16日までに行われたこと。早期審査の申請は2016年6月30日までに行わなければならない。

それはブラジル特許庁からの小さな対応とは言えるが、ブラジル特許庁はそもそも問題を意識して対応しようとしているのが良いことだと考えている。
それについてまたご質問がある方はお気軽にご連絡下さい。

ホベルト

ソース:INPI

6月 22, 2016 at 08:41 コメントを残す

ブラジル特許審査官の増加

2016年6月9日、ブラジル特許庁(INPI)では70人の特許審査官が就任する。現在、実際に審査をしている審査官は193人しかおらず、今回の就任によって特許審査官の人数が36%の増加となる。就任式には、新しい開発商工省(MDIC)大臣、Marcos Pereira氏が参加する予定である。今回の審査官増加によりバックログ対策としての効果が期待される。

また、今年中に更に30人の特許審査官と40人の商標審査官の辞令が交付されることが期待されている。ブラジルでは、公務員試験に合格した後、官報にて辞令が公表されるが、辞令の公表が行われなければ就任できない。

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Marcos Pereira大臣

ブラジルでは、予算の問題があるため、辞令交付まで至るかについて確実な見通しはない。しかし、ブラジル特許庁(INPI)に認められた公務員全体の1820人の中で、実際に在任しているのは、現在924人のみである。MarcosPereira大臣はその点においても問題意識を持っている。

現在、ブラジル特許庁(INPI)のバックログ問題はかなり深刻であり、審査平均時間は10.9年、また審査待ちの件数は21.1万件に至っている。2015年に、ブラジルでは特許出願33043件があった。今年の1月~4月の間、9822件の特許出願が提出された。そのため、バックログ対策の必要性が高い。

ブラジルについてご質問がありましたら、お気軽にご連絡ください。

ホベルト

ソース:INPIDCI

6月 9, 2016 at 11:48 コメントを残す

ブラジル特許庁、意匠登録出願のための新規則を発表

ブラジル特許庁(INPI)は、電子出願に関する新たな条項を含む、意匠登録出願の要件及び手続を規定する規則第44号を12月1日付で公告した。

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規則第44号は2013年の規則第33号を無効化するものではあるが、旧規則の多くの要件を維持している。最も重要な改正は以下の通り:
●新規則では、変形例についてであっても、明細書及びクレームの提出が選択的なものとなった。
●新規則では、デザインの客体は、標準的(regular)な実線で表さなければならない。このことは、立体形状に表された装飾模様は、立体形状を破線や点線で表して装飾模様を実線で表現するのではなく、平面的に表現しなければならないことを意味する。
●願書においては「出願分野(Application Field)」の記載が必須であり、その記載はロカルノ分類に従うのが望ましい。

ホベルト

ソース:INPI

12月 10, 2015 at 18:00 コメントを残す

ブラジル・米国の2国間の特許協力の展開

2015年11月19日、ブラジル特許庁長官であるピメンテルPimentel氏はUSPTOとの特許審査ハイウェイ(PPH)を正式にするための了解覚書に調印した。その後、2015年11月23日に、USPTO長官であるMichelleK. Lee 氏が了解覚書に調印をした。当了解覚書によって、両国間の特許審査に関する協力のパイロットプロジェクトが確立される。ブラジル政府によると、特許審査ハイウェイ(PPH)のプロジェクトの目標のひとつはブラジルからの特許の国際出願を奨励することである。

2015年7月30日、ブラジル開発商工省(MDIC)大臣Armando Monteiro氏とアメリカ合衆国商務長官であるPenny Pritzker氏がブラジルとアメリカの間の貿易関係を深めるための了解覚書を調印した。その広い貿易関係の了解覚書は表題の特許審査ハイウェイ(PPH)の切っ掛けとなった。

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ブラジル特許庁Pimentel長官

2国間の調印以来、ブラジル特許庁で11月16日、17日にかけ両国の代表が協力の実現に向け話し合いがなされた。会議で議論された問題の中で、米国特許商標庁とブラジル特許庁間の技術協力の可能性等に関する話し合いが行われた。それで、11月19日に特許審査ハイウェイ(PPH)のみならず、製品認証および統制・規制に関する了解覚書が合意された。

Pimentel長官によると、当特許審査ハイウェイ(PPH)はとりあえず2年間のパイロットプログラムとして行われるが、その時期に置いてアメリカとブラジルの間に行われている出願が早期に審査することが可能になる。当特許審査ハイウェイ(PPH)は、ブラジルにおいてますます必要とされている技術の促進に照らして、Armando Monteiro大臣とブラジル連邦政府の努力からなったイニシアチブである。

【近年、ブラジルにおいて投資を受けて行われた技術革新から結果が生じ、その結果を保護する興味がますますある】ーPimentel長官

ブラジル・アメリカ特許審査ハイウェイ(PPH)の形式

当特許審査ハイウェイ(PPH)により、両国のいずれかで、特許の付与した者は、その後、パイロット・プロジェクトの対象となる出願についてPPHによる審査を請求することができる。

当特許審査ハイウェイ(PPH)はパイロットとして施行され、試行期間は2年間または各庁150件受理するまでの期間のいずれか先に到達した時である。ブラジル特許庁は、米国から石油・ガス産業に関する出願しか受け付けないことになる。また、ブラジル特許庁は試行開始日から遡って3年以内の出願及び試行開始日以降の出願を対象とする。一方、ブラジル企業は、USPTOに対していかなる技術分野に関する出願についてPPHによる審査を請求することができる。

USPTOまたはブラジル特許庁に出願された同一の最先の出願を有する同一のファミリに属する出願のみが対象となる。それに、出願は公開済みでなければならない。また、USPTOまたはブラジル特許庁がRO(Receiving Office)として受け取ったPCTも対象となる。

当特許審査ハイウェイ(PPH)は、ブラジル法を尊重し、国際条約も定められている審査の独立の原則を維持しながら設立された。この意味で、了解覚書では、各国の特許庁は独立的に出願の最終的な審決(付与もしくは拒絶)を判断することができる。

了解覚書実態は既に公開された(こちらによってアクセス可能)が、ブラジル特許庁のPPHのための規則がまだ未公開であるが、公開したとき常に報告するので、ご期待下さい。

ホベルト

ソース:INPI

11月 27, 2015 at 16:00 コメントを残す

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