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ブラジルにおけるエリクソンv. アップルの紛争について

 2022 年12 月9 日,エリクソンとアップルは,世界中で行われていた5G に関するクロスライセンス紛争が和解によって解決することとなった。今回の和解は,米国及びドイツでの係争が進展したことにより,合意に至ったものであると考えられる。しかし,今回の紛争においてあまり認識されていないのは,最近の南米における紛争の動きが,和解に至るきっかけの一つであったということである。

 エリクソンとアップルの特許紛争は,エリクソンの5G 関連特許のポートフォリオに対する適切なライセンス料の支払いについて両社が合意に達することができずに,ライセンス契約が更新されなかったにもかかわらずアップルが技術を使い続けたことで2021 年10 月以降に開始されたものである。この紛争は,いくつかの法域で展開された。エリクソンは,米国の連邦地方裁判所及び米国国際貿易委員会(ITC)において,アップル社に対する訴えを提起した。さらに,エリクソンはドイツ,英国,オランダ,ブラジル及びコロンビアにおいても訴訟を提起した。これに対し,アップルはドイツ及び米国で訴訟を提起し,また,米国特許商標庁(USPTO)の審判部において数十件の無効審判及び異議申立を行った。

 和解に至った南米での動きは,まずコロンビアにおける当該紛争の進展である。2022 年7 月,ボゴタの裁判所(Juzgado 043 Civil del Circuito de Bogotá)は,アップルがエリクソンの5G の標準必須特許(SEP)を侵害していると判断し,アップルがコロンビアで5G を利用するiPhone 及びiPad の輸入・販売することを禁止する判決を出した。また,同裁判所は,アップル社に対して,世界の他の場所で訴訟差止命令(anti-suit injunction)を求める行為を禁止する差止命令(anti-anti-suitinjunction)を出した。
 ブラジルでは,エリクソンが,アップルが5G に関する3 件の特許権を許可なく使用したことに基づき,差し止めと損害賠償を請求する訴訟を起こした。エリクソンはリオデジャネイロ州裁判所に仮処分を請求したが却下された。エリクソンは当該判決を不服として即時抗告を行い,リオデジャネイロ高等裁判所は仮処分を却下したリオデジャネイロ州裁判所の決定を覆し,差止の仮処分請求を認めた上に特許の使用料金に関して暫定的に年額2 億米ドルの損害賠償額を設定した。アップル社はリオデジャネイロ高等裁判所の判決を不服として上訴し,ブラジル司法最高裁判所(STJ)で審議されることになった。

 和解の3 日前の12 月6 日,ブラジル司法最高裁判所(STJ)が標準必須特許(SEP)(及び5G)について初めて審理した。ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,標準必須特許(SEP)の権利者が差止の仮処分を請求することを可能と認めた。ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,リオデジャネイロ高等裁判所がアップルに対して下した仮処分命令が適法であることを確認した。それによって,ブラジル最高裁判所(STJ)は,アップルに対し,ブラジル国内における5G 携帯端末の販売の差し止め,もしくはエリクソンに端末1 台につき3 ドルを直ちに支払うよう命じた。なお,ブラジル司法最高裁判所(STJ)が設定した端末1 台につき3 ドルという金額は,従前の契約に基づいて可能となる金額から定められているが,エリクソンが契約更新時に求めた5 ドルよりは低い金額となっている。この結果,エリクソンが勝訴したリオデジャネイロ高等裁判所の判決が出た2022 年4 月以降,アップルがブラジルで販売したiPhone 及びiPad 1 台につき3 ドルの金額を遡って支払わなければならないとなるはずであった。ブラジルにおいては,アップルが2020 年に発売したiPhone12から5G 技術が導入され,iPad の場合は,2021 年に発売されたiPad Pro から5G が利用できるようになっている。

 ブラジル司法最高裁判所(STJ)の論理的根拠は,標準必須特許(SEP)に対して差止請求の仮処分を認めない理由はなく,FRAND 宣言を差止命令による救済に影響を与えない契約法の問題としてとらえるべきであるとした。ただし,エリクソンは,ブラジルの裁判所によるロイヤリティの設定を望んでおらず,新たなライセンス契約が締結されるまでの間,侵害を差し止める決定を求めていただけであった。しかし,ブラジル司法最高裁判所(STJ)の判決によれば,アップルは,ブラジルにおけるエリクソンの特許の使用について補償しなければならないとした。結果的に,ブラジル司法最高裁判所(STJ)は,差止命令がホールドアウトを防ぐためのツールになるということを示したことになる。侵害訴訟において最終的に支払われる損害賠償だけでは,標準必須特許(SEP)に関する適切な救済手段とは考えなかったのである。

 現在,ブラジルは世界第6 位のスマートフォン市場である。従って,この決定がエリクソン社に和解を成立させるための更なる動機を与えたと言っても過言ではない。また,ブラジルでは標準必須特許(SEP)の差止請求(及び差止請求の仮処分)が認められる可能性があることにより,標準必須特許(SEP)に関わる紛争に関して重要な場所に
なりえる。事実,エリクソンとアップルの紛争だけでなく,最近ではノキアがオッポと,Vringo がZTE と,DivX がサムスンとTCL との紛争においてブラジルが重要な場所となっている。2012 年から2019 年にかけて,ブラジルにおける標準必須特許(SEP)の侵害に関する訴訟はたった6 件しかなかった。一方,2020 年から2022 年にかけて,8 件の標準必須特許(SEP)侵害訴訟が提起されおり,ブラジルがグローバルなFRAND 訴訟に関して影響を与える地域になりつつある。

ホベルト

3月 31, 2023 at 17:20 コメントを残す

コロンビア:関連商品に対して商標使用と一部不使用取消審決

2015年1月22日、行政裁判の最高機関である国家審議会(Consejo de Estado)がコロンビア特許庁であるSIC(Superintendencia de Industria y Comercio)による不使用取消審決を破棄した。判決を下したところ、関連商品に対する商標の使用によって不使用取消審判を防ぐことができると判断した。

商標権の権利者は第30類の全ての商品を指定していた「EL LOBO」商標を有している。不使用取消審判の請求人である「Museo El Turron」は複数の商品についての不使用に基づいて不使用取消審判をかけ、SICは本件商標の指定商品を「砂糖、風味料、酵母及びベーキングパウダー」に制限した。

el lobo

被請求人「MOLINO EL LOBO」は国家審議会に対してSICの審決を取り消すための手続きを出した。使用が証明された商品が競業上で不使用取消審決で取り消された商品と関連しているため、審決が妥当ではないという主張であった。「MOLINO EL LOBO」の主張によって、競業上で関連している商品についての不使用によって取り消された場合に、そのような商品に対してある程度に類似する商標が他の者に使用されたら、関連性による混同の恐れが生じ得る。

Consejo de Estadoは、コロンビアに適用される知的財産法であるアンデス共同体*決議486号**についての適切な解釈をアンデス共同体司法裁判所(Tribunal de Justicia de la Comunidad Andina)に求めた***。アンデス共同体司法裁判所の意見によると、使用が証明された商品と取り消された商品は、いずれも消費用又は保存用に加工した植物からの食品であり、同じような販路で販売されるものであるため、本件において、一部不使用取消審決が妥当ではないとのこと。

このことで、Consejo de Estadoが不使用取消審決を破棄した。

執筆者にとってアンデス共同体はとてもエキサイティングな市場であり、決議486号はとても面白い法律と思う。知的財産に関する事件はアンデス共同体司法裁判所までいくこともとても興味深い。

ホベルト

ソース:INTA Bulletin
Consejo de Estado事件番号:11001032400020080041900

* アンデス共同体(Comunidad AndinaもしくはCAN)は、ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルーの4ヶ国からなる統括的経済開発と均衡および自治を目的とした国家共同体である。
** 決議486号(Decisión 486)はアンデス共同体における共通知的財産権法である。
*** 欧州において、欧州司法裁判所(ECJ)が統一的な法の解釈を行っていると似たような形式で、アンデス共同体司法裁判所はアンデス共同体の決議の統一的な法の解釈を行っている。

6月 3, 2015 at 16:19 コメントを残す

「DELL」はコロンビアで著名商標を認識取得

米国企業DELLが、他社の商標出願に対する異議申立を通して、「DELL」という商標が著名商標と認められることができた。

パナマの他社がコロンビア特許庁(商工監督局管轄(SIC)、英:“Superintendence of Industry and Commerce”)に対して20分類、家具について、「DELL」という文字商標を出願しました。コロンビアでは出願公開から60 日以内に、第三者による異議申立が可能である。その際にアメリカ合衆国のパソコンメーカーDELLが異議申立した際に、マーケティングレポート及びコロンビア国内の消費者における「DELL」商標と出訴表示としての認識についてアンケートの結果等を提出した。

コロンビア特許庁(商工監督局管轄(SIC))が著名性を認定した判決に、次のことを述べた:
「複数の宣伝・広告の書類に「DELL」の商標を通知することで、その標章とパソコン及びテクノロージー等の強い関係を表した、そして
「・・・」
マーケットアンケートの結果により、コロンビア国内において「DELL」は第4位として周知され、認識さいれているブランドだと理解できた。」

コロンビアはアンデス共同体のメンバーであり、知財法はアンデス協定決議第 486 号:知的財産共通制度となる。
コロンビアでは、著名商標と認定されるために、第三者の抵抗性が必要である。行政段階の異議申立や無効審判、あるいは、司法の無効訴訟を通さなければ、著名商標として登録することができない。そして、司法のレベルでは、コロンビアの裁判に対して可能であり、場合によってアンデス共同体の裁判に対する裁判についても可能の場合もあるようである。

カラペト・ホベルト

このレポートはTriana Uribe & Michelsenの弁護士Fernando Triana氏とGrace Sutachan氏のテキストに基づいて作成した。

7月 31, 2012 at 21:33 コメントを残す


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